アレックス・タバロック 「格差とマネタリーエリート」(2014年1月14日)

●Alex Tabarrok, “Inequality and the Masters of Money”(Marginal Revolution, January 14, 2014)


「格差」と「お金」・・・じゃなくて、「格差」と「金融政策を操る首領(ドン)」が今回のテーマだ。

Yellen-300x166まず最初に取り上げるのは、ジャネット・イェレン(Janet Yellen)。イェレンと言えば、この度晴れてFRB議長に就任することになったわけだが、その結果として、現時点において世界で最もパワフルな女性 [1] 訳注;「パワフルな」=強大な政治的権力を手にしている、という意味 史上最もパワフルな女性現時点において(男女を含めて)世界で2番目にパワフルな存在現時点において(男女を含めて)世界で最もパワフルな存在・・・へと上り詰めることに。どの評価が妥当であると感じるかは人それぞれだろうが、FRB議長たるイェレンがパワフルな存在であることだけは確かだ。さらに、彼女の夫は、ノーベル経済学賞受賞者のジョージ・アカロフ(George Akerlof)。かくも卓越した2人の人物が同じ屋根の下で暮らしているという事実は、同類婚(assortative mating)のまたとない例だと言える。イェレン&アカロフ夫妻は、上位1%の中のさらにその上位1%に食い込むスーパーエリートなのであり、政治や文化の面での卓越した功績が1つの家族に集中しているという事実は、格差の拡大を物語る一つの例だと言えよう。女性に対する「機会の拡大」こそが、この種の(同類婚を通じた家族間での)格差の拡大を促す要因の一つとなっているのだ。

次に取り上げるのは、FRB副議長に指名されたスタンレー・フィッシャー(Stanley Fischer)。フィッシャーは、ザンビアで生まれているが、イスラエルとアメリカの2重国籍を保持している。つい最近までイスラエル銀行の総裁を務めていたが、これまでの歴史を振り返ってみても、外国で要職に就いた経験のある人物がアメリカでも要職に就く例というのは、ほとんど見当たらない。アメリカには、優れた経済学者がたくさんいる。そのことを思うと、フィッシャーに声をかけるという突飛な選択をしなくても、FRB副議長にふさわしい候補者は他に見つかるんじゃないかと感じる人もいることだろう。しかし、オバマ大統領がフィッシャーを副議長に指名した理由をつかむのはそんなに難しくない。というのも、この件でオバマ大統領からアドバイスを求められた面々の口からは、例外なく、「世界中を見渡しても、フィッシャーがFRB副議長に最も適任の一人」との答えが返ってきたに違いないだろうからだ。

Bernanke-Fisher-300x220オバマ大統領からアドバイスを求められた人物の多くは、フィッシャーの教え子だったことだろう。FRB前議長のベン・バーナンキ(Ben Bernanke)もそのうちの一人だが、フィッシャーの教え子たちは、世界でもトップクラスの貨幣経済学者(monetary economists)から成る一握りのエリート集団のメンバーでもある。貨幣経済学の世界は、顔見知りのグループによって牛耳られているのかもしれない。一種のカルテルによってコントロールされている世界と言えるのかもしれない。それはそれとして事実かもしれないが、フィッシャーがFRB副議長に選ばれた理由を理解するには、この問題をもっと大きな流れの中に位置付けてみるべきなんじゃないかというのが私の考えだ。フィッシャーにほとんど引けを取らない人物があまたいるにもかかわらず、あえてフィッシャーが副議長に選ばれたのはなぜか? その理由は、自社のCEO(最高経営責任者)に迎え入れるために、あちこちの大企業がごく限られた数の人物に死に物狂いでアプローチをかける(その過程で、CEOの給与は、成層圏に達するんじゃないかと思われるほどバカ高い水準にまで引き上げられることになる)のと同じ理由なんじゃないかと思われるのだ。

金融政策を司る中央銀行の世界――雲の上にあるかのような世界――に話を限っても、フィッシャーのFRB副議長指名のニュースは、ユニークな例というわけじゃない。2012年に、カナダ人であるマーク・カーニー(Mark Carney)がイングランド銀行の総裁に任命されたことは記憶に新しいところだが、イングランド銀行のこれまでの歴史の中で、イギリス人以外が総裁を務めるのは初めてのことだ。イギリスやアメリカのような国でさえも、「国内産」の才能に十分満足できずにいるわけだが、このことは、優れた才能(の持ち主)に対する需要がいかに旺盛であるかを物語っていると言えよう。ビジネスの世界から同様の例を一つだけ挙げると、セルジオ・マルキオンネ(Sergio Marchionne)がいる。マルキオンネは、フィアットグループだけではなく、クライスラーのCEOも務めている。それ以外にも様々な要職の地位にある。住居はスイスに構えられており、通勤のためにイタリアとアメリカを行き来している。さらに、イタリアとカナダの2重国籍の保持者でもある。才能に対する需要が旺盛で、世界全体を舞台とした勝者総取り(ウィナー・テイク・オール)現象が認められるのは、ビジネスの世界だけに限れられないということを、カーニーやフィッシャーのケースは示しているのだ。

企業の規模が大きくなるほど、マーケットの規模が大きくなるほど、経済の規模が大きくなるほど、トップの人物(経営トップ、政策当局のトップ)に備わる質(才能)のちょっとした違いが大きな差を生むことになる。ビル・ゲイツがマイクロソフトのCEOとして下した「重大な決定」の数はどのくらいになるだろうか? それほど才能の違わない人物と比べると、ゲイツが下した「重大な決定」の数はどのくらい多いだろうか? おそらくその差は10もないだろうが、そのわずかの差が(マイクロソフト社に)何十億ドルもの収入の違いをもたらすことになったと思われるのだ。ほぼ似たような才能を持ったタッグに比べて、イェレン&フィッシャータッグがほんの少しだけ優れた決定を行うだけでも、GDPで測って数千億ドル規模の違いが生まれる可能性は十分にあるのだ。

FRBが質(能力)の高い「チーム」作りを試みようとしていることも注目すべきところだ。Oリング理論によると、質(能力)の高い労働者同士を協働させることで、生産物の価値が最大化されることになる。さらには、Oリング生産には、才能の格差を増幅させる効果が備わっている。才能の格差を、所得の大幅な格差に転化させたり(ビジネスの世界におけるケース)、権力の大幅な格差に転化させる(公共部門におけるケース)効果が備わっているのだ [2] 訳注;Oリング理論の概要については、例えば、(英文で申し訳ないが)こちらこちら(pdf)を参照されたい。

まとめるとしよう。格差拡大の背後では、いくつかの共通する要因が働いている。男女間での機会の均等(女性の社会進出)、同類婚、Oリング生産、(スキル偏向型技術進歩に伴う)才能に対する需要の高まり。こういった要因が働く結果として生じているのが、マネーエリート [3] 訳注;莫大な財産(所得や富)を手にしたお金持ちの台頭であり、マネタリーエリート [4] … Continue readingの台頭であり、パワーエリート [5] 訳注;絶大なる政治権力を手にした人々の台頭なのだ。

References

References
1 訳注;「パワフルな」=強大な政治的権力を手にしている、という意味
2 訳注;Oリング理論の概要については、例えば、(英文で申し訳ないが)こちらこちら(pdf)を参照されたい。
3 訳注;莫大な財産(所得や富)を手にしたお金持ち
4 訳注;中央銀行の総裁をはじめとした金融政策の当局者たち。特に、フィッシャーやカーニーのように、各国の中央銀行から相次いで要職のポストへの就任を持ち掛けられる存在。
5 訳注;絶大なる政治権力を手にした人々
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