ポール・デ・グラウエ 「“通常の景気後退期”における財政政策と“異常な景気後退期”における財政政策」(2010年3月30日)

各国の政府は、財政刺激策を継続すべきだろうか? それとも、できるだけ速やかに財政引き締めに転じるべきだろうか? 本稿では、3タイプの異なるマクロ経済モデル――ケインジアンモデル/ニューケインジアンモデル/リアルビジネスサイクルモデル(リカーディアンモデル)――を比較した上で、財政刺激策を継続すべきか財政引き締めに転じるべきかという問いに対する答えは、経済が直面している景気後退のタイプによって変わるとの主張を展開する。「通常の景気後退期」(“normal recessions”)においては、ニューケインジアンモデルが最も適切なモデルである。その一方で、「異常な景気後退期」(“abnormal recessions”)においては、ケインジアンモデルが最も適切なモデルである。

●Paul De Grauwe, “Fiscal policies in “normal” and “abnormal” recessions”(VOX, March 30, 2010)


世界的な経済危機が勃発した2008年以降、各国の財政赤字ならびに政府債務は急速な勢いで増えることになった。このような事態を受けて、景気を刺激する上で財政政策はどのくらい有効なのかをめぐり、活発な論争が繰り広げられている。この論争の行方は、重要な意味合いを持っている。というのも、論争の行方次第によって、今後の財政政策の方向性についての立ち位置――このまま財政刺激策(拡張的な財政政策)を継続すべきなのか、それとも可能な限り速やかに財政刺激策からは手を引くべきなのか――が決せられることになるからである。

財政政策の有効性をめぐっては、経済学者の間で意見に違いがあると聞かされても特段驚かされはしないだろう。経済学者間での意見の違いは、以下の図1に明瞭なかたちで表れている。この図は、アメリカ経済に関する異なるマクロ経済モデルから予測される財政政策の乗数効果をサーベイした最近の論文(Cogan et al. 2009)から転載したものであり、アメリカ経済に関する2つの異なるモデル――Romer&BernsteinモデルとSmets&Woutersモデル――から予測される財政政策の乗数効果が示されている。具体的には、政府支出が1%だけ恒久的に増えた場合に、アメリカの実質GDPがどのくらい増えると予測されるかが示されている。

図1から確認できるポイントをまとめると、以下のようになる。Romer&Bernsteinモデルでは、政府支出が増えてから1年後に強力な乗数効果が表れ、その効果はその後もずっと続くという結果になっている。その一方で、Smets&Woutersモデルでは、政府支出が増えてから4年後に乗数の値が0.4にまで落ち込み、その値(乗数の値)は時とともにゼロに向けて低下していくことになる。

図1. 政府支出の1%の恒久的な増加がアメリカの実質GDPに及ぼす効果

出典: Cogan, et al. (2009)

これら2つのモデルの根本的な違いをもっとわかりやすいかたちで捉えたのが、以下の図2である。図2では、Romer&BernsteinモデルとSmets&Woutersモデルとで政府支出が恒久的に1%だけ増えた場合に実質GDPが辿ることになる経路に加えて、財政刺激策(政府支出の1%の恒久的な増加)が試みられなかったとしたら実質GDPが辿ると想定される経路(ベースライン)も跡付けてある。

  図2. 実質GDPが辿る経路:3つのシナリオ

出典: Cogan, et al.(2009)のデータに基づき筆者が作成

根本的に異なるビジョンに基づくモデル

図2に描かれているように、Romer&Bernsteinモデルでは、拡張的な財政政策のおかげで経済がベースラインを上回る経路に引っ張り上げられることになる。それも、ずっとだ。その一方で、Smets&Woutersモデルでは、財政刺激策が試みられるにもかかわらず、経済は時とともにベースラインに向けて立ち戻る傾向にある。これら2つのモデルは、経済の働きに関して根本的に異なるビジョンに基づいているのだ。

どういうことかというと、Romer&Bernsteinモデルでは、複数の異なる均衡が存在していて、政府が政策を通じて経済を別の均衡に誘導することが可能となっている。その一方で、Smets&Woutersモデルでは、均衡が一つしか存在せず、財政刺激策が試みられた後に経済はやがてその唯一の均衡に立ち返ることになるわけである。言うまでもなかろうが、異なるビジョンに基づくこれら2つのモデルからは、財政刺激策からどのくらい速やかに手を引くべきかについて異なる回答が寄せられることだろう。

3タイプのマクロ経済モデル

図2における3つのシナリオと突き合わせるようにして、マクロ経済モデルを3つのタイプに分類できる。異なるタイプのマクロ経済モデルは、財政政策の有効性についてそれぞれ異なる予測を導く。

第1のタイプは、ケインジアンモデルである。Romer&Bersteinモデルがこのタイプに該当する。ケインジアンモデルにおいては、財政刺激策が産出量(実質GDPの水準)を恒久的に高める結果となるのが一般的である。さらには、ケインジアンモデルでは、均衡が複数存在する可能性があり、複数ある均衡のうちのいくつかでは雇用量が完全雇用水準に満たない可能性がある。

第2のタイプは、リアルビジネスサイクル(RBC)モデルである。このモデルでは、リカードの中立命題(Ricardian equivalence)が成り立つと想定されており――それゆえ、リカーディアンモデルとも呼び得るだろう――、個々の経済主体は合理的かつ将来志向(forward looking)であると見なされる。どういうことかというと、現時点において財政赤字が拡大すると、将来において増税が行われると見通すわけである。個々の経済主体は、将来の税負担額の増分の割引現在価値を計算した上で、(将来の増税に備えて)それと同じ額だけ今のうちに貯蓄を増やすと見なされるのである。それゆえ、リアルビジネスサイクルモデルにおいては、財政刺激策は民間の経済主体による貯蓄の増加によって完全に相殺されてしまい、財政政策の乗数の値はゼロになる。乗数の値がゼロということは、財政刺激策が試みられたとしても、実質GDPがベースラインと同じ経路を辿ることになるわけである。

第3のタイプは、ニューケインジアンモデルである。Smets&Woutersモデルがこのタイプに該当する。ニューケインジアンモデルにおいては、財政刺激策が産出量(実質GDPの水準)を高める効果は長続きしない。財政刺激策が試みられた直後に関しては、産出量に対してケインジアンモデルと非常に似た効果が生じる。しかしながら、リカーディアンモデルと同様に、合理的で将来志向の経済主体が将来の税負担の増加に備えて貯蓄を増やす――それに伴い、民間消費と民間投資が減少する――ために、乗数効果は時とともに弱まり、産出量は次第にベースライン――リカーディアンモデルにおいて経済が辿ることになる経路――に向かって収束していくことになる。リカーディアンモデルと比べると、産出量がベースラインに立ち返るまでに長い時間がかかるが、その理由は(名目)賃金や(名目)価格が硬直的なためである。現在の「最先端」のマクロ経済モデルの大半は、ニューケインジアンモデルに属しており、そのいずれもがSmets&Woutersモデルと似た特徴を備えている(Cwik and Wieland 2009)。

それぞれのマクロ経済モデルについてのこれまでの簡単な特徴付けからも窺い知れるように、ケインジアンモデルとニューケインジアンモデルの違いの方が、リアルビジネスサイクルモデル(リカーディアンモデル)とニューケインジアンモデルの違いよりも根本的だと言えよう。

ケインジアンモデルにおいては、産出量が長期的な均衡に向けて自動的に回帰する傾向というのが存在しない。そのため、政府による政策が産出量に対して恒久的な効果を持ち得ることになる。それに対して、ニューケインジアンモデル――ならびに、リカーディアンモデル――は、経済の働きについてケインジアンモデルと大きく異なるビジョンに立っている。ニューケインジアンモデルにおいては、財政刺激策が試みられると、金利や(名目)価格、(名目)賃金の調整が誘発されて、それに伴って民間消費や民間投資のクラウドアウト(減少)が生じる。その結果として、産出量が長期的な均衡に引き戻されることになる。リカーディアンモデルでは、瞬く間に長期的な均衡に復することになる。ニューケインジアンモデルでは、賃金や価格が硬直的なために、長期的な均衡に復するまでに時間がかかる。そういう違いはあるが、ニューケインジアンモデルとリカーディアンモデルは基本的には同じ構造を共有しているのだ。

最も適切なマクロ経済モデルはどれか?

「通常の景気後退期」(“normal recessions”)において最も適切そうなのはおそらくニューケインジアンモデルで、「異常な景気後退期」(“abnormal recessions”)において最も適切そうなのはおそらくケインジアンモデルというのが私なりの見立てである。ニューケインジアンモデルを含む均衡モデル(Equilibrium models)は、「通常の景気後退」を理解するのに役に立つ。というのも、「通常の景気後退期」には、均衡化メカニズムが働く――例えば、金利や価格が変化して経済が長期的な均衡に引き戻される――余地があるからである。ニューケインジアンモデルを含む均衡モデルは、経済を長期的な均衡に引き戻すのに財政政策がどのくらい助けになるかを理解するヒントをくれるだろう。例えば、経済に対してネガティブな需要ショック(総需要の収縮)が生じたとしよう。ニューケインジアンモデルによると、ネガティブな需要ショックの影響によって産出量が落ち込むのは一時的で、産出量はそのうち長期的な均衡に復することになろう。しかしながら、産出量が長期的な均衡に復するまでにはしばらく時間がかかることになろう。そうだとすると、財政刺激策に期待される役割は、(ネガティブな需要ショックの影響で落ち込んだ)産出量が長期的な均衡に立ち返るのを速める(短縮する)点に求められることになり、 そのためにも財政政策の乗数の値がどれくらいなのかを知るのは政策当局者にとって重要になってくる。ニューケインジアンモデルから得られる証拠によると、財政刺激策が試みられた直後の乗数の値は1くらいであり、その値は時とともに急速に低下することになる。「通常の景気後退期」においては財政政策は有用であり得るが、それと同時に、(財政刺激策が長引き過ぎたりその規模が大き過ぎたりして)経済が過熱(オーバーシュート)しないように注意しなくちゃいけないというのがニューケインジアンモデルの教えということになりそうだ。さらには、「出口戦略」(“exit strategy”)は早足で進めるべしというのがニューケインジアンモデルの教えということになりそうだ。

「通常の景気後退」か? それとも「異常な景気後退」か?

我々が今まさに直面しているのは「通常の景気後退」なのだろうか? その答えはおそらく「ノー」だろう。なぜそう言えるのかを説明するために、ここで3種類のデフレスパイラル(deflationary spirals)を区別するとしよう。いずれのデフレスパイラルも今般の危機の最中にその牙をむいたのだ。

  • ケインジアン流の貯蓄のパラドックス:多くの人が一斉に自信を失う「集合的な自信の低下」(collective lack of confidence)の結果として大勢がこぞって貯蓄に励み、そのせいで自己実現的な産出量の落ち込みが発生。
  • フィッシャー流のデット・デフレーション: 「集合的な不信の発生」(collective movement of distrust)をきっかけとして、大勢がこぞって債務の削減に走る。大勢が(債務の返済資金を得るために)一斉に手持ちの資産を売るせいで、資産価格が低下する。資産価格が低下するせいで、バランスシートがさらに毀損し(資産額から負債額を差し引いた純資産額が縮小し)、そのせいでさらに自滅的な資産の売却が試みられる。
  • 銀行信用デフレーション:民間の銀行がリスクを過度に嫌い、一斉に貸し出しの抑制に向かう。そのせいで、(既存の貸出先の資金繰りの悪化に伴って)既存の貸出債権のリスク(貸し倒れリスク)が高まる。

これら3種類のデフレスパイラルは、共通の構造を有している。いずれのケースでも、個々の経済主体による行動(貯蓄、債務削減、貸出の抑制)に負の外部性が付きまとい、そのせいで自滅的な結果が招来されることになるのである。さらには、いずれのデフレスパイラルも、集合的な恐怖/集合的な不信/集合的なリスク回避がきっかけで引き起こされることになる。(負の外部性が原因で生じている問題を一致団結して解決するための)集合行為にはコストがかかるために、負の外部性は内部化されずに放っておかれる。「コーディネーションの失敗」が生じてしまう――社会的に悪い結果を回避するために、一人ひとりの行動をコーディネートするのに失敗してしまう――のである(この点について詳しくは、Cooper and John(1988)を参照せよ)。

このような「市場の失敗」は、異なる人々の信念が同調する(同じ方向になびく)――言い換えれば、「アニマルスピリッツ」(“animal spirits” )が経済全体を覆う;Akerlof and Shiller(2009)も参照――ために引き起こされる。異なる経済主体の信念が同調しないようなら、市場は一人ひとりの異なる信念を巧みにコーディネートすることになろう。しかしながら、アニマルスピリッツが経済全体を覆うようなら、市場は「良い均衡」(“good equilibrium”)の実現に向けて一人ひとりの行動をコーディネートするのに失敗してしまうと予想されるのである(この点については、Farmer and Guo(1994)も参照せよ)。

これら3種類のデフレスパイラルは共通の構造を有しているわけだが、ある面では違いも存在する。貯蓄のパラドックスに基づくデフレスパイラルは、「フローのデフレーション」(“flow deflation”)と呼べるだろう。というのも、消費者がフロー(貯蓄)を変えようと試みるせいで起きるからである。その一方で、フィッシャー流のデット・デフレーションや銀行信用デフレーションは、「ストックのデフレーション」(“stock deflations”)と呼べるだろう。ストック――債務の水準や銀行信用(貸出)の水準――の調整に伴って起きるからである。「フローのデフレーション」と「ストックのデフレーション」が相互作用し始めるや、厄介な問題が発生してしまうのだ。

戦後になって我々がこれまでに経験してきたような「通常の景気後退」においては、「フローのデフレーション」だけがその牙をむいた。家計にしても企業にしても民間銀行にしても、バランスシートの調整に走るようなことはなかったのである。将来の所得や利潤が減るのではないかと恐れて、悲観的になった家計や企業が貯蓄の増加に励んだとしても、強力な均衡化メカニズムが自動的に働いて、経済が止めどない下降スパイラルに陥るような事態は回避された。最も重要な均衡化メカニズムは、銀行部門を介して働いたのだった。

2007年以降に世界経済が直面することになった問題は何かというと、「フローのデフレーション」と「ストックのデフレーション」が相互作用して互いに補強し合ったことだ。現在の危機に至るまでの間に、民間部門において過剰な債務が積み上げられた。それが原因で「ストックのデフレーション」が強力に作動する土壌が形成されてしまったのである。さらには、「通常の景気後退期」であれば自動的に働く均衡化メカニズムもその機能を発揮しなかった。中央銀行によって金利が引き下げられたものの、民間銀行が貸し出しを抑制したために、その恩恵(金利の低下)が消費者や企業にまで及ばなかったのである。

我々は、「フローのデフレーション」と「ストックのデフレーション」が相互作用する事態に直面している。積み上げられた過剰な債務を前にして、家計は債務を減らして貯蓄を増やそうとしている。しかしながら、(貯蓄のパラドックスとデット・デフレーションのメカニズムが働くために)待っているのは自滅的な結果だろう。貯蓄も増えないし、債務も減らないだろう。そこで、家計はまたもや貯蓄を増やそうと試みるだろう。預金金利が低下しているにもかかわらず、民間銀行が貸出金利を引き下げずにいるのも事態の悪化に手を貸している。それに加えて、今のような状況では企業も投資を増やすインセンティブを持たないだろう。つまりは、デフレスパイラルを食い止めるストッパーがどこにも見当たらないのだ(Minsky(1986)とFazzari, et al.(2008)も参照せよ)。

集合行為を通じた「コーディネーションの失敗」の解決

現下の経済の落ち込みがかくも深刻なのは、「コーディネーションの失敗」の結果である。市場が社会的に好ましい結果の実現に向けて一人ひとりの行動をコーディネートするのに失敗した結果である。

このような「市場の失敗」は、政府によって組織化された集合行為を通じて解決することが原則的には可能である。経済を回復させるためには、銀行部門を安定化させられるかどうかがキーになる。経済が依然として「流動性の罠」に嵌っていることを示す証拠はあるものの、銀行部門はどうにか安定を取り戻したように思える。ケインズ流の貯蓄のパラドックスやフィッシャー流のデット・デフレーションという「コーディネーションの失敗」についてはどうかというと、政府が貯蓄を切り崩す(財政赤字を拡大する)だけでなく、債務(政府債務)を積み増すことによってどうにかこうにか難を逃れた。政府がこのような行動をとらなかったとしたら、民間部門は貯蓄を増やすことも債務を減らすこともできなかっただろう。かくして、「フローのデフレーション」と「ストックのデフレーション」の相互作用に基づく経済の下降スパイラルが食い止められたのだった。

これまでの分析が2007年に始まった景気後退のメカニズムを的確に描写できているとすれば、安定的な均衡の存在を想定しているモデルから得られる財政政策の乗数の推計結果はまったくあてにならないということになろう(例えば、Wieland(2009), Cogan et al.(2009), Fatás and Mihov(2009), Hassett(2009)も参照せよ)。政府が財政赤字を拡大して債務(政府債務)を積み増したおかげで、民間部門におけるコーディネーションの問題が解決されたし、民間の経済主体が望み通りに貯蓄を増やすことも債務を圧縮することも可能となったのだ――それも、経済を不安定化させることなしに――。政府の一連の行動に伴う「乗数」効果は極めて大きい可能性があるが、その具体的な値を推計するのは難しいだろう。

持続不可能な債務?

民間の債務が政府の債務によって置き換えられる――民間部門が債務を圧縮する一方で、政府が財政赤字を拡大させて公的債務を積み上げる――のに伴って、一つの問題が持ち上がっている。マーケットの関心事ともなっている問題でもある。政府債務の持続可能性がそれだ。もしも政府債務の持続可能性に疑問符がつくようなら、政府はできるだけ速やかに出口戦略に乗り出す(財政引き締めへと財政政策のスタンスを転換する)べきということになろう。しかしながら、この問題は民間債務の持続可能性と切り離して論じることはできない。

民間の債務が依然としてまだまだ高い水準にあって、今後も民間の経済主体が債務の圧縮を継続しなければならないと考えられるようなら、政府ができるだけ速やかに出口戦略に乗り出すべきかどうかについてはっきりとした判断を下すことはできない。というのも、出口戦略のタイミングを間違えて先走ってしまうと、それと引き換えに民間の債務が持続不可能な水準にまで膨れ上がってしまって、そのせいで新たにデフレスパイラルの発生を許してしまう結果になってしまうかもしれないからだ。

つまりは、民間部門の債務が現時点において持続可能な水準にあるかどうかが肝心なのだ。言い換えると、民間の債務が持続可能な水準にあって、政府が財政赤字と債務(政府債務)の縮小に向けて動き出しても経済がデフレスパイラルに陥る恐れがないと言えるかどうかが肝心なのだ。残念ながら、今の段階でこの問いに答えを出すのは難しい。というのも、民間の債務が持続可能な水準にあるかどうかを見極めるのは困難だからである。フィッシャー流のデット・デフレーションのメカニズムを思い起こしてもらいたいが、誰かしらが負っている債務の持続可能性は他の誰かの行動に依存しているのだ。この外部性の存在ゆえに、持続可能な債務の水準を見極めるのはいつだって難しいのだ。

<参考文献>

●Akerlof, George, and Robert Shiller (2009), Animal Spirits: How Human Psychology Drives the Economy and Why It Matters for Global Capitalism, Princeton University Press, 264.
●Cogan, John, Tobias Cwik, John B Taylor and Volker Wieland (2009), “New Keynesian versus Old Keynesian Government Spending Multipliers”,CEPR Discussion Paper 7236, March.
●Cwik, Tobias, and Volker Wieland (2009), “Keynesian Government Spending Multipliers and Spillovers in the Euro Area”, CEPR Discussion Paper 7389.
●Cooper, Russell W and John, Andrew (1988), “Coordinating coordination failures in Keynesian models”, Quarterly Journal of Economics, 103:441-463.
●Farmer, Roger and Jang-Ting Guo (1994), “Real Business Cycles and the Animal Spirits Hypothesis(pdf)”, Journal of Economic Theory, 63, 42-73.
●Fatás, Antonio and Illian Mihov (2009), “Why Fiscal Stimulus is Likely to Work”, International Finance 12:1, Spring.
●Fazzari, Stevan, Pierro Ferri and Edward Greenberg (2008), “Cash flow, investment, and Keynes–Minsky cycles”, Journal of Economic Behavior and Organization, 65:555–572.
●Fisher, Irving (1933), “The Debt-Deflation Theory of Great Depressions(pdf)”, Econometrica, 1:337-57, October.
●Leijonhuvud, Axel (1973), “Effective demand failures”, Swedish Journal of Economics, 75:27-48.
●Minsky, Hyman (1986), Stabilizing an Unstable Economy, McGraw Hill, 395pp.
●Reinhart, Carmen and Kenneth Rogoff (2009), “The Aftermath of Financial Crises”, NBER Working Paper 14656.
●Smets, Frank and Raf Wouters (2007), “Shocks and Frictions in US Business Cycles: A Bayesian DSGE Approach”, American Economic Review 97, 3: 506-606.
●Wieland, Volker (2009), “The fiscal stimulus debate: “Bone-headed” and “Neanderthal”?”, VoxEU.org, 31 March.

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts