オーター他「家庭環境の悪さは女子より男子に響く」(2021年6月11日)

David Autor, David Figlio, Krzysztof Karbownik, Jeffrey Roth, Melanie Wasserman “Low-performing boys are particularly affected by family environmentVOXEU, 11 June 2021

初等学校においては、たとえば女子の方が男子よりも読解の成績が良い傾向にあったり、停学になるような問題行動を起こす可能性が低いなど、わずかなジェンダー格差が表れる。本稿では、アメリカのフロリダ州のデータを用い、こうしたわずかな格差がその後の学業成果においては、中等教育の修了や高等教育への進学・卒業といった大きなジェンダー格差へとなぜ変わるのかを検討する。幼少期の家族環境が男子に及ぼす影響は異なり、特に学校成績や出席率で下位に分布する男子ほどそれが顕著であることが分かった。


高校の卒業率や、高等教育への進学率、大学の卒業率をはじめとする多くの学業達成度の指標において、いまや女性は男性を上回っている。たとえば、2010年のアメリカの高校卒業率は、女性では87%だったのに対し、男性では81%だった(Murnane 2013)。こうした傾向はアメリカ独特のものではなく、図1に示したとおり、中等教育修了率においてOECD加盟国のほぼすべてで女性は男性を上回っている [1]訳注;日本のデータはないが、高校進学率で見ると日本は女子95.7%,男子95.3%となっている(出典:内閣府「令和3年版男女共同参画白書」

図1:中等教育修了率の男女比率、OECD countries (2017)(縦軸:中等教育修了率の男女比)

最近の研究では、こうしたジェンダー格差の変化を幼少期から追跡している。実のところ、ジェンダー格差は小学校から表面化し、女子は男子よりも標準化した読解テストで良い成績をとる傾向があり、停学になるような問題行動を起こす可能性が低い。こうした幼少期におけるジェンダー格差の決定要因は、広範囲にわたって確認されている。すなわち、家族構成や居住形態、家族の社会経済的地位、そして学校と近隣地域の質のいずれも、男子の成績に対して女子とは違った形で影響を及ぼすことが示されている(Bertrand and Pan 2013, Autor et al. 2016a, Autor et al. 2016b, Chetty et al. 2016, Autor et al. 2019, Lundberg 2017)。

しかしこうした幼少期のジェンダー格差の程度は傾向としてわずかなもので、これがどのようにしてその後の学業達成度におけるジェンダー間の大きな差異をもたらしうるのかという点は研究者の間で疑問となっていた。例えば、アメリカのフロリダ州のデータによれば、女子の読解テストの成績での優位は平均すれば標準偏差にしてほんの0.15であることが示されている。態度においても、男子は長いこと女子に後れを取っているが、学校の欠席率のジェンダー格差はほんの0.45%ポイントで、男子も女子も登校日の94%以上出席している。

私たちは、幼少期の男子と女子のわずかな格差がなぜ学業成績における大きな差に繋がるかを説明するのに役立つふたつのパターンを立証した (Autor et al. 2020)。私たちは、公立学校の生徒を出生から高校修了まで追跡しているアメリカのフロリダ州当局が保有する詳細な教育及び出生記録のうち、1992年から2002年生まれの年代のものを利用した。私たちはまず、テスト成績と出席率(欠席と停学の両方を合わせた指標)のうち女子が優位にある格差は、成績最下位層の生徒に男子が多く含まれていることが原因であると立証した。男子はサンプル全体の中で男子が占めるのは49%であるにも関わらず、読解の成績と出席の分布だと第10パーセンタイルの児童のうちの55%を占める(図2のパネルA)。平均では男子が多少優位にある数学だと、男子は分布の下位と上位に固まっている(図2のパネルB)。

図2:出席率とテスト成績の分布における男子の割合

A.出席率(縦軸:男子の割合、横軸:出席率分布のパーセンタイル)
B.試験成績(縦軸:男子の割合、横軸:成績分布のパーセンタイル、グラフ青線が数学、破線が読解)

次に私たちは、幼少期における学業及び態度の上での成績の悪さは、高校修了率について高い予見性をもつことを示した。図3は、高校での中退は(幼少期の)成績最下位層の生徒に偏って表れていることを示している。数学及び読解の成績分布で第10パーセンタイルにある児童は、第90パーセンタイルにある児童よりも高校を中退する確率が4倍近く高い。さらに、成績の悪い男子と女子が高校を中退する確率は似たようなもので、これは幼少期における学業成績を抜きにすれば、高校中退率に関して残るジェンダー格差は小さなものでしかないことを意味する。こうしたパターンを前提とすれば、なぜ幼少期における成績分布の下位層に男子が多いのかを検討することで、こうした男子が高校を中退する傾向が高い理由を説明する一助となる可能性がある。

図3:(幼少期の)成績分布ごとの高校中退率

A.出席率(縦軸:高校中退率、横軸:パーセンタイル、実線が女子、破線が男子)
B.試験成績(縦軸:高校中退率、横軸:パーセンタイル、実線が女子、破線が男子、青線が数学、黄線が読解)

なぜ成績の低い生徒に男子が多いのだろうか。私たちは、幼少期のはじめにおける家庭環境が男子、特に学業成績と出席率の下位にある男子には特異な影響をもたらすかどうかに焦点をあてた。家庭環境について指標としては、母親の教育水準、出生時の母親の年齢、家族構造及び出生時における低所得向け医療保険加入資格を組み込んだものを用いた。

私たちの主要な発見は、家庭環境による特異な影響は成績分布においてジェンダー格差が最も顕著な部分に集中しているというものだ。図4では、出席率分布の第10パーセンタイルで男子は女子よりも1.06%ポイントだけ多く欠席しているのが見て取れる。家庭環境が標準偏差ひとつ分の下落で、こうしたジェンダー格差の半分以上を説明できる。ここでいう標準偏差ひとつ分の変化とは、たとえば高校中退のシングルマザーの家庭で育つのと、夫を持つ高校を卒業した母親の家庭で育つことの差に相当する。平均では男子が多少優位にある数学でさえ、成績分布の下位20%では成績において女子優位のジェンダーギャップと男子に対する家庭環境の特異な影響が見られる。

図4:成績分布ごとの出席率に関するジェンダー格差への家庭環境の影響(縦軸:推定値、横軸:パーセンタイル分布、青が男女間の格差、黄色が男子に対する家庭環境の影響)

もちろんながら、家庭の社会経済的地位が決定づけるのはその時点の家庭環境だけでなく、児童が通う学校の質や生活する近隣地域の属性も含まれる。しかし、こうした家庭の特性と相関するものを考慮しても、家庭の社会経済的地位が成績の悪い男子に及ぼす特異な影響は大して減じないことを私たちは見出した。

高校卒業率に関する女性の優位は、こうした家庭環境が成績下位の男子に与える特異な影響によってとの程度説明できるだろうか。この問に答えるため、私たちは小中学校の成績に対する家庭環境のジェンダー固有の影響と、高校卒業率に関するこれらの成績の予測力を組み合わせた。私たちの計算は、家庭の社会経済的地位が標準偏差ひとつ分の上昇で、各十分位における高校卒業率のジェンダーギャップの40%以上を説明できることを示唆している。今回用いたデータでは高校卒業後の成績を分析することはできないものの、幼稚園から高校までの教育達成度はその後の教育及び労働市場における成果の基盤となるものであり、成績の悪い男子のこうした教育達成度に対して家庭環境が及ぼす特異な影響は、成人後の収入や労働力参加といった成果に長期的な悪影響を与えている可能性が高い。

参考文献

●Autor, D, D Figlio, K Karbownik, J Roth, and M Wasserman (2016a), “School quality and the gender gap in educational achievement”, American Economic Review Papers and Proceedings.

●Autor, D, D Figlio, K Karbownik, J Roth, and M Wasserman (2016b), “Quality schools can boost boys’ achievement”, VoxEU.org, 22 June .

●Autor, D, D Figlio, K Karbownik, J Roth, and M Wasserman (2019), “Family disadvantage and the gender gap in behavioral and educational outcomes”, American Economic Journal: Applied Economics 11(3): 338?81.

●Autor, D, D Figlio, K Karbownik, J Roth, and M Wasserman (2020), “Males at the tails: How socioeconomic status shapes the gender gap”, NBER Working Paper No. 27196.

●Bertocchi, G and M Bozzano (2020), “The education gender gap: From basic literacy to college major”, VoxEU.org, 05 October.

●Bertrand, M and J Pan (2013), “The trouble with boys: Social influences and the gender gap in disruptive behavior”, American Economic Journal: Applied Economics 5 (1): 32?64.

●Chetty, R, N Hendren, F Lin, J Majerovitz, and B Scuderi (2016), “Childhood environment and gender gaps in adulthood”, American Economic Review Papers and Proceedings.

●Lundberg, S (2017), “Father absence and the educational gender gap”, IZA Discussion Paper No. 10814.

●Murnane, R (2013), “U.S. high school graduation rates: Patterns and explanations”, Journal of Economic Literature 51(2): 370-422.

●OECD, “Education at a glance: Graduation and entry rates”, OECD Education Statistics (database).

References

References
1 訳注;日本のデータはないが、高校進学率で見ると日本は女子95.7%,男子95.3%となっている(出典:内閣府「令和3年版男女共同参画白書」
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