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マイケル・カレン, サアド・グルザール, ムハンマド・ヤシル・カーン, アリ・ハスナイン 『公共部門における常習的欠勤問題』 (2016年8月21日)

Michael Callen, Saad Gulzar, Muhammad Yasir Khan, Ali Hasanain,”The problem of public sector absenteeism” (VOX, 21 August 2016)


発展途上国では、公務員の常習的欠勤がしばしば深刻な問題となっている。こうした事態が生ずる理由の一つとして、政府役職の割当てが政治的忠誠を労う一種の庇護関係の一環として行われていることが考えられる。本稿では、パキスタンのパンジャーブ地方における政府任用医師の常習的欠勤に対処すべく考案された或る介入政策の成果を紹介する。同プログラムでは、政府検査官に対し情報の流れを円滑化するためのスマートフォンアプリが配給され、これにより検査率が改善している。こうした結果は政治的庇護関係仮説を裏付けるものであり、またデータ主導的な政策画定への強い後押しとなった。

職場に出てこない公務員というのが発展途上国で大問題になっている。Chaudhury et al. (2006) ではこの問題がどれほど露骨なものかを示す事例が幾つか提示されているが – なんと政府任命医師の常習的欠勤率は、ペルーで25%・ウガンダで37%・インドネシアでは40%にも及ぶのである。問題の緊急性を受け、政策画定者は斬新な解決案をさまざま試みており、例えばインドでは教師達に自分が教室にいるところを写真に撮るよう伝える単純なものから (Duflo et al. 2012)、遠隔バイオメトリック監視ステーション (Dhaliwal and Hanna 2016) に至るまで幅広い取組みが行われている。だが、多くの場合こうした改革も時が経つに連れなし崩しに元の状態に戻されてしまうのが現状だ (Banerjee et al. 2008, Olken and Pande 2012)。これは明らかに1つの政策問題である。こうした改革を定着させるにはどうすればよいか?

こうした問題意識のもと我々は、公務員の常習的欠勤の原因を解明すべく1つのプロジェクトを打ち出したのだが、問題との取組みにあたっては、パキスタンのパンジャーブが理想的な環境を提供してくれた。そう言うのには幾つか理由がある。先ず第一に、パンジャーブでも常習的欠勤が深刻な問題となっていること – 我々の調べでは68.5%の医師が通常勤務時間のあいだ不在であった。第二に、同政府が 『監視者の監視 [Monitoring the Monitors]』 計画という斬新な改革計画を進めていたこと。政府は政府検査官へのスマートフォン支給を通して、彼らが執り行う政府診療所の検査をジオスタンプ・タイムスタンプで管理しようと目論んでいたのだ。そのおかげで医師の欠勤に関する情報がリアルタイムで伝達できるようになっている。同改革は検査官に対し、月毎の検査割当て分の履行完了にむけて以前よりずっと切実なインセンティブを与えようとするものだった。第三に、パンジャーブは1億人を超える人口を擁する州であるため、一大国規模での改革を研究するよい機会にもなっている。

常習的欠勤の抑制をめざす改革がしばしば不成功に終わる原因を解明する

我々は先ずインフォーマルに幅広い政策画定者を訪問し、同改革も結局無効になってしまうとすればそれは何故だと考えるかを尋ねるところから始めた。「政治家は自分の息の掛かった人間を保護しようと干渉してくるでしょう … またそれを可能とする権力を維持したがるはずです」 というのが政策画定者側の一貫した言い分だった。パキスタンでは、政治家が庇護関係の一環として公共部門の役職に関する己の影響力を行使しているのは周知の事実である。そうした慣習の1つに、医師をその郷里の町に配置してやるというのがある。そこでは医師は広範な人脈をもっているので、政治家はこうした関係を迫りくる選挙の時節に利用できるというわけだ。その見返りとして、医師は劣悪な職務実績を理由とする営業停止や転勤その他の懲戒に対する保護を訴えることができる。これにより医師には公共部門の給料を引出しつつ、民間診療所での内職に励むという芸当が可能になる (Das et al. 2016)。誤解の無いようここで述べておくと、そもそも政治家には医師の診療所への割当てや懲戒に関する公的権限など一切無いはずなので、公式には、こうした慣習も純然たる官僚機構的機能として行われているのである。とはいえ、同問題が広く蔓延しているのは確かだ – 本研究を通して、官僚達は被雇用者の懲戒を試みるさいに一年あたり平均して2回の干渉を政治家から受けていたことが明らかになった。それもそのはずで、上級保険官僚の44%がこうした経験を報告しているほどである。

こうした考えを踏襲しつつ我々は、定性的側面を研究する相当量の政治学文献が、先進国の政治的展開期に見られた同種の現象について論述していることも明らかにしている (Sorauf 1956, Wilson 1961, Johnston 1979, Chubb 1983, Calvo 2004, Meyer-Sahling 2006, Kitschelt 2007)。こうした文献のおかげでこの考えはいっそう厳密になった。つまり、公務というのはこれ以上望みえないような庇護関係の温床なのだ; 個人単位で標的を選べるうえに、確かな利益の流れを生み出し、しかも職務条件 – 賃金・求人・報告に関する条件など – も政治家が左右できるのだから (Robinson and Verdier 2013)。実際のところ、こうした役職をさす用語 –  『閑職 (sinecure)』 – の語源は中世教会をその発祥とするが、そこでこの語は魂の心配 (care = cara) の無い (without=sine) 役職を意味していたのであり、政治的理由から割当てられることの多かった、実際の労務をほとんど或いは全く含まない諸般の役職を形容するものだった。

仮説検証

政策画定者のインタビューと豊富な歴史的文献を導きとしつつ、スマートフォン活用プログラム 『監視官の監視』 を査定するという文脈で、我々は公務の常習的欠勤率の高さを説明する 『庇護関係としての職業』 説の検証に取り掛かった。本実験のアドバンテージはそれが240もの議会選挙区を横断して実施されたものでるため、背景的な政治ダイナミクスに相当な多様性が確保できたところにある。

『監視者の監視』 改革は、パンジャーブにおける保険官僚機構が内部の異なる階層間でやりとりする情報流動量を増加させようとするものだった。当該官僚機構には3つの重要階層が存在する。最上層にいるのは36名の上級保険官僚、或いは地区行政官 [Executive District Officers]。これら上級保険官僚にレポートを提出するのが副地区行政官 [Deputy District Officers] である。この副地区行政官こそ 『監視者の監視』 プログラムの一環でスマートフォンを携行する段取りとなる検査官にほかならない。検査官は月毎に自らの管轄地域に在る全ての診療所を訪問、出勤状況の測定を行い、それからその測定結果を上級保険官僚の下にレポートする。従来は検査書類の総計を通して為されていたが、こうした作業は不正確なだけでなく非効率でもあって、医師の不在状況の効率的な監視を妨げる意図せぬ障壁を生み出す。じっさい本プログラム施行以前の検査率は絶望的なもので、各診療所は月毎に検査されなければならないはずなのに、前月に1度検査を受けたという診療所は全体の24.2%しかない有様だった。

検査官用のスマートフォンの導入が解決したこの背景問題は、単純ではあるが、諸般の政府エージェンシーに共通してみられるものだ。というのも監査を行う者達は広大な地理領域のあちこちに広がる諸般の機関から定期的に情報を収集しなければならないからだ。パンジャーブでは、2,496もの診療所が79,284平行マイル (大まかに言って英本国の面積に等しい) を超える領域に散在している。情報流動の向上をめざし、我々のチームは 『パンジャーブ保険局およびパンジャーブ保険セクター改革プロジェクト [the Punjab Department of Health and the Punjab Health Sector Reforms Project]』 と連携で、パンジャーブにおける35地区からその半数を無作為に選出したうえで、該当地区における既存監視ワークフローに新型アンドロイドベーススマートフォンのアプリケーションを取入れる試みを行った。図1は処置地区と対照地区を地図上に表示したもの。

図1. 処置地区および対照地区

データはスマートフォンを通して収集されたあと即座に中央オンラインダッシュボードに転送されるようになっている。このダッシュボードのおかげで上級保険官僚は把握の容易な要約統計量・チャート・グラフをリアルタイムで確保できる。図2にその一例を示した。

図2. ダッシュボードに表示される要約データ

本プロジェクトを通し、我々は次の3タイプのデータが収集できた:

  • 上級保険官僚および検査官とのインタビュー;
  • 同地方を代表するサンプルである850の診療所に勤める医師の立合い検査およびインタビュー; そして
  • 実験を行った240の政治選挙区における選挙結果に関するデータ.

良い知らせとなったのは、時が経つにつれその効果にも減退がみられたとはいえ、毎月検査を受けている診療所の割合が、本スマートフォンアプリケーションの導入を経て、元の24.2%から42.6%にまで上昇したことだ。そしてこの様に幸先の良い結果となった一方で、こうした追加的審査が医師に出勤を促すにあたって十分なものであるのかについて、実証成果は確たることを語らない。というのも、医師の出勤率に関して平均的な効果は全く見られなかったのだ。

庇護関係の職務が一環として利用されていることを示す実証データ

公共部門で常態化している職務の常習的欠勤を説明する 『庇護関係としての職業』 説だが、その裏付けとなる実証データは4つ在る。第一に、上級保険官僚および検査官へのインタビューを通して、官僚業務に対する政治家の干渉が日常茶飯事と化していることが明らかになった。

第二に、各選挙区を隔てる境界線上の正反対に近い領域にそれぞれ位置する診療所についてその出勤状態の違いを調べてみるだけで、政治家が他の候補者と大差をつけて勝利している所では出勤状態がかなり低くなっていることが明らかになった。完全に一政党の勢力下に置かれている選挙区から、全ての政党が同一の得票率を得ている選挙区に移ると、医師の出勤率は20.8%ポイントほど上昇をみせるのである。

第三に、『監視者の監視』 プログラムによる医師出勤率向上効果が最も良く見られたのは、政治的な競争の激しい地区だった。こうした地区では本プログラムに由来する検査回数の増加が医師出勤率を約10.2%ポイント上昇させていたことが明らかになっている。

第四に、本プロジェクトでは、スマートフォンシステムを介して送信されてくる不在状況のレポートに対し上級官僚がどのように対応するのかを検証することもできた。我々は診療所が低出勤率状態に陥っている旨を示すフラグ表示の閾値を恣意的に設定することで、医師不在状況に関する視覚化されたオンラインデータの顕出度を操作した。ダッシュボード上で実際に業績不振 [underperforming] のフラグが付けられた機関の実際の様子が図3に示されている。我々の知る限り、情報供給によって政策アクターの行動を変化させることができるのかを検証する実験としては、これが初めてとなる。さて結果だが、1つの診療所を赤色でフラグ付けすると、その後の医師出勤率は27%ポイント上昇した。競争の最も激しい方から数えた3分の1の選挙区では、1つの診療所をフラグ付けするとその後の出勤率は32%ポイント上昇したが、他方、競争の最も少ない方から数えた3分の1 [the least competitive tercile] では目立った影響は全くみられなかった。

図3. 医師出勤率の操作

政策への示唆

本研究は幾つかの示唆をもっている。第一に、近年だされた相当量の実証研究は国家の効率化を目指す改革の検討を行うものだった。しかしながら、こうした改革も必然的に何らかの政治的文脈を前提になされるわけで、そういったとき、公務員のインセンティブに対する事実的支配力の保持に殊更の関心を寄せる政治家がいることも考えられるのだ。今回の設定では、政治家は公務員のインセンティブを変化させるべく介入を行っているようである。

本研究結果はまた、公共部門の抱える様々な大問題に対してテクノロジーを利用した解決策がもつ潜在的有効性、とりわけそれを制度化し大規模に実施した場合の潜在的有効性を取上げた、最近勢いを増す一連の研究に貢献するものでもある。我々は、スマートフォンを利用しデータ収集と総計を自動化するだけで相当なインパクトが期待し得ることを示したが、スマートフォンを通した監視はパンジャーブ中の公共診療所の検査数を二倍近くも上昇させたのだった。その後 『監視官を監視する』 プログラムは、極めてアクティブな 『パンジャーブ情報技術委員会 [Punjab Information and Technology Board]』 の尽力によりパンジャーブ州全体に展開されており、同州の様々な部門で教育・予防接種・警察・道路工事・衛生などの領域でも同種の試みが広まっている。

最後に、我々の知る限り、今回の実験は実証データが政策決定にインパクトを与えるのかを直接に検証するものとしては初のものである。国際的援助提供者をはじめその他の政策アクターも、政策画定場面でのデータやエビデンスの活用を今まで以上に推奨するようになっているが、政策画定者へのデータ提供が兎も角なんらかのインパクトをもつのかについては知られていることは極めて少ない。情報顕出度に関する今回の実験結果は、上級官僚に対する実用可能な形でのデータ提供を通して常習的欠勤の抑制支援が可能となる仕組みを知らしめるものとなった。

参考文献

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Banerjee, E D and R Glennerster (2008) “Putting a band-aid on a corpse: Incentives for nurses in the Indian public health care system”, Journal of the European Economic Association, 6(2-3): 487–500.

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Chubb, J (1983) Patronage, power and poverty in southern Italy: A tale of two cities, Cambridge Studies in Modern Political Economies, Cambridge University Press, 1983.

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Johnston, M (1979) “Patrons and clients, jobs and machines: A case study of the uses of patronage”, The American Political Science Review, 73(2): 385–398.

 


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