Paul Krugman, “U.S. Health Reform Keeps Insurance Companies in the Mix, No Matter the Cost,” Krugman & Co., November 8, 2013.
アメリカの医療改革はコストにも関わらず民間保険会社を制度に入れている
by ポール・クルーグマン
ルーズベルト・インスティテュートに先日よせたオンラインの論説で,経済評論家のマイク・コンツァルが言ってることは,適正価格医療保険法 (Affordable Care Act) の複雑さをもたらしてる根っこの要因について言うべきことの大半を網羅してる.適正価格医療保険法がややこしいために,さらに目下の技術的問題がでてくるはめになっている.基本的に,オバマケアがややこしいのは,政府の社会保険プログラムが総じてややこしくならざるをえないから,じゃあない:社会保障にせよ,メディケアにせよ,構造が複雑なわけじゃない.コンツァル氏が書いているように,ややこしくなっているのは,政治的な制約のために,国だけが費用を負担するすっきりした〔国だけがたずさわる〕制度が実現できなくなっているせいだ.
適正医療費改革法によって,ピタゴラスイッチっぽい仕組みができあがるのは,前からはっきりしていた:民間保険会社を制度に入れたままにして,さらに所得調査をとおして政府が支出する主要額を低く抑えようとすることでややこしくなってるくせに,結局のところは,国だけが費用を負担する制度をだいたい模倣することになる制度になるのは,わかってたことだ.ややこしいからって,べつに機能しないわけじゃあない:医療保険取引所 (state-exchanges) は機能してるし,〔医療保険ポータルサイトの〕healthcare.gov も本格稼働までにはきっと修復されるはずだ.ただ,これで制度の運用開始がぐだぐだになりそうになったのはまちがいない.
というわけで,実施にあたっていろいろ問題がでてきたからって,社会保障の考えそのものに問題があると判明したわけじゃないというコンツァル氏は正しい.今度の問題で明らかになったのは,ほとんど役に立たないのに制度に民間企業を入れたままにしようとするときの対価だ.
これってつまり,「国だけが費用を負担する制度にしなければなにもなしだ」とリベラルは主張すべきだったってことだろうか? まさか.国だけが費用を負担する制度に実現の見込みはない――ひとつには,保険業界のロビーに力があるからだし,また,有権者は既存の保険適用をすっかり放棄して未知のものに取り替えることを支持してはいかなかったからでもある.そりゃまあ,オバマケアはぎこちない継ぎ接ぎ制度ではある.でも,保険未加入者まで加入させるには必要なことだ.
また,ぐだぐだな運用開始で世間は怒ってるけれど――ぼくも,ぐだぐだっぷりを糊塗せずに至らない点を認めてこそリベラルは自分たちの大義に役立つと信じてる人間の1人だ――,これがちゃんと機能してアメリカをもっといい場所にしてくれる見込みは高いことに変わりない.
© The New York Times News Service
共和党議員2人,避暑地にて
ぼく以外にも気づいてた人はいるかな.オバマケアに関する共和党の見解は,古典的な「ボルシチ・ベルト」ジョークにそっくりだ.キャッツキル山地の高級避暑地にきた女性2人の会話――
女性その1:「ここの食事って最悪.食べられたもんじゃないわ!」
女性その2:「それに,量もこれっぽっちだし!」
共和党議員その1:「オバマケアは奴隷制だ!」
共和党議員その2:「それに,登録手続きが難しいし!」
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【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
多難な滑り出し
by ショーン・トレイナー
成立から3年以上立って,連邦政府と州政府は,「適正医療費改革法」の名で知られる新しいアメリカ医療改革法の実施を10月1日に始めた.ところが,同プログラムは開始そうそうに技術的な問題に見舞われている.
この新法にとって要所となっているのが HealCare.gov のウェブサイトだ.このサイトでは,保険未加入のアメリカ人が競合するいくつかの民間企業からオンラインで医療保険プランを見繕うことができるようになっている.ところが,同ウェブサイトは技術的問題に苛まれている.ユーザーがアカウントを登録することすらできない事例が多発しているんだ.サイト訪問者は,頻発するクラッシュに手間取るはめになっている.保険会社は,自社プランに登録した人たちのうち,ごく一部ながらも正しくないデータが送られてきていると報告している.
合衆国は,先進国のなかで唯一,大部分で規制を受けない営利民間保険会社からなる制度を実施している.2009年に保険医療改革をめぐって議会で議論が始まるまで,合衆国のリベラルには,単一支払者制度の支持を表明する人たちが多かった.単一支払者制度では,国だけが唯一の保険業者として機能し,そのための資金は税金から拠出される.だが,世論はこの単一支払者制度を支持しただろうという世論調査もいくらか出てきたものの,政治的に実行不可能として却下され,2010年に民主党は「適正医療費改革法」(Affordable Care Act) を可決させた.いくつかの点で,この新しい法律は保険会社にきびしい規制を課し,また,保険を購入しなければ罰則金の支払いを大半の国民に強制することで,コストの効率にすぐれた単一支払者制度を模倣しようと試みている.
この法律の成否は,健康で保険に加入していない数百万の人々に,医療保険取引を通じて政府が助成する保険適用を購入させられるかどうかにかかっている.だが,多くのアナリストは,ウェブサイトの不具合や悪評があっても我慢して登録するのは,重病者しかいないのではないかと懸念している.
同ウェブサイトの問題に触れて,オバマ大統領は先日,グーグルやオラクルといった企業の支援を受けて「技術問題を一掃する」と約束した.各社は,数十人の従業員を派遣して,サイトの問題修復の支援に当たらせている.これによって11月下旬にはサイトが完全に動作するようになることを当局はのぞんでいる.
© The New York Times News Service