Scott Sumner “Doing more with less“(TheMoneyIllusion, April 15th, 2014)
アベノミクスの効果についてたくさんの議論がなされてきた。この問題に関しては私は一種の穏健派であって、アベノミクスは役に立ったけれども画期的な効果はもたらさないだろうとしている。ただこのところ日本についてやや少しより楽観的にさせるような一部のデータに遭遇した。
データによれば、世界第三位の経済規模を誇る日本の人口は0.17%、217,000人減少し、10月1日時点で127,298,000人となったという。この数値は長期滞在の外国人も含んだものだ。
65歳以上の人口は110万人増加して3190万人となり、全人口の25.1%を占めるという。
(中略)
その一方、日本の主要労働人口である15歳~64歳の人数は、急速な高齢化社会によって32年ぶりに10月1日時点で8000万人を下回ったことを政府の統計は示している。
労働力は合計で79,010,000人となり、これは1,165,000人の減少だ。
0.17%の人口減少はさほど大きなものではないが、最後の行には目を引かれた。これは一年で1.45%の減少だ!怠け者でニュースのタイトルしか読まない人は、日本の実質GDPは去年1.7%上昇したと思っているかもしれない。しかしちょうどアメリカと同じように、対前年比の数字はミスリーディングだ。第4四半期の対前期比の数字では2.5%の実質GDP成長となり、アメリカとほとんど同じだ。
しかしアメリカの労働年齢人口は上昇している…のだが実のところどこにもデータを見つけることはできないので、2008年から2010年にかけての成長率と2015年から2020年にかけての予測値を補正して推測してみた。アメリカの労働年齢人口は2010年から2015年にかけて2.5%、500万人上昇すると予測できた。というわけで年間でだいたい0.5%としよう。ところで、統計局はこの成長率が急速に鈍化することを予測していて、2008年あたりでは年間0.9%であるものが2015年から2020年では年間0.25%になると予測している。今後の実質GDP成長は非常にゆっくりとしてものとなることを覚悟する必要がある。
日本の実質GDPの数字は、労働年齢の大人ひとり当たりだと4%近くの成長を示していて、これはアメリカだと4.5%の実質GDP成長に相当する。これを見るとアベノミクスについてもう少しばかり楽観的にさせられる。
注意するべき点が2つある。
1.日本の数値は異常値であって、私は今年についてはもう少しばかりゆっくりとした成長を見込んでいる。
2.労働人口年齢が適切な指標であるかどうかは確かじゃない。特に、日本では働いている高齢者の人数が増えているという場合には。
しかし妥当な人口推定値であればどれを用いても、日本の実質GDPの数値は見かけ以上に優れたものとなる。2013年1月には4.3%だった失業率が2014年1月には3.7%まで下落した一方、その前年には0.2%しか下落していなかったことにも触れるべきだろう。2014年2月の3.6%という数値は1990年代以降での最低値と同率タイだ。つまり小泉景気が達成した最低値と同じなのだ。この記録はすぐに破られると期すべきだろう。
日本の生産ギャップは実在すると私は信じているが、同僚である需要サイドの経済学者たちが想定しているよりは小さいと思っている。アベノミクスの大きな恩恵は、これが名目GDP成長を加速させる一方で国債利回りを上昇させてはいないことによる債務負担の減少だ。CPIインフレ率がマイナス0.5%とプラス1.5%のどちらであってもゼロ下限の金利が成り立つのであれば、まともな頭の政府(それもGDPの200%以上の債務を抱えている)で1.5%のほうを選ばないものがあるかね?
追記:正しく小泉のスペルをつづれたかどうか確かめてる際に、この点に関するノア・スミスの素晴らしい記事 [1]訳注;全文の翻訳がアゴラにある模様。以下は拙訳。 に出くわした。
支出削減と成長の加速のタイミングがちょうど一致しているという事実は、おそらく偶然だ(信用の妖精さんは日本に住んでいて、ヨーロッパには永遠に訪れないというのでない限り)。でも重要なのは、僕らがそうなるかもと思っていたほどには緊縮は日本にダメージを与えなかったということで、2000年から2007年にかけての好景気は財政刺激の急上昇によるものでは決してないってことだ。つまり小泉の時代はケインジアンの成功談というわけではなかったようなんだ。(追記:もちろんここで水準と成長率を混同させようってわけじゃない。財政赤字は2000年から2003年にかけてがピークだった。僕が「緊縮」と言ったのは財政赤字の成長率の減少のことで、赤字額の減少は実のところ2004年から2007年にかけての期間になるまで訪れなかった。というわけで2000年から2003年にかけての巨額の財政赤字が回復に「活を入れた」ということもありうるし、もしくはそれが遅れて効果を発揮したのかもしれない。でもその場合、90年代には財政赤字が増え続けていたのに成長率は下がり続けていて財政赤字には大した効果がなかったのに、なんで急に効果を発揮しはじめたのかという疑問が残る。金利が依然としてゼロ下限にあった2004年から2007年にかけての赤字縮小が、なぜ目に見える形で回復の腰をおるということがなかったのかということもそうだ。)
追記部分を読むと、ノアは財政規模の変化ではなく水準が重要なのだという反論をケインジアンから食らったんじゃないかと思う。もちろん今やケインジアンはオズボーン景気 [2]訳注;オズボーンはイギリスの財務相。イギリスが緊縮しつつも景気が回復していることを指している。 について正反対の主張をして言い逃れをしようとしている。
追追記:誤解のないように言っておくと、名目GDPのデータはアベノミクスが総需要を押し上げたかどうかを検証する一番の方法だ。そしてアベノミクスは実際に総需要を押し上げた。実質GDPのデータを見ることは、アベノミクスが総需要を押し上げ、総需要が実質GDPを押し上げたという仮説を検証することになる。