『世界に於ける地域偏重主義』 ロランド・ホルダー, ポール・ラスキー 

Roland Holder, Paul Raschky, Regional favouritism across the world, (Vox, 28 May 2014)

 

政治指導者は時折、お気に入りの地域を特別扱いする。この記事の対象は多くの国々における地域偏重主義であり、それを明らかにするために政治指導者の出生地と夜間照明の強度の情報を使う。現行の指導者の誕生地域となると、夜間照明の強度が4%前後増し、GDPに関しては1%前後増加する。このような偏重主義は政治機構が脆弱で市民の教育水準が低い国に顕著である。

 

お気に入りの地域への偏愛は多くの政治指導者に見られる。その極端な例として、ザイールの前独裁者、モブツが挙げられる。彼は人里離れた先祖伝来の故郷、グバドリッテに一億ドルをかけた複合型宮殿と豪華な来客用宿泊施設、そしてコンコルドが離着陸できる空港を建設し、国内最高水準の水、電気、そして医療の供給をした。しかしこれは特例という訳ではない。分配政治に関する文献の中で地域偏重主義を記録したものは膨大な数に上る。ゴールデンとミン(Golden and Min)は150を超える実証的研究の一覧に基づき、分配政治を批評した。それによれば、ほとんどの研究は単独の民主国家と単独の政策の結果に焦点を合わせている。原注1

 

地域偏重主義と夜間照明

 

私達の最近の文献(Hodler and Raschky)はこの記事の補完である。そこでは分配政治を主題とし、独裁国家のみならず民主国家を含む多種多様の国々を抽出し、地域偏重主義に関する多様な計測基準を用い、多種の政策による包括的な配分への影響を捉え、地域偏重主義を体系的に調べる、という方法を用いた。特徴的な手法は以下となる。私達は地域を国家より小さな行政単位で区分し、政治指導者の誕生地と人工衛星から得られる夜間照明の強度の情報を基に、両者の関係性を調べた。

 

私達の分析は126の国の中の38,427の地域に対し1992年から2009年の間、一年毎の資料観察から作られたパネルデータセットを基とした。従属変数は米国空軍気象衛星によって記録され米国海洋大気庁によって提供された夜間照明の強度の平均の対数とする。ヘンダーソンと共著者(Henderson et al.)は国家単位で夜間照明の強度とGDPの間の強い関係性を文献に示し、国家より小さい単位での経済活動を計測する方法として夜間照明の強度を使うことを提唱した。私達は、ジェナイオリと共著者(Gennaioli et al.)の地域別GDP資料を使い、地域毎の夜間照明の強度とGDPの間には似たような強い関係性があることを見付け出した。私達の主たる説明変数は、ダミーを使いそれぞれの国における現行政治指導者の誕生地域を1、その他の地域を0とする。

 

私達はこの指導者排出地のダミー変数と夜間照明の強度との間に正の相関があることを見出した。これは、時系列変化の無い地域の特徴を調整するため、地域における母数効果を考慮に入れ、個々の国で時間経過とともに起こる変化を考慮するため国と年次の間のダミー変数を最も柔軟な形で調整した上で得られた結果である。以下が私達の主張だ。指導者排出地の夜間照明の強度は政治指導者によって齎されており、私達の研究から得られる答は地域偏重主義の証拠となる。指導者排出地が元々潜在的に持っていた性質を見出すために、今後すぐに指導者を輩出することになる地域と最近まで指導者排出地だった地域へと研究を進める。

 

  • 私たちが得た結果が示唆するところでは、指導者排出地では平均で夜間照明の強度が4%前後、GDPが1%前後増加する。

 

地域偏重主義の決定要因と動き

 

政治指導者が地域偏重主義を推し進め、成功を収めるまでには2、3年を要し、その後は自らの誕生地域への支援を拡大させて行く、これが地域偏重主義の動きである。夜間照明の強度は政治指導者が権力を得てから12年程経った後、加速度的に上昇して行く。この加速度的な上昇が始まるまでの期間と、ほとんどの民主主義国家における憲法上の国家元首の任期規定――最長で4年から7年の任期を2回まで――は、偶然の一致では無いだろう。一方で、専制国家においてはこの規定は多くの場合、存在しないか拘束力を持たない。それ以外で分かったことは、地域偏重主義の効果が政治指導者の退位後まで続くことは無い、ということだ。それゆえ、典型的には、地域偏重主義が政治指導者の誕生地域に持続的な発展を齎すことは無い。私達は別の面からの観察として、ここまでの研究とは異なる境界線を用いて国家より小さい単位の地域を規定し、地域偏重主義が持つ地理的な広がりを調べた。この調査の結果から得られる危惧はより小さなものだった。地域偏重の結果、一地方に利得が限定されるものがある一方で、無視できない程度の恩恵がより広い地理上の範囲に亘っており、それゆえ、多くの人々に広がっていると推定される。

 

私達の持つ大量で多様なサンプルは、そこに潜在する地域偏重主義の決定要因を与えてくれる。

 

  • 高度な政治機構は、政治指導者の権力制限によって地域偏重主義を軽減しうる。

 

  • 教育の拡充は地域偏重主義を減少させうる。これは教育を受けた市民は政治に何らかの形で関わり、また政治指導者に責任ある行政執行を求めるゆえ、と考えられる。

 

就学年数を政治機構と教育の代用とし、政体評価点(その2)<訳注> を用いることによって、高度な政治機構と教育の拡充が地域偏重主義を軽減させることが分かる。私達が持つサンプルから得られた結果では、政治指導者排出地となることによって、脆弱な政治機構を持つ国々では夜間照明の強度は約30%、GDPは約9%増加し、就学到達値が最低の国々では夜間照明が約11%、GDPが約3%増加する。更に、地域偏重主義は貧しい国々において、そして言語の同質性もしくは家族の強い絆によって政治指導者が誕生地と親密な関係を持ちうる国々において、多く見られる。これらすべての潜在的な決定要因を関連付けると、地域偏重主義は政治機構が脆弱で教育が充実していない国に多く見られることがわかる。

 

私達の研究の最後の部分は、私たち自身の分析手法を用いた国外援助と石油利権の分配効果の検証である。すなわち、通常は一国規模で見識を基とした指標を使って行うものを、私達は地球規模で国より小さな地域の経済活動に対して観測可能な計量を用い、統治と政治腐敗という観点から国外援助と石油利権の影響を考え、論文を補完した。政治機構が脆弱な国においては、援助と石油は利権追求と地域偏重主義に油を注ぐ傾向があるが、比較的高度な政治機構を持つ国ではその傾向は見られなかった。

 

政策的含意

 

推測されうる政策上の事項を以下に挙げる。

 

  • 第一に、適切な政治機構と教育の充実は政治指導者に責任ある行政執行を求めるのに有効であるのは確実であり、私達は地域偏重主義を抑制するのにそれらが重要であることを示した。特に、任期制限の強制は決定的要因と考えられる。

 

  • 第二に、援助代執行機関は専制的な指導者を持つ国を援助する場合、細心の注意が必要となる。それらの指導者たちは、外国からの援助を主として自分自身、自分の家族、氏族、そして自分の拠点地の住人のために使うから。

 

  • 第三に、これははるかに一般的な話となるが、地域における経済発展を推進させるものと障害となるもの、それに関する多くの興味深い政策上の疑問に対しては、最近まで対処する方法が無かった。これは、経済活動に関する地域毎の資料が欠如していたか、質の低いものしか無かったゆえである。

 

私達の研究では、大きなパネルデータセットを用意し、使うことによって上に挙げた疑問に対処することができた。パネルデータセットの中身は全世界を対象とした国より小さな行政区分地域での夜間照明の強度である。付け加えとなるが、学術調査員や援助代執行機関の方々には大規模な政策介入を評価するのに、夜間照明強度の資料活用をお勧めしたい。

 

 

原注

1.言及すべき例外として、フランクとレイナー(Franck and Rainer)、及びラモンとポーズナー(Kramon and Posner)の研究が挙げられる。これらの研究は多様なサハラ以南のアフリカの国々を抽出して偏重主義の研究を行っている。

 

2.専制国家への国外援助には潜在的な問題がある、そのことを採り上げたのは明らかに私達が最初ではない。しかし、この警鐘への裏付けとして、見識に基づいた指標群ではなく、観測可能な計量に基づいた実証を用いたのはおそらく私達が最初である。

 

訳注:ここで「政体評価点(その2)」と訳した語は原文では“Polity2 scores”となっている。Polity Scoreは「政体のスコア」もしくは単に「ポリティ・スコア」とされることが多いようである。

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