アレックス・タバロック「アメリカの就職差別率は比較的に低い」(2022年10月3日)

[Alex Tabarrok, “The US has Relatively Low Rates of Hiring Discrimination,” Marginal Revolution, October 3, 2022]

これまでに実施された履歴書-監査研究はたくさんある.こうした研究では,まったく同じ内容の履歴書を用意して,片方だけ「マイノリティ固有の」氏名を書き込んで企業に送り,連絡が返ってくる割合をはかる.ヨーロッパと北米の9ヶ国97件のフィールド実験(N = 200,000 名の求職者)を検討したメタ研究では,どの国にも差別が見出されているものの,アメリカ合衆国は比較的に差別率が低いのに対して,フランスは非常に高水準の差別率となっている.また,おそらくスウェーデンも差別率が高い.旅行する人たちにとってこうした研究結果は意外ではないけれど,「合衆国は奴隷と資本主義の歴史ゆえに一国だけとくに差別が強い」という物語とは食い違っている.というか,資本主義の国では差別は少なくなると予想しやすい.下のチャートが研究結果を要約してくれてる.このチャートでは,合衆国が 1 と定義され,さまざまな研究での各種の基本的な相違点を統制したあと,〔他の国々の〕相対的な水準が示されている:

著者たちは,いくつも興味を引く論点を示している:

(…)ある国に奴隷と植民地支配の歴史があることは,その国に比較的に高い水準の労働市場差別が生じる必要条件でも十分条件でもない.植民地だった過去がある国々のなかには,雇用差別の割合が高いところもある.だが,いくつかの国は,(ヨーロッパ外に)広域を植民地にした過去がなく,かつ,同様に高水準の就職差別が生じている.たとえば,スウェーデンがそうだ.同様に,多くのヨーロッパ諸国に比べて合衆国でマイノリティへの差別率が低いことは,現代における国全体での差別の形成に奴隷制が主に関連している点を強調する予想に反している.差別の水準に奴隷制や植民地支配が問題にならないということを,こうした研究結果は示唆しているわけではない.そうではなく,そうした過去が現在の差別に単純かつ直接に影響すると想定する諸説に比べて,奴隷制や植民地支配がもっと複雑なかたちで影響することを,研究結果は示唆しているのだ.

さらに:

フランスの労働市場で差別率が高いことは,一部の研究者が主張する説とは整合しないように思われる.すなわち,人種・民族の言説や数値そのものによって「集団差別」(“groupism”) や集団ステレオタイプが促進されることで差別が増加する傾向があるという説とは,整合しないように思われる (Sniderman & Hagendoorn 2007).フランスでは,公に人種や民族のデータを収集しないという対策がなされているが,差別の減少につながっているようには見受けられない.

さらに,求職者の犯罪歴について雇用主が訊ねるのを禁止する政策 (“ban the box”) に関する Agan & Starr の研究を想起させる箇所もある〔Agan & Starr の研究では,そうした政策の実施後に黒人への差別率が上がっているのが見出されている〕:

(…)国どうしにさまざまな差が見出されるが,これらを国それぞれの差別の水準が反映されたものと読んだり,あるいは,国それぞれの人種差別の水準の指標が反映されたものと読んだりするべきではない.一部の証拠からは,国それぞれの差別の水準は,雇用とそれ以外とで異なっているかもしれないことがうかがわれる.たとえば,ドイツでは雇用差別が低水準となっている一方で,住宅差別が低水準となっているわけではない (Auspurg, Schneck, and Hinz 2018).このことから,弱い反マイノリティ偏見ではてこの結果が説明されないかもしれないことがうかがわれる〔全般的にマイノリティへの偏見が弱いのであれば雇用でも賃貸契約でも差別が低水準になるはずなので〕.それよりも,ドイツにおける差別は,同国に固有の雇用慣行の結果である見込みの方が大きい:すなわち,他国に比べて,ドイツでは,典型的に被雇用者たちが送付する背景情報がはるかに多いのだ――たとえば,送付すべき背景情報には,高校の成績証明や見習い期間のレポートなどが含まれる (Weichselbaumer 2016).このために,非白人応募者の技能や資格はより低いものと雇用主が想定する傾向が低下しているのかもしれない.これは,差別の一因となりうる.もしこれが正しければ,差別を改善する方法として,応募者個人に関する情報を豊富にすることが重要であることが示唆される (c.f., Wozniac 2015; Auspurg et al. 2018).

こうした研究がもっぱら西洋の資本主義民主国家で行われたものである点には,留意しておいた方がいい.きっと,日本・中国・韓国での差別率はずっと高いだろうと思う.まして,インドネシア・イラク・ナイジェリア・コンゴといった国々ならなおさらだろう.西洋の資本主義民主国家で差別がより低水準になっている理由がわかれば,今後,研究文献はとても有用な方向に変わってくるだろう.

多謝: Jay Van Bavel.

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