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ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅳ:全て統合する」(2013年4月15日)

Putting It All Together (Why Real Wages Stopped Growing IV)
April 15, 2013
by Peter Turchin

このシリーズの過去のエントリでは、疑問を提示し、可能性がある答えの個別構成要素を検討した:まずGDPと労働力の需要/供給の長期のトレンドを、次に文化的影響。全てを統合し、(もしあるとすればだが)この3つの要因の相対的な寄与を定量分析する時だ。

私がこれから行うのはステップワイズ分析と呼ばれているものだ:各段階(ステップ)で一つずつ説明変数を代入し、一連の段階でモデルを構築していく。このアプローチにより、応答変数の動態を解き明かすのには、どの説明変数が必要になっているかの理解が可能となる(応答変数は、この場合1927年から2012年までの実質賃金だ)。また、各説明変数が、〔実質賃金の実際値〕データのどの特徴を説明しているのかの理解も可能となる。

最初のステップは、1人当たりのGDP成長率の影響を調べることだ:

1人当たりのGDP成長率は、実質賃金が1927年より2012年の方が高い理由を説明しているが、それ以外はほとんど何も説明していない。過去85年間、1人当たりのGDPは順調着実に上昇しているが、実質賃金は、時にはそれより速く上昇し、また別の時には遅くなっている。実質賃金が1人当たりのGDPより速く上昇していた期間から、突如として停滞・下落に転じた1970年代後半に、GDP曲線が急に折れた兆候は見られない。1970年代以前は、実質賃金が1人当たりのGDP成長率を上回って上昇したのなぜだろう? 1970年代以降は、GDP成長率が上回るようになったのはなぜだろう? 説明を可能にしている他の要因を探す必要がある。

GDP(一人当たり)と労働力供給/需要比率の両者を考慮に入れたモデルは、以下の結果を導出する。

統計分析により、このモデルは、GDPだけのモデルよりも、〔実質賃金の実際値〕データをかなり適切に説明している。労働力供給/需要比率が〔実質賃金の実際値〕データの動向を反転させた原因の一端である可能性を上記の予測曲線は示している。しかしながら、全体的には、このモデルは細部に至っては満足できるものではない。

次のステップでは、非市場的影響要因(『文化』)に関する代替値を代入する:

この変数を代入した結果、モデルの生成軌道が劇的に改善されることになる。しかし、まだ作業は終わっていない。モデルの曲線において折れたように低下している部分(実質賃金が上昇から停滞レジームに転換した時期)は、〔実質賃金の実際値〕データの数年前に起こっていることに着目してほしい。私が前回のエントリで論じたように、これこそまさに予測可能パターンだ。経済的状況が変化しても(例えば、労働供給が労働需要を超過し始めた場合)、賃金は即座にこの新しい状況には適合しない。〔賃金〕契約は慣性履行されねばならず、再交渉が必要となっている。そして、被雇用者と雇用者の双方は、今年の状況が長期の動向の一部なのか、単に一時的な急騰なのかはまだ識別できない。これは、今年の実質賃金は実際には数年前に起こった社会・経済の複合的な出来事の反映であることを意味している。

賃金による反応のタイムラグは、少なくとも5年はあるようだ。実質賃金を、5年ラグの説明変数の値として退行させ、モデルを回帰分析してみると、以下のような結果を得ることができる。

上記の〔賃金の反応ラグ〕特徴を説明するために、遅延パラメーターを導入したことで、今やこのモデルは、〔実質賃金上昇率の〕折れたような低下地点を正確に予測していることが判明した。これは驚くべきことではない。驚くべきは、このモデルは、現在の実質賃金の停滞期の動態を予測していることだ:1980年代は低下し、2000年代初期までは上昇し、それから再び低下している。このようなモデルの軌跡と〔実質賃金の実情〕データの関係における非常に詳細な一致は、まったく予想外なものであり、それが故に、実質賃金の動態を左右させている影響要因を、このモデルが補足できているかの能力に関して、信頼性がさらに強化されることになっている。

説明変数の様々な組み合わせをさらに調べ進めることで、〔実質賃金の実際値〕データのパターンを再現するにはこの3つの構成要素は全て必要であることが裏付けられた。結論は、市場による影響要因(労働需要/供給比率によって補足)、文化的影響(実質最低賃金によって代替)の相互作用によって、実質賃金は「一人当たりの所得」(1人当たりのGDP)よりも、速く上昇したり、遅く上昇したりすることになる。

ここで新しいのが、最低賃金を、「文化的」影響要因の代替値として使用していることだ(思い出して欲しいのだが、これは、雇用者と被雇用者の関係における、社会的規範・価値、政治・立法的状況、権力関係のような被市場的要因に関する私の略記法だ)。私の知る限り、実質賃金に作用する影響要因を定量分析する際に、「文化」を含めようとした試みは誰もやっていない。しかし、一端これをやってみると、文化が突出して重要であることがわかる(定量的には、その効果は労働需要/供給比率よりも大きい)。

他に何かあるだろうか?

他には、以下の2つが必要とされているだろう。まず1点目。このモデルは非常にシンプルであり、このことは間違いなく美点だ。経済学者やジャーナリスト達が論じてきた多くの〔実質賃金が低下した〕要因(移民、貿易赤字、労働生産性など)を一つの尺度である労働需要/供給比率(文化的な影響も同じような尺度)に纏めている。全体的な結果(賃金が上昇するか停滞するか)に対して、これら複数要因の内のどれが相対的に寄与しているのか比較軽量できるよう、このモデルの諸要素を「展開」する必要があるだろう。これは、次回以降のブログの良い題材のようだ。

2点目。このモデルは、技術進化の影響は(少なくとも明示的には)組み込まれていない。一部はGDP成長率に纏められている(私はそれを所与と考えている)が、これを別の独立した説明変数とし、その影響を調べるのは非常に興味深いだろう。この非常に重要な要因に関する適切な代替値を、誰か知らないだろうか?

技術的注記

過去のブログで約束したように、私は、上記で論じた結論を生成した統計分析の技術的詳細を記載した資料を投稿する予定だ。先週の教職がハードで時間に余裕がなかったので遅れているが、できる限り早く取り掛かるつもりだ。待てない人のために、回帰モデルは以下のようになっている。

ここでは、Wは実質賃金、G/Nは一人当たりのGDP、D/Sは労働需要/供給比率、Cは実質最低賃金、πはタイムラグであり。予測変数は、バンド幅=4のカネール回帰によって平滑化されている(当然、応答変数は平滑されていない)。


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