タイラー・コーエン 「大学院時代の思い出 ~マイルズ・キンボールはじめその他大勢の同窓と過ごしたハーバード大学の博士課程での日々を振り返る~」(2012年7月10日)/「アラン・クルーガーよ、安らかなれ」(2019年3月18日)

●Tyler Cowen, “Reminiscences of Miles Kimball, and others”(Marginal Revolution, July 10, 2012)


マイルズ(キンボール)は、私と同じ年にハーバード大学の博士課程に進学した同窓の一人だ。同窓の院生の中で誰よりもキレキレの理論家だったのは、マイルズとアビジット・バナジー(Abhijit Banerjee)の二人。彼らを相手に講義で何かを教えるのは、とんでもない恐怖だったに違いない。二人ともこの上なく紳士的な人物ではあったが、講義の最中に黒板に書き付けられる説明だったり論文の中の記述だったりに間違いや曖昧なところがあったりすると、二人からツッコミが入ること間違いなしだった。マクロ経済学の最終試験でのことだったが、アビジットが問題の一つを解いていると、教授陣が用意しているであろう模範解答は間違いであることに気付いたらしく、どこがどう間違っているかを指摘。それに加えて、正しい解を導き出すだけでなく、その他にも答え(解となり得る均衡)が複数あることまで発見したのだ。そこまでやって、試験の時間はまだたっぷり残っていたのだ。

スティーヴン・カプラン(Steven Kaplan)も同窓の一人だ。今では実証家(実証研究を専門とする学者)として知られている彼だが、院生時代には理論家として秀でた才能を示していた。マイルズ、アビジット、スティーヴンの三人が仲間内での理論談義の多くで中心にいたものだ。マティアス・ドュワトリポン(Mathias Dewatripont)も理論をお手の物にしていた一人だった――物静かな性格ということもあって、理論談義にはあまり口を出さなかったけれど――。2年上の先輩にアラン・クルーガー(Alan Krueger)がいたが、数ある実証論文の中からどれが重要な論文かを見抜くピカイチの鑑識眼を備えていただけでなく、実証研究のイロハに精通している人物という評判も勝ち得ていた。アランは、ラリー・サマーズ(Larry Summers)から多くを学んだようだ。ヌリエル・ルビーニ(Nouriel Roubini)も同窓の一人だったが、何もかもを知り尽くしているかのようなオーラを放っていて、いささかお疲れ気味に見えることも時にあったが、概して物静かだったという印象だ。

ブラッド・デロング(Brad DeLong)は何歳か年上だが、同窓の一人だった。当時は(同窓の他の面々と比べると)若干右寄りの思想の持ち主と思われていて、アダム・ファーガソンの著作をはじめとして経済思想史方面のちょっと変わった本を大量に読み漁っていた。ブラッドには恋人(今の奥さん)がいたが、二人は切っても切れない関係で、いつ見ても愛に溢れたカップルだったように記憶している。

マイルズは、(良い意味で)「流転する精神」の持ち主というのが私なりの印象だ。そういう印象を持っていたこともあって、マイルズが1984年に言語学の修士――修士論文では、チャールズ・パースについても取り上げられている。パースについてよく調べられていて、独創的な議論も展開されている――を取得したと聞いても驚かなかった。ところで、(2012年のアメリカ大統領選挙に共和党候補として出馬した)ミット・ロムニーは、マイルズの従兄弟(いとこ)だ。マイルズのブログで「ロムニーが信奉するモルモン教は、彼をサプライサイド・リベラルの信奉者に変えるか?」という問いが持ち出される日もそう遠くないだろう。博士課程で一緒に学んだ同窓の面々について、マイルズがどう思っているか聞いてみたいところだね。

マイルズは、リバタリアンでもなければ、進歩派でもない。両陣営のアイデアを組み合わせるというのが彼の姿勢であり、だからこそ彼のブログは新鮮なのだ。私がRSSリーダーに登録しているブログの主は、大抵がリバタリアンか進歩派のどちらかだが、そうなっている理由の一部は、ブログ界に備わる奇妙な選抜メカニズムのせいであって、経済学界のあり方をそっくりそのまま反映しているわけではないのだ。

マイルズのブログはこちら、ツイッターのアカウントはこちら。何よりも真っ先に指摘しておくべきなのは、マイルズが「偉大な父親」であるらしいということだ。少なくとも、愛娘はそう思っているようだ。マイルズの娘も(MBAの取得を目指して)ハーバード大学で学んでいる最中とのこと。彼女が立ち上げているプロジェクト「Expert Novice」(筋金入りの素人)のサイトはこちら。「最近学んだばかりのあれこれをテーマに、月1ペースくらいでメールレターをお届けする」らしい。

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●Tyler Cowen, “Alan Krueger, RIP”(Marginal Revolution, March 18, 2019)


アラン・クルーガーが亡くなったという報せはもう既に耳に入っているかもしれないが、今からでも賛辞の言葉を送るなり哀悼の意を表するなりしても不適当ということはなかろう。アランは、ハーバード大学の博士課程で一緒に学んだ一人だ。アランは、未来のノーベル経済学賞候補の一人と目されていた。彼の新しい論文なり著書なりが発表されると、その大半に目を通してきたものだ [1] 訳注;アラン・クルーガーの業績を概観している記事としては、例えばこちらこちらこちらを参照のこと。。しかしながら、アランと言えば、1980年代半ばに博士課程でともに学んでいた時の姿がいつも決まって真っ先に思い出される。本当に悲しくてならない報せだ。

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1 訳注;アラン・クルーガーの業績を概観している記事としては、例えばこちらこちらこちらを参照のこと。
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