●James Hamilton, “Presidents and the economy”(Econbrowser, November 30, 2013)/【訳者による付記】本エントリーで話題となっているブラインダー&ワトソン論文については、タイラー・コーエンもブログで取り上げている。その翻訳は本サイトで読むことができる(こちら)。あわせて参照されたい。
アラン・ブラインダー(Alan Blinder)とマーク・ワトソン(Mark Watson)の二人――どちらもプリンストン大学教授――が共同で興味深い論文(pdf)を書いている。民主党政権下(民主党の大統領の任期中)と共和党政権下(共和党の大統領の任期中)とでの米国経済のパフォーマンスの違いがテーマだ。まずは、以下の事実が確認されている。
米国経済のパフォーマンスは、民主党政権下においての方が共和党政権下においてよりも好調という事実は、これまでの歴史を通じて何度も繰り返し確認されている。「パフォーマンスの良し悪し」をどのように定義しようとも、それは変わらない。民主党政権下における経済パフォーマンスと、共和党政権下における経済パフォーマンスとの差(以下では、「D-Rギャップ」と呼ぶことにする) は、「パフォーマンスの良し悪し」を測る数多くの指標で、驚くほど大きいのである。大統領一個人が一国経済に及ぼせる影響力など取るに足りないとの見解が経済学者の間で幅を利かせていることを踏まえると――アメリカ合衆国憲法も同様の見解に立っていると言えるが――、「D-Rギャップ」のあまりの大きさは、信じ難いほどである。
各大統領の任期中の実質GDP成長率(年率平均、単位は%);ブラインダー&ワトソン論文のpp.38(図1A)より引用 [1] 訳注;民主党の大統領は青色のバー、共和党の大統領は赤色のバー
D-Rギャップは統計的に有意であり、かなり頑健な結果でもある。そのことを確認した上で、ブラインダー&ワトソンは、D-Rギャップがなぜ生み出されているのかを探る。政権ごとの財政政策や金融政策の違いが原因だろうか? いや、それではD-Rギャップをほとんど説明できない。計量経済学的な検証を通じて早々にそう結論付けると、ブラインダー&ワトソンは、脈がありそうな要因の一つに行き当たる。原油価格ショックである。スエズ危機(1956年~1957年)、OPECによる石油の禁輸措置(1973年~1974年)、イラン・イラク戦争(1980年11月に勃発)、イラクによるクウェート侵攻(1990年)。いずれも共和党政権下で発生した出来事だが、どれにしても(原油価格を高騰させることで)米国経済の低調なパフォーマンスに一役買っているように思える。不運にも、民主党所属のジミー・カーター(Jimmy Carter)は、(原油価格の高騰をもたらすことになった)イラン革命(1978~79年)が発生した時期に大統領を務めたが、(上の図をご覧いただければわかるように)カーター大統領の任期中のマクロ経済のパフォーマンスのランキングは、民主党の歴代の大統領の中で後ろから数えた方が早い。「原油価格ショックを引き起こした責任は、米国の大統領にある」・・・なんて声がどこかから上がるかもしれないが、物分かりのよい人であればそうは言わないだろう。中東を舞台とする地政学的な対立は、米国の大統領がどうにかできるような類の問題ではないのだ。
脈がありそうな要因は他にもある。全要素生産性(TFP)の違いがそれだ。例えば、1990年代には、大規模小売業(big box retailers)の隆盛に伴って、生産性が大きく伸びることになったが、クリントン(民主党)政権下でアメリカ経済が力強いパフォーマンスを達成したのは、そのおかげであるように思われる。マクロ経済の生産性を決定する要因については、経済学者の間でもまだ十分に理解されていないが、原油価格ショックの場合と同様に、全要素生産性の違いが生み出された原因を米国の大統領に帰することは難しいように思える。
最後に、3つ目の要因として挙げられているのが、消費者の信頼感(消費者が近い将来に対して抱く信頼感)である。理由はよくわからないが、消費者は、民主党政権下においての方が、共和党政権下においてよりも、将来に対して明るい見通しを抱く傾向にあるようだ。計量経済学的な検証によると、D-Rギャップのうちの4分の1程度は、(民主党政権下と共和党政権下のそれぞれの時期における)消費者の信頼感の違いによって説明可能なようだ。
ブラインダー&ワトソンの二人は、次のように結論付けている。
民主党支持者は、D-Rギャップの原因を大統領別のマクロ経済政策の巧拙に求めたがるだろうが、実際のデータはそのような願望に味方していない。・・・(中略)・・・その代わりに、おおむね「幸運」と見なせるような要因に目を向けねばならないようだ。どういうことかというと、民主党の大統領の任期中は、原油価格が安定していて、(稼働率修正済みの)生産性の伸びが高くて、(ミシガン大学消費者信頼感指数の構成要素である先行き期待指数で測って)消費者が将来に対して楽観的な見通しを抱いている傾向にあるようなのだ。
References
↑1 | 訳注;民主党の大統領は青色のバー、共和党の大統領は赤色のバー |
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