ラルス・クリステンセン 「『ベルリンの壁の崩壊』と『極度の貧困の終わり』」(2014年11月9日)

ベルリンの壁の崩壊を祝うと同時に、共産主義の終わりを祝うだけで終わらせてはいけない。過去25年の間にグローバリゼーションと資本主義がもたらした「極度の貧困の撲滅まであと一歩」という成果も祝うべきなのだ。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23521852

ベルリンの壁が崩壊したのは、ちょうど25年前の今日(1989年11月9日)のことだ。ベルリンの壁の崩壊は、共産主義の終わりを告げる象徴的な出来事と見なされている。疑いもなく祝うべき出来事だ。

共産主義および冷戦が終わりを迎えると、人類の歴史で最良の時期の一つが到来することになった。グローバリゼーション――あるいは、グローバル資本主義(資本主義のグローバル化)――の時代がやって来たのだ。共産主義は、貧困の撲滅を目的に掲げていたが、その目的を叶えることはできず、むしろ数十億の民を抑圧したのだった。

それとは対照的に、グローバリゼーションは、途轍(とてつ)もなく強力な貧困撲滅プログラムの一つであるようだ。いつもキレキレのダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)がウォール・ストリート・ジャーナル紙で次のように語っている

世界銀行が(2014年)10月9日に発表した報告書によると、極度の貧困状態で暮らしている人の割合は、1990年の段階では世界人口の36%に上(のぼ)っていたが、2011年にはその割合が15%にまで下がっているという。 さらには、国際労働機関(ILO)が今年(2014年)のはじめに発表した報告書によると、1日あたりの所得が1.25ドルに満たない人の数は、1991年の段階では世界中で8億1100万人に上っていたが、2013年にはその数が3億7500万人にまで減っているという。

衝撃的なニュースだが、世間の耳目を集めていないようである。途轍もない出来事なのだ。過去25年間は、これまでの歴史で世界の貧困が最も減った時代だったのだ。

その原因を一体何に帰すべきなのだろうか? 公の機関はそのあたりをぼかして語りがちなのだが、率直に述べるとしよう。資本主義が世界中に広がったおかげなのだ。過去数十年の間に世界中の発展途上国で経済政策の改革が断行されて、民間事業が活躍できる余地が大きく広がったのだ。

その筆頭となる例が中国とインドである。1978年(いわゆる改革開放)以降の中国では、農地の開放がはじまり、民間企業の設立が認められ、海外との貿易の国家独占に終止符が打たれた。その結果が驚異的な経済成長であり、高賃金であり、貧困の大幅な減少だった。政府がやるべきことと言えば、手を引くことというケースがほとんどだった。中国では今でも国有企業が大きな存在感を放っているが、活力も生産性もずっと上の民間部門こそが中国経済に変化をもたらした原動力だったのだ。

1991年以降のインドでは、「ライセンス・ラージ(許認可支配)」からの訣別が進んだ。それまでのインドでは、新規事業を立ち上げたり、 事業規模を拡大したり、コンピューターやその予備部品だとかを海外から購入したりするために、長い時間をかけていくつもの政府機関から許可を得なければいけなかったのである。そのせいで、インド経済は何十年にもわたって窒息させられ、何百万もの民が貧困から抜け出せずにいたのだ。政府が許認可によって民間を窒息させるのをやめると、インド経済は繁栄の道を歩み出した。経済が成長し、賃金が高まり、貧困が減ったのだ。

・・・(略)・・・世界中で貧困が減っているニュースが世間の耳目をほとんど集めていないのはなぜなのかというと、資本主義に敵対的な陣営が盛んに流しているメッセージと真っ向から食い違っているからである。・・・(略)・・・しかしながら、ニューヨーク市立大学のブランコ・ミラノヴィッチ(Branko Milanovic)らの研究が明らかにしているように、発展途上国で経済が成長しているおかげで、世界規模での経済格差――国家間の経済格差――は(拡大しているのではなく)縮小しているのだ。

・・・(略)・・・260年ほど前に、アダム・スミスが次のように述べている。「一国を最低の野蛮状態から最高度の富裕国へと引き上げるために必要なのは、平和、軽い税負担、正義の寛大な執行のほかにはほとんどない。残りは、事物の自然な成り行きが引き受けるのだ」。スミスが挙げている条件――平和、軽い税負担、正義の寛大な執行(緩やかな規制)――を満たしている国の数は非常に少ないが、その数は増えている。それに伴って、人類の福利が急激に改善している。祝うべき出来事なのだ。

ベルリンの壁の崩壊を祝うと同時に、共産主義の終わりを祝うだけで終わらせてはいけない。過去25年の間にグローバリゼーションと資本主義がもたらした「極度の貧困の撲滅まであと一歩」という成果も祝うべきなのだ。

今回のエントリーのネタを提供してくれたのは、スティーブ・エムブラー(Steve Ambler)だ。感謝する次第。

(追記)私にとっての「共産主義の終わりの始まり」は、ベルリンの壁の崩壊じゃない。ポーランドで共産党政府側と「連帯」側のそれぞれの幹部が一堂に会して行われたいわゆる円卓会議がそれであり、1989年にポーランドで行われた初の(ほぼほぼ)自由選挙がそれだ。とは言え、今日(11月9日)という日にベルリンの壁の崩壊を祝うことの重要性が減ずるわけではない。


〔原文:“The fall of the Berlin Wall and the end of global extreme poverty”(The Market Monetarist, November 9, 2014)〕

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