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ポール・クルーグマン「保守派がまた空想のカナダに熱を上げてる」

Paul Krugman, “Conservatives Revive the Canadian Fantasy,” Krugman & Co., October 3, 2014.
[“Conservative Canadian Cockroach,” The Conscinece of a Liberal, September 21, 2014.]


保守派がまた空想のカナダに熱を上げてる

by ポール・クルーグマン

Ian Willms/The New York Times Syndicate

Ian Willms/The New York Times Syndicate


ジョッシュ・バローが先日の『ニューヨークタイムズ』記事で語るところによると,保守派たちはまたしてもカナダをお手本として称揚しているらしい.とくに,カナダが1990年代に経験したことを持ち出して,緊縮策はやっぱり拡張的なんだと主張しているんだって.

ぼくに言わせると,こいつは「ゴキブリ」論の資格を満たしてる(「ゾンビ説」は殺してもうろつき続けるのに対して,ゴキブリ論はやっと駆除したと思ったらまたすぐにどっかからでてきてチョロチョロしだすんだ.) カナダがどうのって議論は,4年前に駆除したと思ってた.ところが,うええ,でたーーーーーー.

バロー氏は記事で要点をずばり突いてる(リンク).カナダが90年代にやった緊縮は,貿易収支の大きなプラスの動きで相殺された.これは,カナダドルが下がっていたのと,原材料輸出のおかげだ.

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[▲カナダの緊縮政策:青い線は政府の構造的財政収支,赤い線は経常収支]

そこらじゅうの国がそろって通貨を切り下げて貿易黒字に動けるわけがないんで,つまり,カナダの90年代のおはなしは,2010年の緊縮論争にはまるっきり意義がなかったわけね.

それに,緊縮策 vs 刺激策の論争全体は,金利がゼロ下限にあるって問題からでてきていた.金利がゼロ下限にあるってことは,緊縮策の効果を相殺するかんたんな方法はないってことだった.じゃ,1990年代のカナダは? ちょいと事情がちがうね.

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[▲カナダの金利]

ただ,バロー氏は1つトリックを見過ごしてる.右派の連中が経済データについて主張してることを取り扱うときには,彼らがきっぱり断定してることを受け入れちゃいけないし,そればかりか,きっと相手はなにか間違ったことを言ってると想定してかかった方がいいんだ.

バロー氏はこう書いてる:

《高い金利に押されて,中道左派の政権は1990年代に巨額の支出削減を制度として実施した.その結果として,カナダの公共支出が同国経済に占める割合の水準はアメリカと並ぶところにまで下がった.》

国際通貨基金 IMF のデータをちょいとごらんいただきましょうか.カナダとアメリカそれぞれの公共支出は,景気後退の期間にその差をせばめている.なぜなら,アメリカの方がはるかに景気後退がひどかったからだ.

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これはつまり,どんな水準の支出であろうと,〔景気後退で減少した〕国内総生産に占める割合は大きくなってたってことだ.それに,景気後退から,アメリカの支出は一時的に急増することにもなった.支出項目は,主に,失業保険その他のセーフティーネット・プログラムだったけど,短期間ながら財政刺激にも支出された.

でも,これはもう全部おわった話だ.アメリカはまたしても平常運転に戻ってきてる.つまり,カナダの方がアメリカよりも GDP に占める政府支出割合がずっと大きい状況にもどってきてる――貧困削減のための支出も,カナダの方が大きい.

というわけで,保守派たちは空想のカナダに恋しちゃってる.彼らが思い描いてるカナダは,歴史も現状も,現実とまるで似てもにつかない.

意外でしたかしら?

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

カナダはアメリカにとってのお手本?

by ショーン・トレイナー

この数ヶ月,アメリカの保守系評論家たちがカナダをすぐれた政府機構のお手本として大きく取り上げている.たしかにカナダはアメリカよりも進歩的だと考える伝統があるものの,多くの保守派たちは,90年代に実施された赤字削減戦略と並べて,カナダの法人税政策を称揚している.

カナダの法人税は,アメリカよりも低い.一部のアナリストたちによれば,この税率のちがいこそ,ファーストフードチェーン「バーガーキング」が,本部機能こそマイアミに残しつつもトロントを拠点にで同社の再編をはかると発表した理由だという.『ウォールストリート・ジャーナル』(8月28日)に掲載された論説はこう論じている――「カナダはアメリカとくらべて,はるかに企業に友好的な税制をもった国になっている」し,バーガーキングの再編は「自由市場と経済成長に向けたカナダの歴史的な歩みが成功を続けていることを示している.」

また,多くの保守派の考えでは,カナダは「拡張的な緊縮策」がもたらすプラスの効果を示す好例とされる.90年代はじめに,カナダは巨額の財政赤字に歯止めをかけるようさまざまな国際機関から圧力を受け始めた.これに応じて,中道左派の自由党 (Liberal Party) は財政緊縮策に乗り出した.この緊縮策には,行政サービスの削減や穏やかな増税が含まれる.4年かけて,財政赤字は消滅したが,それでもカナダの経済成長は堅調なまま維持された.

これを批判する意見もある.それによれば,90年代にカナダが置かれていた状況は独自なものであって,今日の多くの国に同じ条件は当てはまらない.たとえば,緊縮策による縮小効果を相殺するために,カナダはベースライン金利を下げることができた.これにより,貸し付けの流れは増え,需要が刺激された.だが,今日,苦境にある国の多くはすでに金利を 0% かその手前にまで下げているため,伝統的な金融政策の手法によって需要をさらに刺激するわけにはいかない.

また,当時のカナダは,財とサービスに対するアメリカからの力強い需要と弱いカナダドルにも恩恵を受けていた.カナダドルが弱かったおかげで,国際的に同国からの輸出はいっそう魅力をもちえたのだ.

© The New York Times News Service


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