スコット・サムナー「クルーグマンVSバロー:失業保険と総需要」

Scott Sumner “Krugman vs. Barro” (TheMoneyIllusion, January 20, 2014 )


下のようなことを言ったせいで、ポール・クルーグマンが多くの批判を浴びている。

でも [1]訳注;失業保険の延長について財政赤字を心配するというのは、同意はしないけれども少なくともまだ理解はできるが右派は…という文脈。 右派、ここでいうのはラッシュ・リンボー [2] … Continue reading なんかじゃなくてウォール・ストリート・ジャーナルロバート・バロー [3]訳注;主流派マクロ経済学の第一人者の一人。成長論の教科書はスタンダードテキストとなっている。 みたいな有名な経済学者のことだけれど、彼らの会話に耳を傾けてみれば、失業者に対する援助が雇用を生み出すという考えが馬鹿馬鹿しいのは自明のことと片づけられているのに気づくだろう。お前ら、みんなに働かないようにお金を払うことで失業を減らせるとでも思ってるのwwwwwwって。

失業保険は働くことに対するディスインセンティブだとおのれの教科書 [4]訳注;妻であるロビン・ウェルスと2009年に出したもの。邦訳はマクロミクロで分割されている。 に書いとるやんけ、ということがそれに拍車をかけているようだ。私はどちらかといえば失業保険給付の延長が失業率を上昇させることになるというロバート・バローの主張に賛成だ。しかしこの件については、バローやボブ・マーフィーラス・ロバーツデイヴィッド・ヘンダーソンをはじめとする、私がよく同意を示す多くの人たちに対してクルーグマンの擁護を試みたい。バローの文章(少なくとも私が見つけた版については、ということだが。ウォール・ストリート・ジャーナルのサイトは見れないので。)で問題と思うのは次のようなところだ。所得移転がGDPを押し上げることを示すちゃんとした証拠は一切ないということをバローは正しく指摘しており、したがって彼は財政乗数について非常に懐疑的だ。

しかし「総需要」を嘲りつつも、バローがミルトン・フリードマンやロバート・ルーカスのような名目GDPの大きな下落は失業の上昇をもたらすと主張した人々に同意、あるいは不同意であると実際に述べたことは一度もない。彼はこの点をさらっとはぐらかしているのだ。しかしこれは本当に重要な論点である。というのも私が思うに、金融政策による相殺という主張(財政政策は名目GDPを押し上げない)についての証拠は、総需要は重要ではないという考え(つまり名目GDPの上昇は実質GDPの押し上げにはならない)のそれよりも100倍強力だからだ。かつてバローが財政政策について書いたとき、総需要が問題なのであればただ単に金をすればいいというようなことを何か言っていたのを覚えているだけに、とりわけてもがっかりである(正確に何と言っていたかは忘れた。)

名目ショックが重要かどうかという点について、右にいる人々がはぐらかす傾向を強めてきていることは感じている。私がアーヴィング・フィッシャーやミルトン・フリードマンのような人たちと考えを同じくしているとますます強く思う一方で、今生きている経済学者についてそう思うことがほとんどないのはそうしたことが理由だ。

バローとは貧しい人たちは怠け者だと考える悪い大物保守派である、とクルーグマンが自分のリベラルな読者たちに対して遠回しなメッセージを送っているという可能性はあると思う。しかし私がクルーグマンの文章を読んだところでは、彼は自分の(総需要が重要という)考えがバローにからかわれていると不満を言っているように見える。大多数の経済学者は総需要が大切だと信じているということをクルーグマンはただしく指摘しているにもかかわらずだ。バローは文字通り「wwwww」と書いたわけではないが、彼が「首切り(bloodletting)」という例えを使ったのはそうした印象を与えるものだ。

私はクルーグマンに優し過ぎているのかもしれないが、私が彼のエントリを読んだときには他の人々が言っているような不公平は別に感じなかった。クルーグマンはいつも攻撃的な調子で書くが、今回についてはそのことで保守派たちは勘違いしてしまったのだと思う。

要するに、クルーグマンは平常運転中だということだ。

追記:他の保守派たちは私の主張に賛成しないだろうと思う。ラス・ロバーツは次のように言っている。

相手側が正しいかもしれないという可能性を示すことなしに失業給付についてエントリを書くっていうのはどういうわけだ?相手に対してはそうしたことを要求したくせに。

クルーグマンのエントリは失業保険でなく、総需要についてのものだと私は考える。彼のエントリは実のところ、総需要の重要性の保守派による否定と彼が見なしているに対して向けられている。クルーグマンは失業保険を単に例えとして使っているだけで、本当の焦点は総需要についてだ。彼は総需要についてのバローの考えを叩いているのであって、失業保険についての考えに言っているわけではない。鍵となるのは「馬鹿馬鹿しいのは自明」という言葉だ。クルーグマンはバローが失業保険について自分と異なる考えをしていることが気に入らないのではなく、バローが総需要の重要性を完全に否定していることが気に入らないのであり、総需要の重要性を否定されるならばそれすなわち失業保険についてのクルーグマンの考えが馬鹿馬鹿しいのは自明のこととなる。したがってクルーグマンをイラつかせている本当の論点は総需要なのだ。クルーグマンはバローの失業保険についての考えがおかしいと言ってるのではない。彼は(総需要は重要でないという)その推論過程がおかしいと言っているのだ。総需要は重要でない(先の名目GDP/実質GDPという点)とバローが実際に信じているかは確信がないが、彼はそうした印象を与えてはいる。

追追記:非常に多くの異なる見解が飛び交っているので、中立のオブザーバーが求められる。ジョシュ [5]訳注;ウォール・ストリート・ジャーナルのジョシュ・バローのこと。ロバート・バローの息子。 、君がやってみてはどうか。

References

References
1 訳注;失業保険の延長について財政赤字を心配するというのは、同意はしないけれども少なくともまだ理解はできるが右派は…という文脈。
2 訳注;アメリカの有名ラジオパーソナリティーで、保守的な言動で知られる。ここでは根拠もなしに感情や受け狙いで保守的な言動をするような人たちの代表として引合いに出されている。
3 訳注;主流派マクロ経済学の第一人者の一人。成長論の教科書はスタンダードテキストとなっている。
4 訳注;妻であるロビン・ウェルスと2009年に出したもの。邦訳はマクロミクロで分割されている。
5 訳注;ウォール・ストリート・ジャーナルのジョシュ・バローのこと。ロバート・バローの息子。
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