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ポール・クルーグマン「30年代の再演:ヨーロッパは間違った教訓を学びつつある」

Paul Krugman, “Europe Is Learning The Wrong Lessons,” Krugman & Co., September 19, 2014.
[“The Structural Fetish,” The Conscience of a Liberal, September 9, 2014; “Replaying the 30s in Slow Motion,” The Conscience of a Liberal, September 15, 2014.]


ヨーロッパは間違った教訓を学びつつある

by ポール・クルーグマン

Akos Stiller for The New York Times/The New York Times Syndicate

Akos Stiller for The New York Times/The New York Times Syndicate


先日の『フィナンシャル・タイムズ』に,いま出現しつつある「ドラギノミクス」の方針に関する割とよさげな記事が載ってた.ドラギノミクスは,「ブランシャーノミクス」にすごくよく似ていて,そのブランシャーノミクスはクルーグマノミクスにすごくよく似ている――まーね,ぼくらはみんな,1970年代中盤に MIT でマクロ経済学を学んでいたし.

でも,ぼくはちょっとばかりびっくりした:「政策担当者・企業人・学者たちが一堂に会したイタリア・フォーラムに参加していたユーロ圏の高級官僚の1人はこう発言した:『構造改革がカギだ.改革の努力をしてきた国々ほど,実績がすぐれている――アイルランドしかり,スペインしかり,ポルトガルしかりだ.イタリアとフランスは,これについて少しばかり再考すべきだろう.』」

あ,はい.スペインはフランスにとって有益な教訓をくれますわよねー(グラフ参照).

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[▲失業率の推移:スペイン(青)とフランス(赤)]

構造改革カルトの一員じゃないぼくらにとって,スペインの物語はこんな具合だ:スペインは,住宅バブルがはじけたときに本格的な不況を経験した.この不況は,やがて緩慢で痛みをともなう「内的切り下げ」,つまり労働コストの削減につながった.これでスペインはヨーロッパの他の国々と競争できるようになった.その結果,スペインはようやくちょっぴり回復しはじめている.ここいくつかの四半期をみると,スペインの成長率はフランスを上回っている(でも,上回ってるのは最近だけだ).

これを「構造改革の勝利」と見るには,相当な先入観が必要だ.わざわざデータを見なくちゃいけない理由がわかんないくらいに強い先入観がね.

© The New York Times News Service


30年代の再演

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2008年の経済危機が起こったとき,ちょっとでも歴史を知ってる人なら,誰もが1930年代の再演について悪夢を見た――大不況の深さに関する悪夢だけじゃなくて,独裁と戦争にいたる政治の下方スパイラルについての悪夢もだ.

ただ,今回はちがう:金融恐慌は収束したし,産出と雇用の急落もおさまったし,現代ヨーロッパの民主政治文化は,かつての戦間期よりも強固なのを証明して見せた.よろしい,警戒解除!

――とはいかないかもよ.経済学の観点から見ると,効果的な危機対応のあとに続いたのは,緊縮策への見当違いな切り替えだった.しかも,ヨーロッパでは,ダメな金融政策がなされたうえに,共通通貨制度はいくつかの点で金本位制にも劣るのが明らかになりつつある.その結果どうなったかっていうと,危機がおきて数年は1930年代よりもはるかにマシだったのに,現時点でヨーロッパの経済実績は1935年のそれより実は劣ってたりする.

また,政治状況も浸食が進みつつある.ヨーロッパのなかで,ハンガリーはすでに,指導者が自由民主制を終わらせる意志を公言しているところまできてる.緊縮策のおかげさまで,極右政党があちこちの選挙で地歩を固めつつある.なかでも,いちばん新しいショックな例が,スウェーデンだ(スウェーデンは当初の成功をふいにした).それに,もちろん,分離主義運動がみんなを脅かしている.

政治の面では,ぼくらはまだまだ1930年代ほどひどくなってはいない.でも,大恐慌 2.0 への政治的対応について自画自賛するのは,ほんの数年前の経済的な楽観論とおなじくらいバカっぽく見えるようになっていきやしないか,そろそろ気がかりだよね.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

ドラギの新刺激策

by ショーン・トレイナー

何ヶ月にもわたって,あれこれと憶測が飛び交ったあと,9月4日に欧州中央銀行の公式発表がでた.ユーロ圏経済に刺激を与えるよう設計された債券購入プログラムを実施するというのが,その内容だった.だが,欧州中央銀行は量的緩和プログラムの実施を見送った.量的緩和プログラムとは,中央銀行が政府債権・国債を購入するもので,一部の国々では当局がこれを行ってきた.

そのかわりに,欧州中央銀行の総裁マリオ・ドラギが公表したのは,欧州中央銀行による,上限7000億ユーロ(9070億ドル)までの資産担保型証券の購入だ.このプランは,相反する意見の妥協案と考えられている.また,ドラギ氏は,ユーロ加盟国のなかでドイツをはじめとして豊かな国々が大陸諸国の需要を増やすために財政刺激策を打つことを求めた.

だが,ドイツ当局はこのプログラムを強く批判し,新たな財政支出の呼びかけに抵抗した.「ますます多額の公的な資金を使ってよりいっそう大きな赤字と債務を容認してゆけば,道を見失うことになる」と財務大臣 Wolfgang Schäuble はドイツ議会に答弁した.欧州中央銀行は,ヨーロッパでの「構造改革」が重要だという点を強調し続けている――これには,緊縮策と労働市場の規制緩和が含まれる.こうした「構造改革」をドイツの議員たちは支持している.

『ウォールストリート・ジャーナル』のヨーロッパ担当チーフ解説員のサイモン・ニクソンは,9月7日付の分析で,欧州中央銀行の動きがもつ意味をこう解説している.「これは,合意によって前進していく模索をドラギ氏が放棄したことを示している」とニクソン氏は言う.「おそらく,量的緩和を行う合意をつくるのが可能になる見込みがないと彼は計算したのだろう.もし経済とインフレの回復がなされなかったときには,国債購入への明確な経路があることが,ここから読み取れる.また,ドイツによる反対で自分の進む方向が邪魔されるのをドラギ氏がよしとしないこともわかる.」

ユーロ圏のインフレ率は,いまなお 0.3 パーセントにすぎない.多くのアナリストたちは,デフレに陥る危機がすぐそこにまで迫っていると懸念している.物価下落がはじまれば,大陸諸国はデフレ・スパイラルに突入しかねない.もしそうなれば,物価が下落していくことによって,需要は減り,それによって物価はいっそう下落していくことになる.そこには,長きにわたって経済成長を失う期間が続く事態にヨーロッパ地域を追い込む可能性がある.

© The New York Times News Service


Comments

  1. 他国の事なんてどうでもいいのではないでしょうか?
    日本の事の方が大事。
    特にヨーロッパは植民地でいままで潤ってきたのだから
    経済成長が抑制されるのは当たり前。

    • >>特にヨーロッパは植民地で潤ってきたのだから、経済成長が抑制されるのは当たり前。

      はい、経済学的でなくイデオロギー的な観点で経済を語るのは、もってのほかです。気をつけましょう。

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