マーク・ソーマ 「経済学界隈の推薦図書(変わり種多め)」(2005年3月30日)

●Mark Thoma, “Interesting Books on Economics”(Economist’s View, March 30, 2005)


つい昨日のエントリーで、大学の同僚であるビル・ハーバウ(Bill Harbaugh)の研究成果を紹介したばかりだが、そのついでに彼が自分のホームページで(経済学部の学部生に向けて)お薦めしている経済学関係の「面白い本」のリスト [1] … Continue readingを以下に転載させてもらうことにしよう。

とっかかりとして格好の一冊

  • アダム・スミスの『国富論』: おそらくこの本の名前はこれまでに耳にしたことがあることだろう。オンライン版はこちら

経済学的な考え方(経済学者流の考え方)を知るのに格好のキャッチーなタイトルの本

  • The Undercover Economist』(邦訳『まっとうな経済学』) by ティム・ハーフォード(Tim Harford): 出版社の宣伝文句によると、「『The Way Things Work』(邦訳『新版 道具と機械の本―てこからコンピューターまで』)の経済学版」ということだ。悲しいかな、私自身はまだ、こんな芸当ができるようなレベルにまで達していない。
  • Freakonomics』(邦訳『ヤバい経済学』) by スティーヴン・レヴィット&スティーヴン・ダブナー(Steve Levitt and Stephen Dubner): 目新しい問題に経済学的な考え方で挑んだ本。
  • Naked Economics』(邦訳『経済学をまる裸にする』) by チャールズ・ウィーラン(Charles Wheelan): 経済学者は経済問題についてどういった独自の考え方をするのだろうか? この本はそのことを知るための格好の入門書だ。大変読みやすい文章で書かれており、楽しみながら、目から鱗がポロポロと落ちながら、経済学者流の考え方に触れることができる。経済学的な考え方を応用して政府の行動を説明している章なんかはすごくいい。

個別の特殊な問題に経済学的な考え方を応用した本

  • Global Crises, Global Solutions』 by ビョルン・ロンボルグ(Bjorn Lomborg): この本では、コスト・ベネフィット分析(費用便益分析)の力を借りて、地球規模の様々な課題のうちで一体どの課題から真っ先に取り組むべきか(解決すべき課題の優先順位)が検討されている。真っ先に取り組むべき課題は(破壊されたり汚染された)自然環境の修復だろうか? それとも、医療サービスの質の向上だろうか?
  • The Skeptical Environmentalist』(邦訳『環境危機をあおってはいけない』) by ビョルン・ロンボルグ: 「地球環境の質は着実に改善している。大半の指標はそのことを指し示している」。そう主張する本書が2001年に出版されるや、メディアから高い注目を集めることになった。「そんな話は嘘だ。信じたくない」。そう考える御仁にも、本書はお薦めだ。青筋を立てながら読み進めていけば、少なくとも持論を鍛える助けにはなるだろう。
  • In Praise of Commercial Culture』 by タイラー・コーエン(Tyler Cowen): フランス政府は多額の補助金を使って国内の芸術活動を支援しているが、アメリカ政府は国内の芸術家に自分の力だけで生き抜くように求めている。しかしながら、世界のアートシーンの中心地はニューヨークであり、パリはアートシーンの中心から遠く外れた僻地へと追いやられている。どうしてそうなっているのだろうか? その答えが知りたければ、この本を読むことだ。
  • Choosing the Right Pond』 by ロバート・フランク(Robert Frank): 手元にどれだけの数のモノを所有しているかではなく、手元に所有しているモノの数が他人と比べて多いかどうか。ヒトは、周囲(他者)との比較を通じて、我が身の幸・不幸を判断しがちな存在なのかもしれない。本書は、人間本性(human nature)をめぐる疑問の数々(とりわけ、ステータス争いをめぐる疑問の数々)に、経済学の観点からアプローチした優れた一冊だ。本書では、経済理論を現実の世界に適用した際に持ち上がってくる「パズル」の数々の解決が試みられている。
  • The Red Queen』(邦訳『赤の女王』) by マット・リドレー(Matt Ridley): 性の進化の歴史を辿りつつ、性の進化が人間の本性に及ぼした影響が詳しく探られている。一夫一婦制、性的・人種的な偏見、思春期、フェミニズム、美といったあれやこれやの物事に備わる重要性とその目的(ゴール)が、生物学や心理学の研究成果を踏まえた上で、自然界や人間社会から数多くの実例を引きつつ、解き明かされている。経済学を学ぶ学部生だけではなく一般の人々にも言えることだが、本書を進化心理学の優れた入門書のつもりで読むという読み方もできるだろう。
  • The Moral Animal』(邦訳『モラル・アニマル』) by ロバート・ライト(Robert Wright): 人類の進化が日常生活――結婚や育児といった日常を彩る様々な現象――に及ぼしている影響を扱った本。著者のロバート・ライトはジャーナリスト(Economist誌の元編集者)だが、関連分野の最新の研究動向とこれまでに得られた研究成果を調べ上げ、その調査結果を見事に一冊の本にまとめあげることに成功している。
  • Passions within reason: the strategic role of the emotions』(邦訳『オデッセウスの鎖-適応プログラムとしての感情 』) by ロバート・フランク: 怒りに震えたり、恋に落ちること(「怒り」や「愛」といった「感情」に突き動かされること)は、状況次第で合理的な帰結をもたらす [2] 訳注;合理的な帰結をもたらす=その人の利益に適う(自己利益を促進する)、という意味場合がある。一体全体どうしたわけでそうなるのだろうか? 「感情」にも合理的な側面があるのだとしたら、経済学の道具立てを使って「感情」の分析に挑んでみるという試みがあっても当然だ。そうじゃないだろうか?
  • アダム・スミスの『道徳感情論』: アダム・スミスの本をもう一冊。『国富論』とは大違いの内容だ。オンライン版はこちら
  • Stone Age Economics』(邦訳『石器時代の経済学』) by マーシャル・サーリンズ(Marshall Sahlins): かなり昔に読んだきりになっているが、未開社会に生きる人々の行動を経済学の道具立てを使って分析しようと試みた(その試みがうまくいっているかどうかはさておいて)「その心意気や良し」な一冊という記憶がある。本書の出版後にこの線に沿った研究が他にも現れているかもしれないが、そのような最近の試みを知っているようなら、ご一報いただけたら幸いだ。
  • The Rise and Decline of Nations』(邦訳『国家興亡論』) by マンカー・オルソン(Mancur Olson): 利益集団が政治的な意思決定に及ぼす影響が経済理論の道具立てを使って解明されており、その議論を踏まえた上で、ローマ帝国からアメリカ合衆国(この本が書かれたのは、ジミー・カーターが大統領の座にあった頃)にまで及ぶ歴史上の数々の文明の衰退の原因が好奇心をそそられる筆致で探られている。
  • Peddling Prosperity』(邦訳『経済政策を売り歩く人々』) by ポール・クルーグマン(Paul Krugman): 経済理論と現実世界の問題との間の相互作用を例証する実例の数々が盛り込まれた一冊。
  • Manias, Panics and Crashes : A History of Financial Crises』(邦訳『熱狂、恐慌、崩壊-金融危機の歴史』) by チャールズ・キンドルバーガー(Charles P. Kindleberger): 金融危機に関する内容テンコ盛りで胸躍る歴史読み物。18世紀初頭の南海泡沫事件にはじまって、1930年代の世界大恐慌、そして1970年代初頭のミニ危機までがカバーされている。
  • Against the Tide: An Intellectual History of Free Trade』(邦訳『自由貿易理論史-潮流に抗して』) by ダグラス・アーウィン(Douglas Irwin): 自由貿易の是非を巡る論争の歴史を辿った本。アリストテレスからアダム・スミスを経てクルーグマンまでがカバーされている。
  • The Pecking Order』 by ダルトン・コンリー(Dalton Conley): あなたは家族の中でどのように位置付けられているだろうか? 厄介者(black sheep)扱い? それとも、可愛い我が子(The favorite child)として遇されているだろうか? 本書は、あなた自身を含む兄弟姉妹(家庭内の序列関係)がテーマの本だ。

ゲーム理論および実験経済学に関する進んだトピックを扱った本

  • Game Theory Evolving』 by ハーバート・ギンタス(Herbert Gintis): 「ゲーム理論とは何か?」が知れるゲーム理論の優れた入門書。進化論的な捻りも加えられていて、その分だけさらに興味深く読むことができる。最初は簡単なゲームの話から。読み進めていく上では、経済学の予備知識がいくらか必要だが、ゲーム理論についての予備知識は必要ない。
  • Thinking Strategically』(邦訳『戦略的思考とは何か-エール大学式「ゲーム理論」の発想法』) by アビナッシュ・ディキシット&バリー・ネイルバフ(Dixit and Nalebuff): 「ゲーム理論とは何か?」が知れるだけではなく、ビジネスや日常生活をうまく生き抜いていくための術についてゲーム理論からどんな手掛かりが得られるかも学べる。
  • The Handbook of Experimental Economics』 by ジョン・カーゲル&アルヴィン・ロス(John H. Kagel and Alvin E. Roth)編集: 実験経済学の入門書としてスタンダードな一冊。読み進めていく上では、経済学の予備知識が少々必要。
  • Experimental Economics』 by ダグラス・デービス&チャールズ・ホルト(Douglas D. Davis and Charles A. Holt): 同じく実験経済学の本だが、上の本に比べると市場における行動により多くの関心が払われている。関係する経済理論についても逐一説明が加えられている。
  • Economic Choice Theory : An Experimental Analysis of Animal Behavior』 by ジョン・カーゲル&レイモンド・バタリオ&レオナルド・グリーン(John H. Kagel, Raymond C. Battalio and Leonard Green): 動物の行動を記述する上で経済学のアイデアがいかに役立つかを検証した魅力的な一冊。

References

References
1 訳注;推薦図書のリストは、ソーマが本エントリーで取り上げて以降にいくらか修正が加えられているようだ。以下では修正後のバージョンを訳してある。
2 訳注;合理的な帰結をもたらす=その人の利益に適う(自己利益を促進する)、という意味
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