ピーター・ターチン「フェミニストから見た人類の社会進化:デヴィッド・グレーバーさんかなり変ですよ その2」(2019年2月16日)

人類が進化する過程で、不平等の水準は劇的に変化してきている:祖先である類人猿の社会階層から、狩猟採集民の平等主義の小規模社会に、そして権力・地位・富の分配で大きな格差がある大規模な階層的社会へと

A Feminist Perspective on Human Social Evolution
February 16, 2019 by Peter Turchin

人類が進化する過程で、不平等の水準は劇的に変化してきている:祖先である類人猿の社会階層から、狩猟採集民の平等主義の小規模社会に、そして権力・地位・富の分配で大きな格差がある大規模な階層的社会へと。枢軸時代(紀元前800~200年)は、不平等の進化において、別の注目に値すべき変容――より大きな平等主義への移行の始まりがもたらされており、現在まで続いている。結果、不平等の軌跡はZのように見えるため、私はZ曲線と呼ぶことを以前から提唱している。

最近、デヴィッド・グレーバーとデヴィッド・ウェングローは、この人類史の物語の重要な部分に意義を申し立てた。

何世紀にもわたって、私達は社会的不平等の起源について単純なお話を自身に言い聞かせてきました。人類史において、ほとんどの期間、人は狩猟採集民として小さな平等主義の部族で暮らしていました。その後、農業が始まり、それに伴い私有財産権がもたらされました。続いて、都市が出現し、これは文明の出現に他なりません。

この物語には根本的な問題があります。真実ではないのです。

グレーバー&ウェングロー(G&W)への全般的な批判については、前回の私のエントリ〔本サイトでの翻訳版はここ〕を参照して欲しい。私は、G&Wの言うこと全てに反対しているわけではない(例えば、農耕の採用と大規模で複雑な社会の台頭との関係は、通常描かれている以上に複雑である。)しかし、彼らのエッセイの中心的な考え、「狩猟採集による平等主義的な更新世から、不平等な初期国家への移行はなかった」は間違えている。

確かに、狩猟採集民の平等主義について我々が語る時、どんな人であれ、狩猟採集民が完全にして絶対的に平等だったとは思っていない。男性と女性、子供と大人の間に、身体的な能力や社会的影響における違いがあったのは、当たり前である。我々が長期的視点から、人類の不平等性の進化について話題にする場合、「不平等の相対的な水準の変化」を意図している。〔訳注:長期の文明や文化の変化の視点に立って、格差や階層がどのように登場したのについて話題にすること。〕

第二に、狩猟採集民による平等主義の実践において、おそらく最も重要なのが、彼らが現代人よりも「身の丈に沿った生活をしていた」ことだけに原因があるのではない、ということである。狩猟採集民が、今日の我々から観て極端なまでの平等主義だった理由に、彼らが逆「ドミナンス・ヒエラルキー(支配順列・優性階層)」を実践していたことがある。クリス・ボームがこの考えの重要な提唱者だ(G&Wは一切言及していない)。この逆のヒエラルキーが実践されていた目的は、肉体的に強力で、攻撃的な男性を抑圧するためである。狩猟採集社会では、(ボームが言うような)「成り上がり者」が皆を虐めるのを防ぐために、ゴシップや嘲笑、追放、さらに死刑に至るまで様々な社会的メカニズムが使用されている。

このような〔逆ヒエラルキーの実践〕メカニズムが、更新世における典型的な社会的配列の正確な説明であるかどうかを、どのようにして知ることができるだろう? 人類学者のカミラ・パワーによる、グレーバー&ウェングローへの批判は、この要旨の良い要約となっている。

カミラ・パワーは自称ラディカル・フェミニストだが、後述するように、彼女の政治的見解は、彼女の学問的知見を阻害していない。ただ、彼女の見解は、より広範な争点である狩猟採集民の平等主義に関するいくつかの考え/事実から補われる必要がある。

彼女による主要な主張は以下である(前回の投稿で行ったように、彼女のテキストから大きな塊を引用しよう)。

協力的な子育てと閉経

今世紀に出版された、人類の進化に関する最も重要な本“Mothers and Others(母親と他者達)”では、傑出したダーウィン主義のフェミニスト、サラ・ハーディが、明快な議論を提示しています。全ての人類社会において、「子守」が行われています。つまり、母親達は、一時的な世話として、喜んで自分の子供を預けているのです。アフリカの狩猟採集民では、こういった集合的な保育形態が行われており、私たちの伝統において「子守」が日常的なものであったことを裏付けています。対照的に、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンといった類人猿の母猿は、自分の赤ちゃんを手放すことはありません。乳児が害されるリスクがあるためなのです。故に、類人猿の母猿は、過度に独占・保護的で、〔他者に子守を託して〕敢えて危険を犯すことはないのです。(略)

私たち人類の祖先の母親は、信頼できる血縁者の女性の近くに居住していたのに違いありません。私たちは繁殖期の後に長い余生を保持しています。この閉経期の進化は、「祖母仮説」として説明されてきました。

ハーデイは、複数個体による親的世話が、私たちを種として、独特な心理的性質に進化形成したのかを、探求しています。共同的な保育は、母娘の関係から始まるかもしれません。しかし、孫と親密な絆が結ばれれば、それは即座に、叔母、姉妹、年上の娘、そして他の信頼できる血縁者の関与に繋がることになります。

チンパンジーのメスは、性的に成熟すると他の群に散らばってしまうが、狩猟採集民の女性は、生まれた群に留まる、とパワーは主張している。結果、群に留まった女性たちは、女性の血縁者だけでなく、血縁関係になる男性(女性たちの兄弟や、母の兄弟)の分厚い保護ネットワークに組み込まれることになる。このことで、女性は、物理的で攻撃的な虐めをコントロールする社会的権力を獲得する。

不顕性排卵

女性は、性的生理機能を進化させてきました。これは、時間を浪費する一方で、平等に資する機能となっています。なぜでしょう? もし、お腹をすかせた我が子のためにヒト科のメスが本当に追加のエネルギーを必要としているなら、自分の傍にとどまって我が子のために有用なことをするつもりがあるオスに生殖の報酬を与える方が得策だからです。妊娠ができるメスを見分けて、妊娠できる期間を独り占めしたした後で、次のメスに浮名を流すを望んでいるオスがいても(類人猿の支配的なオスが取る古典的な戦略です)、私たち〔女性〕の生殖シグナルのおかげで、そんなオスの思い通りにならないのです。私たちの排卵は予測しにくく他人にはわかりません。(略)

オスが、メスをハーレムとして管理しようとすれば、このメスの不顕性排卵は、オスの支配を破滅に至らしめます。〔ハーレムを望む〕オスが、一人の〔生理〕循環中のメスの繁殖可能性を推測しようとすれば、その推測期間中、オスは、メスに付き添わねばなりません。持続的な性的受容力は、多くのオスの間に生殖の機会を拡散させることになります〔訳注:ある個体メスが個体オスに継続的に生殖の報酬を提供することで、満遍なくその個体オスがセックスにありつけるようになること〕。これは、進化的観点からは、平準化をもたらすのです

チンパンジーやゴリラ(そしておそらく我々の祖先である類人猿)では、一部のオスが大規模な交尾の成功を享受し、残りは一切ありつけない。例えば、ゴリラでは、支配的なシルバーバック [1]訳注:体毛が銀色になっているオスのゴリラのこと。一般的に成熟に達したオスのゴリラを指す が、メスのハーレムを嫉妬深く警戒しているため、ほとんどのオスのゴリラは交尾ができない。更新世の狩猟採集民において、オスの生殖の成功は、おそらく〔類人猿よりも〕非常に平等に分配されていたと考えられる。メスの不顕性排卵と持続的な性的受容性〔訳注:メスがオスに持続的に生殖を報酬として提供すること〕が、この変化に大きな役割を果たしたのである。むろん、中央集権的された初期の社会が形成されると、アルファオス〔群を支配するオス〕は、強制力(例えば、宦官を使っての後宮の管理)によって維持された巨大なハーレムの形成を可能としている。ここでも、我々は人類の社会進化における平等―不平等主義のジグザクを再度見ることができる。

画像引用元

巨大なエネルギーを必要とする脳

私たち人間と類人猿とを区別する最も顕著な解剖学的特徴は、私たちの脳の異常なまでの大きさです。…脳組織は、エネルギー要求の観点からは、あまりに高価なのです。類人猿の母親は、子供に労力を払う制約を受けているため、いわゆる「灰色の天井(600cc)」より脳を拡張することができません。約150万~200万年前、人類の祖先であるホモ・エレクトゥスがチンパンジーの2倍以上の脳を持って出現し、この天井を突き破ったのです。この事実は、ホモ・エレクトゥスの社会では、既に共同保育が行われたことが示されています。

これは興味深い考えであるが、私としては諸手を挙げて賛成はできない。いずれにせよ、この説明は、もう一つの重要な要因(200万年以上前に起こった食習慣の根本的な変化)を導入しないと不完全である。人類の祖先はサバンナに移ってから、捕獲、(後には)狩猟して得た動物性タンパク質と脂肪の大量消費を開始している。それからしばらく経って、人類は、消化しやすいように〔動物の〕加工を始めた。リチャード・ランガムのような人類学者は、火を使っての調理が、人間を人間たらしめた、と強く主張している。しかし、調理とは、単に食品を加熱、焼く、沸騰、煮込む、油炒め、ソテーなどするだけではない。より一般的な意味では、千切りにする、スライスする、叩く、挽く、濾す、マリネにする、燻製にする、塩漬けにする、干物にする、味付けすることも含まれる。こういった方法で食品を加工すれば、消化の「外部化」が推進される。この件に関して、必読の鍵となってる本はジョー・ヘンリックの“Secret of Our Success(私たちが成功した秘訣)”だ(私の書評「社会規範はトウガラシのようである」を参照)。こういった食生活の変化こそが、私たちの巨大でエネルギーを消費する脳の保持を可能としたのである。

オスが優性化し、メスを戦略的支配する傾向は、こういった前例ない脳の巨大化を妨げていたでしょう。人類の集団間において、支配や平等主義の度合いにばらつきがあったのは間違いありません。それでも、男性優位、男女間対立、幼児殺害のリスクが高いままの集団は、私たちの祖先となった個体群ではないと確信することができます。私たちの祖先は、なんらかの手段で、類人猿のオスによる支配問題を解決し、代わりに、我々の非常に大きな脳を持つ子どもへの日常的な世話に、オスを抑圧利用して、従属させたのです。

以上を言い換えれば、不平等な集団は、集団レベルの進化によって淘汰されていったのである。

相互の心を読み取る

おそらくですが、私たちの平等主義的な性質の特徴は、眼の設計にあるのでしょう。私たちは、200種以上ある霊長類の中で、眼を細長い形として進化させた唯一の種です。私たちは、明るい白色の強膜下地と、黒い虹彩を保持しています。これは「協調的な眼」と知られており、この眼によって、私たちは何を見ているのが〔他者から〕容易に識別できるため、相互作用へと誘うことになります。対照的に、類人猿は、丸くて黒い眼をしているので、〔他者が〕視線の方向を判断するのを難しくしています。類人猿はサングラスをかけたマフィアのドンのような存在です。類人猿は他の動物の動きを熱心に観察しつつ、自身の考えを他者から隠蔽しています。これは、マキャベリ的な競争行う、霊長類の世界においては適しているのです。

私たち眼は、相互の心を読み取ることに適応しており、これは間主観性とも呼ばれています。そして、最たる近しい血縁者では、これは遮断されています。お互いの眼を見て、「私が何を見ているのがわかりますか?」とか「私が何を考えているのか想像できますか?」と尋ねるのは、幼い頃からの自然な行いとなっています。他の霊長類では、眼の凝視は脅威と捉えられています。これは、私たちが、最も近しい霊長類とは異なる道を辿って進化したことを率直に教えてくれているのです。

これは、ヒトと類人猿の近縁種との区別している別の特徴の最適事例となっており、我々が協力的な種としてユニークであるのを説明するに役立っている。私は、自分の授業で、これを「文化進化」の事例として扱っており、生徒たちは天啓を受けることになる。ところで、私が知っている限り、ヒトの眼を読み取ることができる動物は〔ヒトの他にもう〕1種類だけ存在している――犬である(狼はできない)。

象徴化と言語

50年以上前、アメリカを代表する人類学者マーシャル・サリンズは、ヒト以外の霊長類と、ヒトの狩猟採集民とを比較し、その結果を公表しました。彼は、平等主義を重要な違いとして挙げ、文化は「原初の“平等化”」をもたらした、と考えたのです。サリンズは「象徴化によるコミュニケーションが可能な動物間では、弱者は集団で共謀して強者を打ち倒すことができる」と主張しています。私たちは、ここで因果関係の矢印を逆にするの可能としています。マキャベリ的なヒトと反支配的なヒトの間においては、弱い個体が強い個体を打ち倒そうと共謀するのを可能としており、私たちを象徴的なコミュニケーションを可能とした動物にしたのです。このような状況のみが、言語が出現する可能性を高くします。強者は言葉を必要としていません。強者は、言語よりも直接的な物理的説得手段を保持しているのです。

効果的にコミュニケーションを取り、集団行動を計画する能力は、「成り上がり者」をコントロールする絶対的な鍵となっている。ゴシップや嘲笑を行うには、明らかに言語はより効果的である。しかしながら、追放や死刑のような、より厳しい管理形態もまた、広範な計画立案と調和的な執行が必要である。暴力的で攻撃的な「成り上がり者」は、非常な脅威を与える危険な存在だ。安全な方法で、「成り上がり者」を排除する方法ついては、部族全体で合意を取り付ける必要がある。〔排除が実行される場合〕「成り上がり者」の血縁者を、処罰の構成員に参加するよう説得する必要があるだろうし、少なくとも座視させておく必要がある。言語は、こういったあらゆる排除の鍵となっている。

投擲武器

初期の人類と、他の類人猿とを区別するもう一つの特徴がある。カミラ・パワーは言及していないが、投擲武器を使う不可思議な能力だ。最初は石から始まり、次に槍投げ、さらに投石具や弓である。この件で、重要な著者は、ハーバート・ギンタス(パワーは別の文脈で引用している)とカレル・ヴァン・シャイクである。この件については、私は自著“Ultrasociety(超社会性)”の第5章「神は人を作りたもうたが、サム・コルト [2]訳注:リボルバー拳銃を発明したサミュエル・コルトのこと。 は人を平等化した」で説明している。この考えはシンプルである。力強く怒り狂った「成り上がり者」に、手持ちの武器で対処するのは危険で非効率なので、10人以上で徒党を組んで、遠くから投擲するのが理にかなっているのだ。

死刑執行する集団、スペイン、カステリョン地方、レミギアの洞窟壁画より

総括

女性の体は、100万年以上かけて「1人の女性には、1つの男性器」の原則を選好を求めて、進化してきました。この原則とは、〔女性からの〕投資を食い物にして、複数の女性を奪い求める男性より、共有と投資を志向する男性へ見返りを与える、といったものです。しかしながら、私たちの戦略が、よりマキャベリ的になるにつれて、男性もアルファ・オスになろうとマキャベリ的になっていったかもしれません。現代人類が出現に至るまでの、脳の最後の急激な巨大化は、おそらくですが、男女間のマキャベリ的な軍拡競争の反映の可能性があります。

〔類人猿は〕脳のサイズが大きくなるにつれて、母親のオス・パートナーからのより定期的で信頼性の高い貢献を必要とすることになりました。アフリカの狩猟採集民集団において、これは「花嫁を得るためのサービス」と人類学者に知られている固定化された様式となったのです。男性が〔花嫁となる女性に〕性的にアクセスできるかどうかは、花嫁の家族(ほとんど場合は実質的にボスとなっている〔求婚を求める男子から見た〕義理の母)からの要求に応じ、あらゆる駆け引きやお世辞を提供・引き渡せれるかどうかにかかっているのです。女性が母親と一緒に暮らしている地域では、男性が食料の分配をコントロールしての支配権の確立がほとんど不可能となっています。

脳の巨大化は、初期の現代人類の女性に、最大限のストレスをもたらしました。「花嫁を得るためのサービス」を行わずに、ヤリ逃げしようとする男性の問題です。この脅威に対処するため、非常にコストがかかる子を持つ母親達は、アルファになる可能性がある男性に対抗するため、ほぼ〔血縁者〕全員での同盟を拡張しました。母親の血縁者(兄弟や叔父達)といった男性は、この同盟を支援したでしょう。さらに、男性が子供に対して積極的に投資すれば、自分たちの繁殖努力を台無しにするであろう潜在的アルファに直接敵対する利害関係を保持することになります。これによって、コミュニティー全体が、支配的になりそうな個体に対抗する連合を戦闘結成していました。

私が思うに、パワーの議論を特に説得的にしているのは、明示的に進化論に基づいていることにある。彼女は様々なデータを用いて、更新世の狩猟採集民の平等主義を推論するだけでなく、人類社会をより公正にし、公平さを維持した進化的メカニズムを説明している。これは、G&Wとは、全く違っている。実際、パワーのG&Wの論考への批判のポイントの1つが、G&Wが進化を蔑ろにしていることだ。

グレーバーは、アメリカの文化人類学者の伝統に立っています。すなわち、ダーウィニズムは、資本主義イデオロギーに基づいたトロイの木馬だと見做している伝統です。ところが興味深いことに、社会生物学、進化生態学、あるいは(社会・文化学者があまりに下卑た罵倒を行うので名称が変わり続けているので)好きな名称で呼べばよいのですが、これらは、今世紀になってフェミニスト〔の分野〕として異例の転換を遂げています。〔進化論に基づいた〕女性の戦略は、今や人類起源のモデルにおいて、中心となっているです。「男性の狩人」は忘れてしまいましょう。働き者のおばあちゃん、保育する類人猿、複数のパパを持つ子どもたち、これらは新しいダーウィン主義のヒーローなのです。引用元

最後に以下を引用して、レビューを終えよう。

アナーキストの大学教授達は、ジェンダーに盲目であることで、平等の歴史を分析するにおいて間違いをしでかしているのです。…[グレーバーらは]、私たちの歴史において、現代の家父長制がどのように機能しているのかについて、そして、家父長制が、私たち種の形成にどれだけ貢献してきたのかについての最新の理解を卑劣な手段で攻撃しています。

References

References
1 訳注:体毛が銀色になっているオスのゴリラのこと。一般的に成熟に達したオスのゴリラを指す
2 訳注:リボルバー拳銃を発明したサミュエル・コルトのこと。
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