Is Norway the new East India Company?
Friday, July 23, 2021
Posted by Branko Milanovic
18世紀、イギリスに主導された東インド会社は、インドを段階的にほぼ全土支配した。東インド会社による支配は、インドからすれば災難であったが、会社の役員や株主の多くは巨額の富を手に入れている。役員や株主らは、この富を利用して、イギリスの政界、知識人階層、財界で重要な役割を果たした。アダム・スミスは東インド会社を徹底的に批判し、「国家による排他的な商業企業は、おそらく、あらゆる国家とって最悪の政府である」と述べた。東インド会社によるあまりに酷い略奪行為を目にしたイギリス政府は、ナポレオン戦争の最中に、ついにインド貿易の独占権を剥奪している。
結果、東インド会社は、中国との貿易に力を入れるようになった。中国と貿易するにあたっての問題は、中国人が興味を持つものを一切売ることができなかったことだ。中国から買いたいものはたくさんあったが(陶磁器、茶)、売るべきものは何もない。そこで、ベンガル産のアヘンを売るアイデアを思いついた。中国政府はアヘンの輸入を禁止していたが、中国国内ではアヘンの需要があったのだ。〔中国政府による〕法律の禁止を無効化し、倫理的理由から他所では販売できない中毒性の高い物質を売りつけるために、東インド会社は中国の開港を目的に戦争を決行した。これが悪名高いアヘン戦争の起源である。最終的に1842年、中国の「条約港」を5つ開港させ、香港を割譲し、中国に住む外国人への治外法権などが決定された。「屈辱の世紀」の始まりである。東インド会社は、自社の従業員に消費を認めていないものを、遠く離れた外国人にはついに売れるようになったのだ。
ノルウェー政府は、気候変動の脅威に最も積極的に取り組んでいる政府の一つだ。国内のガソリン車のほとんどを電気自動車に置き換えようとしている。ノルウェー政府は、自国の炭素消費量の減少を誇っている。また、世界の森林破壊を抑制・回復するための国際活動に資金を提供している。しかし、同時に、ノルウェーは、半世紀にわたって、世界有数の原油・天然ガスの生産国であり、重要な輸出国であってきている。さらに、ノルウェー政府は最近、気候変動に最も影響を与えやすいと考えられている地域の一つである北極圏での天然ガス・原油の探査と生産を拡大することを決定した。
このようにノルウェーは、自らが有害と考える商品の生産と販売を増やし、東インド会社がアヘンを売ったように遠く離れた外国人に販売している。そして国内ではクリーンな状態を保っている。「お金は無臭」なのだ。
ノルウェーの行動で驚かされるのは、単に偽善的であるだけでない。美徳で顕示しつつ、政府の行動は明らかに正反対であることにある。気候変動の活動家達の多くが炭素排出量の削減のために、貧しい国や中所得の国に向けて、〔天然ガス・原油の〕生産と消費を減らすメリットを説いている現状を考えれば、ノルウェーの行動はさらに驚くべきものとなるだろう。
この疑問はさらに続けることができる。世界で最も裕福な国の国民や政府に気候変動のメリットを納得させることができないなら、メキシコやガボンやナイジェリアやロシアに天然ガスや原油の生産を減らすように説得するのに、どのような議論が可能なのだろう? と。これらの国々の所得は、ノルウェーの数分の1だ。例えば、ナイジェリアの実質所得の中央値は、ノルウェーの20分の1である(タイプミスではなく本当に20分の1なのだ)。
メキシコやナイジェリアが天然ガスや原油の生産量を減らさないのは、減らしてしまえば国民生活が著しく困窮するので十分に理解できる。しかし、どのような合理的な測定を行っても、〔天然ガス・原油の生産量を減らしても〕ノルウェーの一般大衆が困窮することはありえない。ノルウェーは非常に高い所得(一人当たりのGDPは66,000国際ドルであり、アメリカより20%高い)を有し、その所得は国民に公平に分配されている(ジニ係数は26)ため、「アヘンに相当する物質」の生産を断念することができるはずだ。しかし、現政権は〔北極圏での天然ガス・原油の〕広範な探査と生産を行う新たなる決定を下し、多数派は支持しているようなので、このような〔天然ガス・原油の生産の断念する〕措置への政治的な支持は存在しないようである。
ここでは、あらゆる気候変動の活動家にとっての重要な教訓が示されてる。私が何度も主張してきたように、活動家らは経済成長と気候変動対策のトレードオフについてもっと真剣に考える必要がある。活動家のモデルによるなら、気候変動を抑制することのメリットは否定の余地がないものだ。しかし、政策(航空機燃料への課税やガソリン料金への課税)をいざ実施しようとすれば、大衆の抵抗に直面する。大衆が抵抗するのは、世界中で、ほとんどの人が、低所得を受け入れたくない思っているからだ。気候変動の活動家はカンファレンスで、低所得になった場合の「繁栄」を語るかもしれないが、代替案が提示されれば、世界で最も豊かな国の市民でさえ、その代替案を拒否する。
もし私たちが単に話し合うだけでなく、本気で気候変動に向き合いたいのなら、まず(ノルウェーのような)偽善を排除してから、国民に受け入れ可能な政策を立案すべきだ。そして、それはまず、豊かな国々から始めないといけない。豊かな国々は、歴史的に気候変動に最も大きな影響を与えてきただけでなく、他の国々より容易にコストを負担できるはずだからだ。