マーク・ソーマ 「トランプ大統領=制度への脅威?」(2016年11月5日)

●Mark Thoma, “More Jobs, a Strong Economy, and a Threat to Institutions”(Economist’s View, November 05, 2016)


アダム・デヴィッドソン(Adam Davidson)がニューヨーカー誌で次のように書いている。

More Jobs, a Strong Economy, and a Threat to Institutions”:

・・・(略)・・・「制度」は、経済学者にとって極めて重要な意味合いを持っている。国が繁栄するのは、天然資源に恵まれているおかげでもなければ、国民の教育水準が高いおかげでもなければ、テクノロジーが進んでいるおかげでもない。その国に優れた制度が備わっているからだ、というのが経済学者の間での共通認識となっている。フォーマルな(成文化されていて、法的な裏付けのある)制度は、インフォーマルで(成文化されていなくて)その内容が口にされることも稀な「社会的な合意」によって支えられているという点は決定的に重要である。必要なのは、裁判所だけではない。「裁判所は公平な裁きを下してくれるに違いない」と国民によって信じられている必要もあるのだ。・・・(略)・・・

これまでの歴史を振り返ると、少数のエリートが貧民から富を掠め取るという例は枚挙に暇がない。少数の支配者たちが宮殿で暮らして権力を維持する――そうするには兵を養う必要がある――ために都合がいいようにルールが作られ、農民たちは重税を課せられて生存水準ぎりぎりの生活を余儀なくされる。しかしながら、支配者たちが被治者(あるいはその一部)の要求を飲まざるを得ない状況に追いやられ、新たなシステムが姿を現すという場合が時としてある。・・(略)・・・権力者が無力な下々(しもじも)の要求にいくらか応じざるを得ないように仕向ける堅固な仕組みが組み込まれている社会には、繁栄と平和がもたらされる。・・・(略)・・・カネと権力を手にした者たちの勝手気ままな衝動にタガをはめるような制度が欠けている国家の多くは、貧困と混乱からいつまでも抜け出せない。・・・・(略)・・・

今回の米大統領選挙は、経済学者に対していくつかの理由で警鐘を鳴らしている。ドナルド・トランプが掲げる経済政策案を支持している経済学者は一人もいない――いや、一人いる――が、ずっと気がかりな問題は、トランプが大統領に選ばれたとしたら、アメリカ経済の安定性をこれまで支えてきた制度そのものが突き崩されてしまうのではないかというおそれだ。裁判所、言論の自由、(国家間で結ばれた)国際条約、「アメリカ流の生活」を支えるあれやこれやの支柱に対して、トランプはあからさまな侮蔑を加えて憚らない姿勢を貫いている。「トランプも大統領になったら少しは態度を和らげるだろう」と考えるべき理由なんてほとんどないのだ。・・・(略)・・・

・・・(略)・・・「トランプ大統領」が最高裁の権威に刃向かう可能性も容易に想像できる。最高裁が下す決定が効力を持ち得るのは、最高裁を頂点とする裁判制度が尊重されてこそだというのは、アンドリュー・ジャクソン大統領がよく心得ていたことだ。トランプが大統領になったら何をするかは、誰にもわからない。しかしながら、トランプが選挙キャンペーンを展開する中で口にした発言に照らす限りでは、裁判所、軍隊、言論・集会の自由に対して国民が大して信頼を寄せない国家がこの地に生まれる未来を想像するのも不可能ではない。そんな未来が待っているようなら、教育、新たなビジネスプラン、新しいアイデアに投資する気が国民から失せてしまうだろう。それが歴史の教えである。投資の見返りとしてあんなことやこんなこともできるようになるかもしれないと夢見る代わりに、他人の富をいかに奪うかに国民は汲々(きゅうきゅう)とするようになる。蓄えた富を他人から奪われないように守り抜くのに汲々とするようになる。人間のうちに潜む勝手気ままな衝動にタガをはめるような制度を欠いている社会では、豊かさも損なわれ始める。不穏な雰囲気が漂って、暴力が蔓延る(はびこる)。こうして国家は衰退していくのだ。

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