アレックス・タバロック「無秩序は社会主義よりも悪い」

Alex Tabarrok “Anarchy is Worse than Socialism” Marginal Revolution May 19, 2019


社会主義は悪い。これは私にとっては自明だ。しかしベネズエラの崩壊は,社会主義だけによる影響よりももっとずっと悪いものだ。

ニューヨークタイムズ:(略)マデューロ政権下におけるベネズエラの経済産出の下落は,少なくとも1975年以降戦争下にない国の中でもっとも急激なものだ。

今年末のベネズエラのGDPは,2013年の景気後退入り時点から62%縮小するとされる。

ベネズエラからは山々すら越えて人々が逃げ出しているため,過去2年間で総人口の10分の1がいなくなり,南米において過去最大の難民危機を引き起こしている。

IMFによれば今年のベネズエラのハイパーインフレーションは1000万パーセントに達すると予測されており,物価が統制を外れて上昇している期間としては1990年代のコンゴ民主主義共和国以来最も長いものだ。

国際金融協会の副チーフエコノミストであるセルギ・ラナウは,「これは事実上消費の完全な崩壊といえる」と述べる(略)

何がこの驚異的な経済活動の下落を引き起こしているんだろうか。皮肉なことに,これは政府が過剰なためではなく小さすぎるせいだ。首都の外では,政府は法と秩序を供給するという最も基本的な責任を実質的に放棄している。その結果は略奪の蔓延だ。普通の窃盗はお金や,ダイアモンドや芸術品といった価値ある「最終」財を盗む。理論的には,盗人は所有者が失うのとおおよそ同じだけを得る。略奪はしかしながら,特殊な窃盗だ。略奪は窃盗に破壊を加えたものだ。飴玉を盗む人間は盗人だが,お店の正面窓を破って飴玉を盗む人間は略奪者だ。略奪者は中間財とインフラを破壊し,得るものは所有者が失うものよりも遥かに少ない。略奪は窃盗の中でも最も悪い類のものだ。

3月に勤め先のホテルが略奪を受けたために仕事を失ったと彼は言う。略奪者は窓枠や配線ケーブルすらはがしとった。彼は今,街中の公園でひとつ数セントで売るために野生のプラムを採取している。彼の住む地区の住人のほとんどは,野生の果物,トウモロコシのパン,骨でとったスープを食べていると住民は述べる。

首都を離れるほどに状況は悪くなる。

(略)この島の唯一の産業だった4つの採石場は,配電網につながっていた電線を強盗が盗んでしまったために去年から操業していない。過去2年間で最大で3分の1の住民が島から出ていったと地元の野党活動家は見積もる。

「ここはかつて楽園でした」と述べるのは,地元行政区の治安担当のアルテューロ・フロレスだ。彼は月4ドルほどの給与の足しにするため,バケツに入れた発酵トウモロコシの飲み物を漁師に売っている。「今はみんなが逃げ出している」

スリア州内の反対側に位置し,畜産が盛んな都市マシケスでは,経済的崩壊によってこれまで国内向けに供給していた食肉・酪農業が衰退してしまった。

かつては南米で最大級だった地域の屠殺場を停止させてしまった。生き残った畜産業者は武装ギャングによるゆすりや牛の盗難を受けている。

地元の畜産業者であるロムロ・ロメロは「法がなければ生産はできない」と述べる。

(略)「ここには地区,地域,国家のどのレベルでも政府がないんだ」とバイクタクシー運転手のホセ・エスピナは言う。「自力でどうにかしなくちゃ」

無秩序よりも社会主義の方が良いと言うことは,腐ったチャベスーマドゥロ政権を擁護することとは違う。そうではなくて,私は流浪盗賊と定住盗賊に関するマンサー・オルソンのモデルについて言いたいんだ。オルソンは,なぜ流浪盗賊が定住盗賊に進化するかを説明した。

無秩序の下では,「流浪盗賊」による協調のない競争的な盗みは投資と生産を行うインセンティブを破壊し,住民にも盗賊にも得るものはほとんどなくなってしまう。盗賊が独裁者,すなわち税という形態で盗みを独占かつ合理化する「定住盗賊」と化せば,両者の状況が改善する。盤石な独裁者には自身の領地に包括的な利益を有しており,それがため独裁者は生産性を向上させる平和な秩序やその他の公共財を提供するようになる。

このプロセスはベネズエラでは逆に働いている。ベネズエラでは,定住盗賊体制が崩壊しつつあり,流浪盗賊による体制に置き換わりつつある。

オルソンが特定したインセンティブにより,やがては新たな定住盗賊がもたらされ,ベネズエラに運がむくならば,より盗みの少ない優れた制度が生まれるのかもしれない。このプロセスは既に進展中だ。以下を読んでもらいたい。

地元店主は協力して送電線を修理し,通信塔を維持し,公共労働者を養い,非常用電源用の軽油を調達している。

「私たちは実質的に国家の役割を担っているのです」と述べるフアン・カルロス・ペロータは肉屋を営み,マシケスの商工会議所の運営を行っている。

地元店主が送電線を修理して公共労働者を養って国家権力に取って代わっている。すごい!自由の機械万歳!

しかしながら,ガバナンスを再建するプロセスは遅々としており,富と人命の破壊は高くつくものだ。実のところ,ベネズエラがこの道をここまで転げ落ちてしまったことは驚きだ。定住盗賊はたいてい別の定住盗賊に取って代わられる。フアン・グアイドは今のところあらゆる面でマドゥロを凌いでいるように見えるが,本当の不思議は無秩序が表れてきている中でどうやってマドゥロが将軍たちを抑え込んでいるかだ。将軍たちにはこの無能が死にかけてるようには見えないのだろうか。

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