Econlog の方に投稿したポストで,アメリカの人口増加が減速しているという話を書いた.2018年現在は 0.6% という伸び率になっている(1937年いらいもっとも鈍い伸びだ).『ウォールストリートジャーナル』の記事にも,アメリカの州別にみた人口増加に関する面白いデータが掲載されている:
[「緩慢な伸び」――2017~2018年にネバダ州とアイダホ州が国内でもっとも急速に人口が増えている]
[註記:プエルトリコはデータに含まれていない(人口は4パーセント近くで減少している);データの出典:統計局]
グラフについている註記がむしろ興味を引く.昨年,人口が4パーセント減少したという話だ.ハリケーン「マリア」が減少に寄与している部分もあるけれど,プエルトリコの人口減少はもう何年も前から続いている.2010年からだと,およそ14パーセントの減少だ.この巨大な債務の支払は誰がやるんだろう? 最後にプエルトリコから退出する方は明かりを消しておいてくださいな.ハワイも同様に人口が減少している.ミシシッピもルイジアナもだ.つまり,「サンベルト」現象は世間で言われているのよりも複雑なわけだ.
他の傾向も挙げておこう:
1. モルモン教徒は子だくさんだ.アメリカで人口が増加している上位4つの州は,モルモン教徒の割合が多い上位5つの州に入っている.ただ,人口増加に劇的な影響を及ぼすほどモルモン教徒が多いのはユタ州とアイダホ州の2つにかぎられる.(モルモン教徒率の高い上位5州の残り1つ(ワイオミング州)は人口が減少している.)
2. ミシガンやオハイオのように中西部で産業のさかんな州は人口が増加している(緩慢ではあるけれど).対照的に,イリノイ州は年に約4万人ずつ人口が減少している.これのどの辺が意外かというと,イリノイ州は中西部の産業都市〔シカゴ〕が中心となってみずからを首尾よく再発明しているというところだ.シカゴには,高給の雇用が豊富で栄えている湖に面した地域がある.その一方で,デトロイト〔ミシガン州〕・フリント〔ミシガン州〕・クリーブランド〔オハイオ州〕・アクロン〔オハイオ州〕・デイトン〔オハイオ州〕は衰退している.イリノイの低迷は,州を財政危機へと追い込んでいるイリノイ州政府のとてつもない無能ぶりの反映なのかもしれない.イリノイを支配しているのはクック郡で,ここには腐敗した政治文化がある.
3. 2013年まで,ニューヨークの人口はフロリダを上回っていた.いまや,フロリダの人口はニューヨークを 175万人上回っている.というか,アメリカの人口増加の 35% はフロリダとテキサスで生じている.
4. テキサスに隣接する日光がふりそそぎ石油が豊富な州(複数)はひきつづきひどく低迷しつづけていて,人口は減少しているか,全米平均を大きく下回る増加にとどまっているかのどちらかだ.テキサスの好調は,おそらく州の所得税がないこと,土地利用規制がゆるいこと,企業にやさしい規制の組み合わせが有利にはたらいている結果なのだろう.他の内陸部の州もテキサス同様に住宅価格が安いけれど,テキサスは大都市地域の住宅価格が安い.
5. 州の所得税をなくしても,大都市のない州には大した利得はもたらされそうにない.例外はサウスダコタ州で,隣接する他の州に比べてそこそこうまくやっている.これと対照的に,大都市があって所得税のない州(テキサス,フロリダ,ネバダ,ワシントン,テネシー(給与所得への課税がない))は,隣接する他の州よりも成長がはやい傾向にある.これは,州の所得税が存在しないことが大都市に暮らす高給取りの専門職たちにとって格別に魅力的であることによるのだろう.
6. 近年の連邦税制改革によって,カリフォルニア州の所得税の最高税率は約 8% から 13.3% に引き上げられることになる.多くの豊かな人々(ぼくとか)はそれでもカリフォルニアに暮らし続けることを選択するだろう.居住環境の快適さがその理由だ.でも,限界部分では,カリフォルニアからオースティンやシアトルやベガスに移住する人たちがさらにもう少し増えるだろう.かつて,カリフォルニアはアメリカ全体よりも急速に成長していた.白人が他の州へ移住し始めたときにすら,カリフォルニア全体の人口は急速に増加しつづけた.国外からの移民がカリフォルニアに流入したためだ.でも,いまやカリフォルニアの人口増加率(0.4%)は全米平均を下回っている.やがて,カリフォルニアは議会の座席を失い始めるかもしれない.
7. 今日,アメリカの人口増加の大半は3つの地域で生じている.南西部(ローリーからマイアミまで),テキサスの4大都市部,そしてカリフォルニア以外の西海岸(デンバー/シアトル/フェニックスの三角形),この3つだ.
世界最大の金持ち2人が,州の所得税のない唯一のリベラル州で同じ中規模都市に暮らすオッズはどれくらいだろう?