ジョナサン・ハイト「学界における視点の多様性を向上させるために:2017年の展望と目標」(2017年1月3日)

・Jonathan Haidt, “Heterodox Academy: Our Plans for 2017“, January 3, 2017.

 

ヘテロドックス・アカデミー(Heterodox Academy、以後文中ではHxAと表記)の目標は「学界における視点の多様性を向上させること」だ。視点の多様性…特に政治的見解の多様性…は1990年代以降減少し続けているということ、そして視点の多様性を向上させることは大学における研究と教育の質を向上させる可能性が高いということを、我々は繰り返し指摘してきた

2015年9月にHxAを立ち上げてからの十六ヶ月間、HxAは前述の目標を追求することに非常に成功してきた。最初には25人だったメンバーも今日では363人となり、下の表に示されているように、メンバーたちの政治的見解は様々に分布している。HxAは学界のなかでも最も政治的に多様な団体であり、伝統的に学問的な生活の特徴とされてきた幅広い研究と市民的な意見の不一致のある種のモデルをメンバーたちは示しているのだ。

 

ハイト構成員2

 

 

2016年には我々は117のブログ記事を発表し、およそ25万人の読者がHxAのサイトを訪問した。有名なメディアもHxAを好意的に取り上げた。我々は、政策の情報源になるような、新しくて必要性の高いデータを収集した。そして、政治的な分裂と緊張が増していった2016年において、我々は視点の多様性が持つ価値を訴えてきた。

(…中略…)

しかし、2016年11月8日、政治的な激震がアメリカで起こった。大学に職を得ている我々の大半はヒラリー・クリントンが大統領選で勝利すると予測していたし、我々の多くは民主党が上院多数派を取り戻すだろうとも思っていた。ドナルド・トランプの意外な勝利と、連邦政府と多くの州政府における三権分立が全て共和党によってコントロールされることになるという事態は、アメリカの大学の状態をこれまでとは非常に違ったものにする。大学における生活に影響を与えようと試みている全ての団体は、この変化について熟慮して注意を払うべきだ。

大統領選の結果はHxAの目標に特に関係のある三つの変化をもたらした、と私は考える。

1.視点の多様性が持つ価値を以前よりも多くの人々が認識するようになった。それも、ソーシャルメディアやソーシャルネットワークによって作り出された党派的な「幻想」の解毒剤としての価値だ。多くの社会科学者やジャーナリストや世論調査員が、今回の選挙に働いていた力学を計算し損なった。分裂した時代において真実を追求することにコミットメントすることは、全ての立場の人々に対して、自分たちとは異なる意見を持っている人々を探し出して彼らの意見を聞くという行為に肯定的に踏み出すことを要求する。オバマ大統領を含む、左派の組織や著述家たちの多くが、視点の多様性をより高める必要があると訴えた。HxAは、「視点の多様性」という単語を普及させたことについての実績を誇ることができる。

2.連邦政府から大学にもたらされる圧力の質が変化する。2011年には、オバマ政権下の教育省は教育関係者宛の書簡を発表し、ハラスメントという概念を拡大して以前よりもずっと広範な言語行為までをもハラスメントに含まれると見なすように、大学へ圧力をかけた。このハラスメントに関する新しいルールを遵守しない場合、大学は連邦政府からの援助金を失うリスクに晒された。この新しい政策は、学生と教員たちの言論や社会的活動をこれまでよりもずっと徹底して監視することを大学に奨励して、様々な問題をキャンパスに引き起こした。トランプ政権下の教育省がこのルールを撤廃することを私たちは期待できるし、それはキャンパスで起こっている問題について各大学それぞれが最善だと考える方法で対処するための裁量権を大学に与えることになるだろう。

しかし、共和党の候補者の一人が大統領選で示唆したように、これまでとは異なる政治的目標のために、新たな教育省と司法省がこれまでとは異なる圧力を大学に与えるという可能性は極めて高い。一般的な原則として、大学が政治的な争いの舞台になって左右のどちらでも権力を持った側に好きにされてしまうことを、私は憂慮している。HxAのメンバーたちの大半も学問的な生活の政治化を減らしたいと望んでいるだろうと私は考えるし、私たちはそれを大学の内側から試みている。HxAは、左右どちらの側から来るものであるかに関わらず、学問の自由を脅かすものに反対するであろう。

3.政治的な分裂と政治的な情熱は今後長らくに渡って激化し続けるであろう。1990年代以降、アメリカでは政治的な分裂と党派間の敵対感情の程度が増し続けている

さらに、その敵対感情は2016年に飛躍的に増したようだ。現在のように強力で無理もない情熱の時代には、どんな立場にも叡智が存在しているということや意見の争いからも叡智は発見できるということを論証し続けるのは、HxAにとっても困難になるであろう。私たちが怒ってしまって潜在的な支持者を失ってしまうという事態が起きる可能性は高くなるだろう。

これらの三つの変化を合わせて考えると、舞台は変わったのでありこれからも予期せぬ形で変わり続けるだろうと私は思う。HxAは慎重に目標を実行しなければならない。しかし、激化する分裂と急激な変化の時代において大学が答えを見つけることを助けるユニークなポジションにHxAがいることをふまえると、いま学界にいる全ての人々が直面している不確実性は多くの可能性をもたらしてもくれるのだ。我々の政治的多様性は利点である…画期的な解決策を発見して、全ての立場から信頼を得る可能性がHxAには含まれているのだ。結局のところ、HxAに参加した大学教授である我々は、学界を愛しているのであり学界が栄えるのを目の当たりにしたいと思っているのである。

したがって、2017年にはHxAは特に二つの優先事項に集中して尽力するべきである、と私は提案する。

1.データ収集と実証的研究。

視点の多様性と自由な探求に関する、全てのデータや新しい研究に基づくレポートを我々は収集し続けるだろう(ラングバートらによる、HxAの最近のサマリーを参照せよ)。これまでは我々は非左派的な視点に対する抑圧について集中して研究していたが、これからはそれに加えて左翼的または進歩的な視点や学問を抑圧する効果をもたらす傾向や実践についての情報も我々は活発に追い求めるだろう。全ての立場からの検閲行為や脅迫に対して我々は反対する。

また、組織外の人々による研究を促進するためのツールもHxAは作り出している。HxAによる「恐れなき言論のインデックス」は、どのような学生がどのようなトピックについて語るときにどのような結果を恐れているか、ということを発見するためのオンライン調査であり、全ての教授や管理的立場の人が使用することができる。これは議論の質を向上させたいと心から望んでいる人々を助けることを意図したツールであり、学生の恐怖を減少させて議論の質や包括性を向上させるための介入手段についての実証研究を行うことを容易にするものだ。

2.大学が視点の多様性を向上させて大胆だが市民的な言論を促進することを援助するリソース。

ソーシャルメディアは、”相手の側”が言ったり行ったりした最悪なことを毎日のように我々に突きつけてくる。しかし、全ての立場からの最善の考えについて読みたいと望んだなら、どうするべきだろうか?我々は視点の多様性リーディングリストを作成中であり、これは学生たちが自分の考えを拡げることを手助けするものである。また、多様性についての一年生向けセミナーを含む様々な授業に自由な長さで挿入することのできる教育用モジュールを作ることについて教授たちを手助けもする。2016年の選挙をふまえると、このリソースは非常に必要とされているものであり、大学に限らず高校やその他の政治的多様性に欠けているか党派的な紛争に苛まれている全ての組織に必要とされるものである、と我々は考える。党派的な情熱をまず落ち着かせることができれば、他の種類の多様性についての議論もより生産的なものとなるかもしれない。視点の多様性についての理解を高めることは、他の種類の多様性との並立する選択肢なのではなく、全ての人々が仲間に含まれていると感じられて、意見を共有して、建築的で市民的な意見の不一致から恵みを授かることを可能にするような開放的で信頼のある環境を成立させるために不可欠な前提条件なのであると我々は考えている。

リーディングリストの作成に加えて、我々はお勧め大学ガイドも発展させ続ける。アメリカのトップクラスの大学それぞれについて、その大学には意見の多様性はどれだけ見受けられるかということに関する全ての発見可能な情報を我々は収集し続けるだろう。これは他の組織が行っていない種類のデータ収集であり、多くの高校生はこの情報について知りたいと望んでいるであろうと我々は考える。しかし、やがては我々は意見の多様性の確保に成功している大学について重点を置き、最良の実践について特に取り上げるであろう。

結論を言うと、アメリカは数多くの亀裂によってひどく分断されているのであり、我々の党派的な分断はより幅広くより敵対的なものへと成長し続けている。アメリカで起こっている政治的な傾向の一部は他の多くの国々でも起こっており、民主主義・グローバリーゼーショーン・新しいテクノロジーとの間の相互作用に関する、現時点ではまだ十分に理解されていないようなシステム的な問題が存在するかもしれないということを示唆している。これらの問題を研究し、開放的で、偏向しておらず党派的でない方法でこれらの問題に対して挑戦することについて、大学は最も優れた機関であるべきだ。

さらに、理想的には、大学は相互の理解や党派を超えた尊敬を培うことに適した場所である。多様な民主主義社会における有能な市民となったり、価値観や理念についての不一致が常に存在し続ける場所である職場における有能な従業員となるように学生たちを教育することが教授たちには可能であるし、またそのように教育しなければならないのだ。我々は彼らの政治に関わらず全ての学生を教育しなければならないのであり、自分たちの間で生きていけて、議論して、協力して、政治に関わらず市民的に意見を不一致させることができるようになるように彼らを教育しなければならない。

これらやその他の理由のために、大学の健康と活力を向上させることは国家的な優先順位が差し迫っている事項である。HxAにおいて、我々はこの目標にとって建設的なパートナーとなるだろう。

 

 

 

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