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ラジ・チェティ, ナタニエル・ヘンドレン, マギー・R・ジョーンズ, ソーニャ・R・ポーター 「合衆国における人種と経済機会」(2018月6月27日)

Raj Chetty, Nathaniel Hendren, Maggie R. Jones, Sonya R. Porter, “Race and economic opportunity in the United States“, (VOX, 27 June 2018)


所得における人種格差の原因について、何十年も議論が続いている。本稿では、2000万名の子女とその親に関するデータを活用しつつ、合衆国において人種格差がいかに世代を超えて残存しているかを示してゆく。例えば、同一のブロックで育ったばあいでさえ、黒人男性は白人男性よりも所得階層を上昇する可能性が遥かに小さい。対照的に、黒人女性と白人女性の社会移動率は似通っている。本稿では、こうした発見が今後どのような形で人種格差の縮減に活用できるかも検討する。

所得その他のアウトカムにかかる人種格差は、アメリカ社会における最も露骨かつ執拗な特徴に数えられる。こうした格差の原因については何十年も研究や議論が続いており、その説明にしても、居住地分離 (residential segregation) や差別にはじまり、家族構造や遺伝的特徴の違いにいたる幅がある。

人種格差に関する既存研究の殆どは、単一世代内部における格差を取り上げてきた。そんななか我々の新たな研究では、人種ギャップが世代の あいだで どう変化しているのかに分析を加えている。2000万名の子女 (children) とその親をカバーした個人非特定化データを活用しつつ、人種がいま合衆国における機会の在り方をどう形づくっているのかを明らかにするとともに、今後どうすれば人種格差の縮減をなしうるのかを示した2

発見 #1: ヒスパニック系アメリカ人は世代間で所得分布を上昇している。しかし黒人アメリカ人とアメリカンインディアンにそうした動向は見られない。

我々はつぎの5つの人種・民族 (racial and ethnic) グループを研究対象とした: ヒスパニック系民族の人々・非ヒスパニック系白人・黒人・アジア人・アメリカンインディアン。これらグループにつき、世代間の 〔経済的〕 上向・下向移動率を分析することで、グループの所得変化を定量化しつつ、将来の稼得軌道を予測している。

図 1 人種・民族ごとにみた親と子女の所得対比

ヒスパニック系アメリカ人の世代間上向所得移動率は、白人にわずかに劣るものの、高い値を示している。したがってヒスパニック系の人は、世代間で所得分布をかなり上昇する経路をたどっているので、白人アメリカ人とのあいだに現在みられる所得ギャップについても、潜在的にはその大部分を縮減させてゆくだろう。

アジア系移民は他のどのグループよりも遥かに高い水準の上向移動をみせているが、アジア系子女のうち合衆国で生まれた親をもつ者についてみると、その世代間移動水準は白人子女と似通ったものになる。こうした事情はアジア系アメリカ人の所得軌道の予測をいっそう難しくするが、長期的にみればアジア系人は白人アメリカ人に匹敵あるいはそれを上回る所得水準を保ちそうだ [訳註1]。

以上とは対照的に、黒人およびアメリカンインディアンの子女は、他の人種グループとくらべ上向移動率がかなり低い。例えば、家計所得五分位の最下層に生まれた黒人子女について見ると、家計所得五分位の最上層に上昇する可能性は2.5%だが、白人ではこれが10.6%となっている。

高所得世帯で育ったという出自もこうした格差からの遮断壁にはならない。アメリカンインディアンと黒人の子女の下向 移動率は、その他のグループより遥かに高い。所得五分位の最上層に生まれた黒人子女をみると、最下層五分位に低落する可能性も、最上層五分位に留まる可能性も、殆ど同じである。対照的に、最上層五分位に生まれた白人子女がそこに留まる可能性は、最下層に低落する可能性のほぼ5倍だ。

経済的な移動に関するこうした差のために、黒人とアメリカンインディアンは世代間で 「膠着状態 (stuck in place)」 にある。かれらの所得分布ポジションは、上向移動率の引き上げをめざす活動無しでも時とともに変化してゆくようなものではなさそうだ。

図 2 人種グループごとにみた世代間の所得変化

発見 #2: 黒人-白人所得ギャップは、女性ではなく、男性のアウトカムのギャップによって全面的に牽引されている。

同等の所得をもつ世帯で育った者のあいだでは、黒人男性の成長後の稼得額は、白人男性よりも遥かに少なかった。対照的に、親の所得で条件付けしたばあい、黒人女性は白人女性よりもわずかに稼得額が 多い。なにより、黒人女性と白人女性のあいだには、賃金率ないし労働時間のギャップが殆どあるいは全く存在しない。

他のアウトカムについても類比的なジェンダーギャップが確認されている: 高校修了率・大学進学率・〔刑事施設等への〕 収用に関する黒人-白人ギャップは、男性のほうが女性よりも相当に大きい。親の所得で条件付けしたばあい、黒人女性は、白人 男性 よりも、大学進学率が高い。男性についてとくに鮮明なのが収用ギャップだ: 最低所得世帯に生まれた黒人男性は、その21%がある特定の日 〔収容状態に関して本論文で利用された国勢調査日の2010年4月1日〕 に収容状態にあり、これは他のどのサブグループよりも遥かに高い率である。

図 3 黒人・白人の男女ごとにみた親と子女の所得対比

発見 #3: 世帯特徴の違い – 親の婚姻率・教育水準・財産 – および能力の違いによって説明がつく黒人-白人ギャップは、ごくわずか。

黒人子女は、財産も親の教育水準も劣る、一人親家計で育つ可能性が、遥かに高い – これらはみな、黒人-白人格差の潜在的な説明因子として注目されてきた要素だ。しかし、所得・財産・教育の水準が似通った二人親世帯で育った黒人男性と白人男性のアウトカムを比較してもなお、黒人男性のほうが依然として成人期の所得が相当低いことが判明した。よって、このギャップを説明するうえで前述の世帯特徴の違いが担う役割は限られているといえる。

おそらく最も異論のある点だが、一部の人から、人種格差は生来的な能力の違いに由来するのではないかと提起されている。この仮説は、黒人-白人の間世代ギャップが、男性については存在するものの、女性については存在しない理由を説明していない。なにより、テスト得点における黒人-白人ギャップ – 能力差を支持する既存の議論の殆どで根拠とされてきたもの – は、男性と女性の 両方 について相当程度存在するのである。〈親の所得で条件付けるかぎり、テスト得点が遥かに低い黒人女性が、それでも白人女性に匹敵するアウトカムを得ている〉 事実は、標準テストが人種による (収入に関わってくるかぎりの) 能力の差の正確な測定値を提供していないことを示唆する。これはおそらくテストにおけるステレオタイプ不安や人種バイアスによるのだろう。

発見 #4: 合衆国における近隣圏の99%で、黒人男児の成人期における稼得額は、同等の所得をもった世帯で育った白人男児を下回る。

黒人子女と白人子女が異なるアウトカムを迎える理由について最も著名な理論のひとつは、黒人子女が育つ近隣圏 (neighbourhoods) は白人のそれと異なるというものだ。しかし我々は、黒人男性と白人男性のうち、同一の国勢調査統計区 (平均して約4,250名を抱する小さな地理区域) における同等の所得をもった世帯で育ったもののあいだにも、大きなギャップを確認している。じっさい、この格差は同一ブロックで育った子女のあいだにさえ残存する。これら調査結果は、学校のクオリティをはじめとする近隣圏レベルの資源の差それ自体では黒人男児と白人男児のあいだの間世代ギャップを説明しえないことを露呈する。

黒人-白人格差は事実上すべての地方・近隣圏に実存する。低所得層の黒人男児の経済移動にとって 最良の 都市部のなかには、低所得層の白人男児にとっては 最悪な 都市部に匹敵するものもあり、これは下の図が示す通りだ。それでいてなお、黒人男児の上向移動率は、国の国勢調査統計区の99%において、白人男児よりも低くなっているのである。

図 4 低所得 (25パーセンタイル) 世帯で育った黒人男性・白人男性の平均所得

発見 #5: 黒人男児と白人男児の双方とも低貧困度地域でより優れたアウトカムを得ている。しかし黒人-白人ギャップはそうした近隣圏ほど大きい。

黒人-白人ギャップの蔓延に反し、黒人男児と白人男児の上向移動率には地域により相当な差異があり、これは上に図示した通りである。白人の上向移動率が高い地域ほど、黒人の上向移動率も高くなる傾向がみられる。黒人と白人の双方について、上向移動はグレートプレインズや沿岸部で育った子女が最も高く、工業が主な中西部の都市で最も低い。このパターンのひとつの顕著な例外は南東部であるが、この地では白人の上向移動率が著しく低い (国全体でみた他の白人との対比) 反面、黒人にそうした傾向はみられない。

黒人男児と白人男児はいずれも、「良好な」 地域と一般に認識されている近隣圏において、より優れたアウトカムを得ている: 低い貧困率・高いテスト得点・高い大卒者比率を備えた国勢調査統計区がこれにあたる。しかしながら、平均的にみると黒人-白人ギャップはこうした統計区で育った男児ほど大きい。これは白人のほうが黒人よりも多くの便益をこの種の地域における生活から得ているためである。

発見 #6: 低貧困度地域の内部に注目すると、黒人-白人ギャップは、白人のあいだの人種バイアスが低く、黒人のあいだの父親プレゼンス率が高い場所で、最も小さくなっている。

貧困度の低い近隣圏では、ふたつのタイプの要素が、より良好な黒人男性アウトカム および より小さな黒人-白人ギャップと最も強く結びついている: すなわち、白人のあいだの人種バイアスの低さ、そして黒人のあいだの父親プレゼンス (father presence) 率の高さである [訳註2]。

白人のあいだの人種バイアス – 潜在的バイアス (implicit bias)、またはGoogle検索における明示的な人種的敵愾心 (explicit racial animus) の検証により測定 – が少ない統計区で育った黒人男性ほど、稼得額が多く、収用状態にある可能性が低い。

低所得黒人家計における父親プレゼンス率の高さは、より良好な黒人男児のアウトカムと結び付いているが、黒人女児や白人男児のアウトカムとは無相関である。近隣圏レベルにおける黒人の父親プレゼンスは、自分の父親のプレゼンスとは無関係に、黒人男児のアウトカムを予告するので、問題は親の婚姻ステータスそれ自体ではなく、むしろ父親プレゼンスと結び付いたコミュニティレベルの因子、例えばロールモデル効果ないし社会規範の変化など、であることが示唆される。

発見 #7: 黒人-白人ギャップは不変ではない: 子供の頃により良好な近隣圏に移った黒人男児は、アウトカムを相当に向上させている。

児童期前半に、より良好な地域 – 低い貧困率・低い人種バイアス・より高い父親プレゼンスを備えた地域など – へ移った黒人男性は、成人時における所得がより高く、収容率はより低くなっている。これら発見は、児童期の環境条件が人種格差に 因果的な 効果を及ぼすことを示すとともに、黒人-白人所得ギャップも不変ではないことを証明するものである。

問題なのは、上向移動を涵養するような環境で育つ黒人子女が、現在きわめて少ないことだ。貧困率10%未満かつ黒人父親の半数以上がプレゼンスをもつ地域で育つ黒人子女は、5%に満たない。対照的に、類比的な条件を備えた地域で育つ白人子女は63%にもなる。

インプリケーション

貧困から抜け出す方向の移動率と貧困へと転落する方向の移動率の差は、今日の合衆国における人種格差の中心を占める因子である。黒人-白人ギャップを縮減するには、黒人アメリカ人、わけても黒人男性の上向移動を引き上げる活動が要請されよう。

本調査結果が示すところ、上向移動における黒人-白人ギャップは、変えることのできる環境的因子によって、もっぱら牽引されている。だが、本発見はこれら環境格差と取り組む者が直面する難問も浮き彫りにする。黒人男児と白人男児は、同等の所得・教育・財産を備えた二人親世帯で育ち、同一の都市ブロックで生活し、同一の学校に通っているばあいでさえ、なお極めて異なるアウトカムを迎えている。本発見が示唆するところ、これまで各所で数多くの提言が議論されてきたが、それらは、それ自体では黒人-白人ギャップを縮小するのに不十分であるかもしれず、したがってむしろ考慮すべき新たな方向性を潜在的に暗示するものなのかもしれない。

例えば、単一世代の経済アウトカムの向上にフォーカスした政策 – 一時的な現金給付・最低賃金の引き上げ・普遍的ベーシックインカム構想といったもの – などでも、ある特定の時点における人種ギャップを縮小することはできよう。しかしながら、人種格差を長期的に縮小する可能性となると、それら政策が世代間の上向移動率をも変化させるものでないかぎり、より小さくなる。居住地分離を削減する政策、黒人子女と白人子女とが同一の学校へ通学することを可能にする政策も、それが近隣圏と学校の 内側における 人種的統合を達成するものでないかぎり、ギャップの大部分は依然として手付かずのまま残されるだろう。

近隣圏や階級割線を跨ぐインパクトを引き起こしつつ、他でもない黒人男性の上向移動を引き上げるようなイニシアティブ。黒人-白人ギャップの縮小にとって最も有望なのはこれである。この種の活動には数多くの好例がある: 黒人男児のためのメンタリングプログラム・白人がもつ人種バイアスの削減活動・刑事司法における差別の削減をめざす介入・人種グループを跨いでの交流を促進する活動、等々。我々はこの種の活動の企画と評価こそが上向移動における人種ギャップの削減にむけた有力な道筋だと見ている。

本稿執筆者注: 本稿および本稿に掲載された全ての図は、ラジ・チェティ (スタンフォード), ナタニエル・ヘンドレン (ハーバード), マギー・R・ジョーンズ (合衆国国勢調査局)、ソーニャ・R・ポーター (合衆国国勢調査局) による論文 “Race and Economic Opportunity in the United States: An Intergenerational Perspectiveに基づく。本エグゼキュティブサマリーにおいて表明された見解は必ずしも合衆国国勢調査局の見解ではない。スライドに掲載された統計要約値は国勢調査局の統計開示評価委員会の公開許可番号CBDRB-FY18-195によりクリアされている。

[2] 分析に用いたデータセットに含まれるのは、合衆国で生まれた子女、または、子供の頃に正規移民 (authorized immigrants) として合衆国にやってきた者である。

 


訳註 1. 元論文の関連個所を引く:

“所得分布の25パーセンタイルに位置する親のもとに生まれた白人子女は、平均すると45パーセンタイルにまで到達する。他方、75パーセンタイルに位置する親のもとに生まれた子女は60パーセンタイルに到達する。

White  children  born  to  parents  at  the  25th  percentile  of  the  income  distribution reach the 45th percentile on average, while those born to parents at the 75th percentile reach the 60th percentile.

(中略)

25分位点および75パーセンタイルに位置する親のもとに生まれたアジア系子女は、平均するとそれぞれ56パーセンタイルおよび64パーセンタイルに到達する。低所得層のアジア系子女にみられる高い稼得額は、アジア系人を 「模範的マイノリティ (model minority)」 と見做す世に広まった認識を再現するものとなっている (例: Wong et al. 1998)。ただし、低所得層のアジア系子女がみせるこの例外的な稼得額は、もっぱら第一世代の移民によって牽引されたものである。サンプルを合衆国生まれの母親をもつアジア系人に限定したばあい、アジア系人と白人のあいだの世代間ギャップは、親の所得分部の全体にわたり、平均して約2パーセンタイルになることが分かった。アジア系人の世代間移動にみられるこの傾向変化は、アジア系アメリカ人の所得軌道を予測することをいっそう難しくするが、長期的にみればアジア系人は白人アメリカ人に匹敵あるいはそれを上回る所得水準を保ちそうだ。

Asian children with parents at the 25th and 75th percentiles reach the 56th and 64th percentiles on average, respectively.  The high earnings of low-income Asian children echo the widespread perception of Asians as a “model minority” (e.g., Wong et al. 1998). However, the exceptional outcomes of low-income Asian children are largely driven by first-generation immigrants. Restricting the sample to Asians whose mothers were born in the U.S., we find intergenerational gaps between Asians and whites of approximately 2 percentiles on average across the parental income distribution.  The changing  patterns  of  intergenerational  mobility  for  Asians  make  it  more  difficult  to  predict  the trajectory of their incomes, but Asians appear likely to remain at income levels comparable to or above white Americans in the long run.”

 

訳註 2. 元論文は 「父親プレゼンス (father presence)」 を、

男児が、親にマッチングされた年度の納税申告書において男性によって申告されているかを把捉する指標と定義

We define father presence as an indicator for whether the child is claimed by a male on a tax form in the year he is matched to a parent

している。

 

 


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