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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.7」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

[pt.6 はこちら

グローバル化の潜在的な貢献は,政府どうしが協力したときに増幅される

「国際貿易や生産拠点の国外移転,ひいてはグローバル化全般は,COVID-19 パンデミックを乗り越える国民衛生の自主的な行動を阻害する」と考える人たちがいる.典型的に,自国単独の政策選択肢しか考慮していないときに,この結論が引き出される.だが,歴史を見れば,生産の急拡大には国際協力が必須なのがわかる.第二次世界大戦での生産努力は,まさにそうやって機能した.

Ethan Ilzetzki & Hugo Reschardt は,今回のパンデミックに関連した生産に政府がいかに対応すべきかという3つの教訓を,第二次世界大戦時の合衆国の弾薬生産から引き出している (Ilzetzki & Reichardt 2020).彼らによれば,第一に,生産の増加には時間がかかる.とくに,その製品を専門としない生産者ではいっそう時間が必要だ.第二に,生産技術とサプライチェーンに関する知識の共有には国際協力が必要だ.そして第三に,生産設備拡大に直接に公共投資を投じることがこの戦略の一環をなさなくてはならない.

本 eブックへの寄稿者たちの多くは,今回の課題を同様の切り口で捉えている――つまり,国際貿易と自由主義的な貿易体制は COVID-19 対応にどういうかたちで貢献できるか,という問いを立てている.Berbard Hoekman, Matteo Fiorini, & Aydin Yildirim が国際協力に関する章で述べているように,多くの医療製品は複数の国境をまたいだサプライチェーンを用いて生産されているために,パンデミックが拡大するなかでどこか一国の生産者たちが有しているそうした製品の生産能力を拡大できるかどうかは,十分な数の部品・原材料をみずからのサプライチェーンから調達できるかどうかにかかっている.そして調達が最適化されるのは,そのサプライチェーンに関わる貿易相手たちすべてが中間財の輸出を邪魔したり遅延させたりしない場合だ.

これに関連した議論から,さらなる含意が導き出される.Evenett & Winters (2020) が最近述べているように,今回のパンデミックのさなかにどこか一国が医療製品や医薬品の輸入障壁を引き下げることで得られる便益は,貿易相手たちが輸出禁止措置をとった結果として手頃な価格で購入できるものがほとんどなくなってしまえば減少してしまう.これがいままさに問題となっている.というのも,Global Trade Alert の情報が正しければ,今年,80ヶ国以上の政府が医療用品や医薬品にかかる輸入関税を減らしたり廃止したりする措置をすでにとっているからだ.

国際的に調達されている医療キットの量について言うと,輸出国が国外への出荷を妨げたり,「製品の配送が混乱・途絶したり輸出国による妨害で支払いがなくなってしまうのではないか」と製造業者たちが恐れて国外での販売を敬遠したりすれば,もくろみが外れてしまう.

もちろん,それよりも,みんなが分け合うパイを最大限に大きくして BATNA に基づいてパイの切り分け方を交渉する選択肢の方がすぐれている.

通商政策の担当者たちにとって,他にもまだ含意がある.それは,こうした必要不可欠な財の通商政策の互酬的な取引決定の論理は,「ゼロにはゼロ」の関税撤廃ほど単純ではない,という含意だ.こうした知見から,ニュージーランドやシンガポールが同時に貿易の邪魔になるものを取り除いて医療製品の輸出制限を控えるべく足並みを揃えて行った自主的行動の価値が際立ってくる [n.11].Joost Pauwelyn が担当の章で示しているように,輸出制限に訴えるかどうかの手引きとなる多角的な毀損の規律がほとんどないために,こうした自主的行動が必要となっている.

自分たちに関係する通商政策によって国境をまたいだ供給が阻害されて自由主義的な貿易体制の便益を薄まってしまうかもしれない不確実性のなかで,製造業者・輸出業者・輸入業者,そしてこうした業者から品物を引き受ける運輸企業はなんとか計画を立てるほかない.ここで,透明性を高める最善の努力に政府がつとめることが重要となる.そうした努力には,世界貿易機関 (WTO) に自分たちの行動を迅速かつ完全に通知することも含まれる.パンデミックとその後の世界で,通商政策の透明性という世界的な公共財を強化するためにとりうる対応やCOVID-19 に関連した通商関係の措置を政府はいまどれくらい通知しているのか,その度合いを本 eブックへの寄稿で Robert Wolfe が示している.

政府が経済に封鎖を強制したことで,国際的な物流ネットワークに深刻な混乱・途絶が発生している.さらに,船員たちが国境をまたいで移動するのを制限するパンデミック時のルールが適用され,乗組員たちの人員交代もできなくなったため,この混乱・途絶がいっそう深刻になっている.Inga Heiland & Karen Helene Ulltveit-Moe の論稿では,こうした規制がノルウェーの船舶会社が供給する巡回路に及ぼしている影響に関する証拠を提示している.彼らの論稿では,乗組員の人員交代の禁止をやめて,かわりにさらなるスクリーニング(船員の検査)を含む措置をとるよう提言している.人員の交替を円滑にする対策をとるよう政府にうながしている国際海事機関 (IMO) の勧告を彼らの論稿は支持している.人員の交替を円滑にすることで医療製品や医薬品が国境をまたいでより多く供給できるようになり,もっと広く言えば,世界貿易の回復がより急速に進むのを後ろ押しすることにもなるだろう.

まとめよう.今回のパンデミックにおいて,各国政府がいっしょにとれる施策はたくさんある.そうした施策は,COVID-19 と戦うために通商政策ができる貢献を強化できる.グローバル化のせいで各国政府の足が引っ張られるどころか,現実には,今回のグローバル・パンデミックを乗り越えるにあたってその潜在的な力を発揮する機会がグローバル化には与えられていない.各国政府には,COVID-19 感染の第二波に備える際にこれを是正する機会がある.


原註

[n.11] (リンク切れ?)https://www.beehive.govt.nz/release/nz-and-singapore-commit-keeping-supply-and-trade-links-open-includingessential-goods-and


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