Alex Tabarrok “Girls’ comparative advantage in reading can largely explain the gender gap in math-related fields” Marginal Revolution, September 3, 2019
前に「男子の方が数学・科学に比較優位がある?(optical_frog氏による訳)」という記事で,男子は女子よりも読解がずっと下手だから数学に比較優位があることを示す証拠をご覧に入れた(男子が数学に大きな絶対優位をもつわけではないのだ)。みんなが自分の比較優位に特化するとすると,このことが女子よりも多くの男子が数学教育課程に入ることを容易に促してしまう。たとえ女子に男子と同じかそれ以上の才能があったとしてもだ。このことは以前書いたとおり。
さて,これで生徒たちにこう告げたらどうなるだろう――「得意なことをやってごらん!」 大雑把に言えば,状況はこんな具合になるだろう:女子はこう言う――「歴史と国語は A で科学と数学は B だから,長所をもっと伸ばして歴史や国語と同じ技能を活かすことにしよっと!」 一方,男子はこう言う――「科学と数学は B で歴史と国語は C だから,長所をもっと伸ばして科学や数学がからんでることをやろっと!」
米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載されたブレダとナップの新論文は,この比較優位仮説についてもっと多くのことを見出している。ブレダとナップは,学習到達度調査(PISA)を受ける最大30万人の世界各地の学生の数学を勉強する意欲を調べた。
PISA2012には,数学に特化した勉強とキャリアに進む意欲に関連した質問が含まれている。こうした意欲は,学生たちに対し,(1)国語/読解コースよりも数学を一生懸命勉強したいか,(2)放課後に国語/読解コースよりも数学の補講をとりたいか,(3)大学で科学よりも数学を専攻したいか,(4)科学よりも数学をなるべく多くとりたいか,(5)科学よりも数学に関するキャリアに進みたいか,という5つの一連の質問で計測される。我々が用いる数学に対する意欲に関する主な指標は,これら5つの質問から構築したものであり,30万人以上の学生を対象としている。この指標は,読解及びその他の科学と比較した数学への欲求を捕捉している。
彼らの発見は,実際の数学や読解の能力よりも比較優位(読解能力と比較した数学の能力)のほうが数学に対する意欲をうまく説明するというものだ。また,数学に対する意欲を占うにあたって自覚的な数学能力よりも比較優位の方が適している(女性は男性よりも自分の数学の能力を実際の能力よりも低く見積もるけれど,このことによる影響は比較優位においてはあんまり重要じゃない)。ブレダとナップは別のデータセットを使って数学への意欲が数学教育を予測することも示している。
というわけで,STEM分野に男性が多すぎるというのは,読解分野に男性が少なすぎると捉えるほうがたぶんよいんだろう研究結果が続々と出てきていて,そのことは男性の読解能力が比較的低いことに起因しているんだ。
読解における男女格差は数学能力におけるそれよりも遥かに多いことから,政策決定者は前者の縮小に焦点を当てるほうがよいのではないだろうか。読解の成績が低い学生,その多くは男性であるが,たとえば彼らに対する制度的な個別指導は男児の読解能力を向上させるための一手段となるだろう。しかしながらこのアプローチの限界の一つは,数学に特化した分野での男女格差が小さくなることだが,これは主に多くの男児を人文学へと進ませることで数学を選ぶ学生の割合が減るためだ。
ブレダとナップははっきりとは言ってはいないけれど,もうひとつのアプローチは,得意なことをしなさいと言うのをやめて,その代わりに儲かることをしなさいと言うことだ。STEM分野は人文学よりも実入りがいいから,みんながこのアドバイスに従えば今よりも多くの女性がSTEM分野へと入るだろう。僕が考えているように教育による波及効果はSTEM分野が一番大きいのであれば,これは社会にとっても良いことだ。それが女性にとっても良いことであるかはそこまで明らかじゃないけれど。
Mary Clare Peateに感謝