ポール・クルーグマン「よき共和党員は進化論など信じはせぬ」

Paul Krugman, “Good Republicans Reject Evolution,” Krugman & co., January 9, 2014.


よき共和党員は進化論など信じはせぬ

by ポール・クルーグマン

KAL/The New York Times Syndicate
KAL/The New York Times Syndicate

ちょっと話題に乗り遅れた感があるけど,先だって,ピュー研究所がアメリカにおける進化論に関する見解の変化について新しく報告書を公表した.大きな見所は,いまや共和党員を自認する人たちの多くが,「進化なんて天地創造の日からまったく起きてはいない,まして進化が自然選択に促されているなんてとんでもない」と信じているってことだ.変化は大きい:2009年から11ポイント減少してる.

自明ながら,そうやってダーウィンを拒絶するのを促すような新しい科学的な証拠がなにかでてきたわけじゃあない.それに,民主党員たちは4年前よりも進化を信じる傾向が強まっている.

じゃあ,2009年の後に起きたことで,共和党員の見解を変えそうなことっていったいなに? もちろん,答えは自明だ:民主党大統領が選ばれたことだよ.

「ちょっと待てよ」――「進化論ってオバマ政権の政策になんか関係あったっけ?」 いんや,ぼくの知るかぎりではないね.でも,そこは要点じゃないの.要点はそこじゃなくって,共和党員たちが,自分の部族にあらゆる点で同化しようとうながされているってこと――で,彼ら部族の信仰体系は,反科学的原理主義に支配されている.ここしばらく,よき共和党員であろうとすれば気候変動の現実を信じるわけにはいかないようになっている.そして今度は,よき共和党員なら進化を信じるわけにいかなくなったってわけだ.

で,同じことは経済学でも起きてる.2004年ごろまでなら,共和党政権のもとで公表される大統領年次経済報告書が強力なケインジアンの見解を打ち出して,「積極的な金融政策」によって景気後退と戦うことの長所を述べたり,裁量的財政政策を主張したりできた.(当然ながら共和党の裁量的財政政策がとれる唯一のかたちは減税ではあるんだけど,その論理は直球のケインジアンで,同じ論理で公共事業プログラムも同じく正当化できただろう.)

そうそう,それに,2004年の報告書(ここで読める: [pdf])――おそらく,当時ジョージ・W・ブッシュの経済諮問委員会院長だったグレッグ・マンキューが書いたはずの報告書――を見ると,「S~なんとか」って言葉で「短期的刺激」を提案してる.

この知的枠組みを踏まえていれば,1930年代タイプの経済状況が再発して総需要不足・低インフレ・ゼロ金利が長引くなかでは,多くの共和党議員が以前よりもケインジアン色を強めてしかるべきだった.ところが,共和党は――一般党員ばかりか経済学者まで――いろんなかたちのサプライサイド経済学への忠誠を宣言してしまっている体たらくだ.

これは部族主義の問題にちがいない.マネタリーベースの大幅拡大と大規模な赤字にも関わらずインフレ率と金利が上昇していないことから,緊縮と経済の低迷の明瞭な相関まで,ありとあらゆる証拠がケインジアンの方向を指さしている.それなのに,ケインズ嫌悪(そして「Kなんとか」で始まる他の経済学者どもへの嫌悪)が,部族の一員である証になっていて,よき共和党員ならそういうことを言わなくちゃいけなくなってる.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

懐疑的な保守派たち

by ショーン・トレイナー

先月,ピュー研究所がアメリカ人の進化観に関する新しい世論調査の結果を公表した.それによると,人口の大多数は種が時間とともに進化してきたことを信じているものの,共和党支持者の大多数は進化論を拒絶している.

調査対象になった共和党員の43パーセントしか,進化を信じると答えていない.他方で,「時間のはじまり以来,人間と他の生き物は現在のかたちのまま存在し続けている」のに同意したのは48パーセントという数字になっている.ピュー研究所が2009年に同じ質問をしたときには,共和党員の54パーセントが進化論を信じていると答え,39パーセントが信じないと答えていた.

『ワシントンポスト』では,評論家ダナ・ミルバンクがこれを解説して,この変化は政党への同化に変化が起きていることに起因するのかもしれないと述べている.「進化に関する見解が安定していることを踏まえると(ギャロップの世論調査では,過去25年間にわたって回答は本質的にずっと同じままだ),共和党員の多くが実際に信念を変えたというのはありそうにない」とミルバンクは言う.「それよりも,共和党員を自認する意志をもつタイプの人たちが,『聖書』の字義的な解釈を信じる狭い集団にますます傾斜している――あるいは,進化を科学の問題ではなく政治の問題だとみなす党派的な集団に傾斜している――ということの方がありそうだ.」

『ニューヨークタイムズ』では,コラムニストのチャールズ・ブロウが論説でこう論じている――世論調査の結果は,アメリカ人有権者保守層の大半の支持を固めようという共和党の指導者たちの『長期的な策略』に関連している.「宗教的な自由のための宗教戦争を自分たちは戦っているのだと人々に信じさせればいい.情熱と献身こそ疑念と混乱に対する自らの武器となる戦争を戦っているのだと信じさせれば,忠義の兵士たちができあがるというわけだ.」

続けて,ブロウはこう述べる:「これは,共和党の一般党員をまとめあげ,彼らの注意を常識の領域から公益にそらす戦術だ.」

© The New York Times News Service

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  1. ” whether Austrian or Lafferian or both” というフレーズと、その後の “Compare that ERP chapter with the currency-debasement letter and you see a remarkable case of intellectual retrogression.” という一文がまるまる抜けてるように見えるんですが。

    あくまで、NYT のウェブサイトに掲載されている記事と比べて、の話ですが。

    1. ご指摘ありがとうございます.
      「経済学101」が権利を買っている配信記事では,この箇所が省略されているため,訳文もそれに追随しています.

  2. あと、「創造の日」は「天地創造の日」ぐらいにしないと、平均的日本人にはわかりにくいかも、と思いました。

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