アレックス・タバロック「サプライチェーンを張り巡らせた世界の貿易戦争は高くつく」(2018年6月25日)

[Alex Tabarrok, “Trade War Costs in a Supply Chain World,” Marginal Revolution, June 25, 2018]

アメリカ人がメキシコから車を1台買ったとしよう.このとき,買ったもののほぼ半分はもともとアメリカから輸入されたものだ(自動車関連で海外からメキシコに輸入されるものの74パーセントはアメリカからで,海外からの輸入と労働力がその価値の 2/3 をしめる.すると,0.74 * 0.66 = 48.44%となる――前のバージョンから修正した).

メキシコからアメリカに自動車を輸出している企業はこの2ヶ国にサプライチェーンを非常に深くはりめぐらせている――いままで思われていた以上にずっと深くだ.メキシコの自動車組み立て工場で生産されてアメリカに輸出される自動車に使われる海外からの部品のうち,およそ74パーセントがアメリカからの輸入品だ.これと対照的に,メキシコ企業がドイツに輸出する自動車に使われる部品のうち,アメリカからの輸入品が占める割合はたった 18パーセントにすぎない(グラフ参照).アメリカから輸入される部品には,もともと他国からの輸入品も使用されている.このため,国際貿易ではサプライチェーンのあらゆる段階を考慮するのが欠かせない.筆者の推計では,メキシコからアメリカに輸出される完成品の自動車の価値を見ると,そのうち38パーセントがもともとアメリカで生産されたものが占めている.この数字は,かつて広く考えられていた17パーセントの2倍以上だ.

上記は Alonso de GortariEconoFact に書いた記事からの引用だ.

サプライチェーンが深くはりめぐらされた世界では,伝統的な世界に比べて貿易戦争がずっと高くついてしまう.伝統的な世界では,関税が課されると,初期均衡ではコストが同じだった国内企業に国外企業から生産が再配置されることで,限界での効率が下がるだけで終わる.ところがサプライチェーンの深い世界では,関税はたんに輸入に税金をかけるだけではなく,国内企業による生産のコストも高めてしまう.サプライチェーンの深い世界では,たとえばメキシコからの輸入自動車にかかる関税はアメリカの自動車生産コストも高めることになる.

先日,ポール・クルーグマンがこんな議論を書いている――貿易を同じだけ減らす場合,トランプの貿易戦争とイギリスの EU離脱だったら貿易戦争の方がコストが少ない.トランプ関税は歳入を増やす一方で限界での生産をゆがめるだけだからだ.これと対照的に,EU離脱は生産のあらゆるユニットでコストを高めるのだとクルーグマンは言う.けれど,EU離脱とトランプ関税のちがいはそれほど大きくない.そうした世界では,関税は輸入価格を上げて,国内で生産するのをいっそうコスト高にしてしまう.

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