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ピーター・ターチン「起業家は非合理的なのか?(結論:その通り――標準的な経済理論によれば)」2018年7月22日

Are Entrepreneurs Irrational? (According to Standard Economic Theory)
July 22, 2018 by Peter Turchin

 私にとってヴィクター・ウォンとグレッグ・ホロウィットの「熱帯雨林:次のシリコン・バレーを作り上げるための秘密」1 で最も目から鱗だったのは、自身でイノベーション企業を立ち上げるのが徹底して非合理的な決断であるという認識だ2 。投資することになる努力(及びしばしば自身の資金)の量と、極めて低い成功確率を考えるなら、企業を立ち上げるのは単純に道理に合わない――成功を金で測る限り。著者たちがあるところで書いている通り、「スタートアップ企業を立ち上げるプロセスは、ローラーコースターに乗るのと多くの類似点がある。極めて非合理的な行動だ」。

 熱帯雨林の224ページには、ベンチャーが成功するために機能しなければならない構成要素を説明した便利な図がある。

  • テクノロジーが機能する
  • 製品が機能する
  • 顧客が購入する
  • 製造工程が機能する
  • ビジネスモデルが機能する
  • 十分な資本がある
  • チームがすべての物事に対処できる

 このスキームには成功のための7つの構成要素があり、「すべての物事」が成功するためにはそのすべてが機能しなければならない。あり得ないほど高い成功確率――50%――を各ステップに当てはめたとしても、7ステップすべてのコイントスで表が出る確率は1%もない。各ステップについてより現実的な成功機会、たとえば20%を想定するなら、全体の確率は0.001%前後となる。もし億万長者になりたいなら、もっと確実な富への道がある――例えば安定した大企業の出世の梯子を上っていくか、ヘッジファンドを運営するといったものだ。あるいはトマ・ピケティが示唆したように、富を相続する手もある。

 それに私は、成功するビジネスを立ち上げる際に必要となる「精神的コスト」については話してすらいない。成功するかどうかが分かるには多くの年月がかかり得るし、そしてその期間はずっと、全てのハードワークが最終的に無駄になってしまう失敗へと至る極めて現実的な可能性とともに生きていかなければならない。少なくとも大企業で働けば、そのCEOになることに失敗したとしても、途上でなお大いに気前よく報酬を受け、引退時には心地よい貯金を楽しみにすることもできる。もう1つの大きな精神的コストは、人々に資金を求め、そしてほぼ常に断られることだ。ウォンとホロウィットが書いているように「成功するイノベーションは自己犠牲を必要とする」。

 我々の目の前にはビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズらといった成功例があるが、彼ら1人につき、企業を立ち上げようとして人生を台無しにした数千人の起業家たちがいる。才気あふれたニコラ・テスラですら、負債の重みに潰され貧困の中で死んだ(人生の最後に彼は一連のニューヨークのホテル暮らしをしていたが、死後に未払いの請求書を残した)。

 おかしなことだが私は起業家精神のコストについては大いに個人的な理解を持っている。Seshat:世界史データバンクの立ち上げは、1点を除きあらゆる面で成功するビジネスを立ち上げる投資家が経験したものと同じだったからだ。もちろんその1点とは、Seshatの成功をドルで測るのではなく、トップジャーナルでの掲載数、他の研究者による引用数、我々が確認するか棄却する理論、そして人間社会がどう進化し機能するかについての我々の理解の増加で測る点にある。

 では何が実際に起業家を動機づけているのか? 彼らのうち何人かは金のためだけであり、その多くは失敗する。成功するものは典型的には合理性を超えた理由により動機づけられている。「競争がもたらすスリル、人間的な利他主義、冒険への渇望、発見と創造性がもたらす喜び、将来世代に対する関心、そして人生の意味に対する切望」だ。

 さらに目を開かされたのは、熱帯雨林を読んだ後で得たベンチャーキャピタリストへの新たな理解だ。私はよく彼らを「ハゲタカ投資家」と言及していたが、特に成功しているベンチャーキャピタルについて語る場合、それが不公正であることを今や理解している。成功したベンチャーキャピタルもまた、熱帯雨林が説明する通り、貪欲さのみに動機づけられることはあり得ない。問題はまたもや、高い失敗確率だ。極めて早い段階でスタートアップに投資するのは、単に合理的でない。通常、ベンチャーキャピタルは最初のハードル(『テクノロジーが機能する』)を成功裏に越えられるかどうかを知ることができる。だがなお越えなければならないハードルが6つも残っている。ベンチャーが成功した際の報酬を増やす1つの方法は、企業の株式の多くを譲渡するよう起業家に強いるというものだ。だがそれは起業家がハードに働こうとする動機を破壊するため、自滅的な行為である。

 多くのハードルがひとたびクリアされたもっと後の段階になれば、スタートアップに投資するのは完璧に理に適う。だが彼らはどうやってその段階までたどり着くのか? 投資家たちが上記と同じ価値に動機づけられて合理性を超えた行動を取るか、あるいは政府が導く集団的行動を取るかのどちらかだ――そして実際にはそのどちらもある。

 初期段階で起業家たちを助けるベンチャーファンドの大半は、政府が資金を出して運営のためにベンチャーキャピタリストを雇っているか、あるいは政府の資金と並行して自らの資金を投じているベンチャーキャピタリストによるものだ。私は最近、Seshatディレクターの1人であるケヴィン・フィーニーが新たな企業Data Chemist(The Irish Timesを読んでほしい)を立ち上げた際に、この件についていくらか経験をした。

 私はウォンとホロウィットの本に関する書評を、以下の引用で終わらせる。「熱帯雨林は合理的行為者のようには行動しない人々にかかっている」。それは考案者と投資家を含めたあらゆるカギとなるプレイヤー及び政府の、合理性を超えた動機を必要とする。すべてのビジネスがこのようなものであるとは言っていない。私が新聞で読んだ話、世界の金融組織、大企業、そして企業法務は、その多くが、もしくはすべてが貪欲さによって駆り立てられているように見える。この点でブランコ・ミラノヴィッチは正しい。だが全てのビジネスがそうなっているわけでもない。イノベーションこそ我々が100年前、あるいは1000年前の人々よりいい暮らしをしているカギだ。そしてそうしたビジネスは合理性を超えた動機、自己犠牲、そして協調を必要とする。

  1. The Rainforest: The Secret to Building the Next Silicon Valley []
  2. ピーター・ターチン「資本主義は協調を破壊するのか?」参照 []

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