ジェローム・パウエルについて『ワシントンポスト』に書いた.
トランプは直観ではイェレン再任に傾いていたようだけど,側近たちに説得されて考えを変えたらしい.トランプが直観にしたがう方が正しかったまれな事例だ.きわめて資質のすぐれた女性のかわりにはるかに資質で劣る男性をすえて,この資質に劣る男性がきわめてすぐれた女性とそっくり同じ政策をやってくれるのを願っているわけだ.どうしてそんなことが理屈にあったりするだろう?(ところで短期的にはパウエルはうまくやるとぼくは見てる.)
進歩派は新税制がきわめて逆進的だといって叩いているけど,これには乗れない:
#1: 進歩派の主張によれば,法人税減税は富裕層を利するんだという.実際には,みんなの得になる.ちょっと考えてみて欲しい.たんにお金持ちを利するからという理由だけで,あの左派ごのみの北欧福祉国家がそろいもそろって法人税を減税しただろうか? 法人所得税の税負担がどうなっているかは誰も知らないけれど,おそらくかなり広い範囲で分担されているはずだ.
#2: まずまちがいなく,相続税は撤廃されないだろう.かつて共和党が撤廃しようとしたとき,民主党はこれを元に戻した.サンダース/ウォレン大統領でも同じことをやるだろう.共和党はこのことをよくよくわかっているんだろうと思う.そのこともあって,2024年まで撤廃が延期されたのだと思う.
#3: 新税制案で,連邦所得税の上限を 43.4% に据え置きとはね.なんともヘンテコな話だ.共和党ではあれだけ供給側の税制改革が必要だと議論しておいて,最上位層の税率をまったく下げないときた.オバマの勝利だねえ.(オバマケアと同じく)
#4: 進歩派はこう指摘する――「最上位層以外のお金持ちは減税されるでしょ.」 減税されるお金持ちもいるし,そうじゃないのもいる.ぼくら(アッパーミドル階級の)世帯の限界税率は,新税制案だと 43.0% から 48.1% に上がる.これでどうしてうちの妻やぼくがもっと長時間働こうって動機になるのか,ひとつアーサー・ラッファー〔政府の税収が最大になる最適な税率を示すラッファー曲線を考えた人〕に説明してもらいたいところだ.オバマが急激に引き上げたキャピタルゲイン税率は削減されない.それでどうして,ぼくがもっと投資をしようって気になる? なんともわからない話だ.うちの世帯はオレンジ郡南部でそれほど特異な家ってわけでもない.限界税率の上昇に直面する世帯はたくさんあるはずだ.一方,労働者階級の世帯(9万ドルまで)にかかる限界税率は 15% から 12% に下がる.というわけで,これは共和党基準だとものすごく逆進的な税制案というわけではない.
[ぼくが言っている最上位層の2017年の税率の推計は,カリフォルニアの税率 6.2%(連邦政府の課税所得控除を引いた後の数字)に 33% をたして 3.8% を足した数字だ.2018年だと,カリフォルニアの所得税 9.3%(控除はないので)に 35% を足してさらに 3.8% を足す.もし間違ってたらご指摘くださいな.]
#5: 先月,テスラの新型に $1,000 の頭金を払ったところだ.ところが,$7,000 の税額控除をなくすという.他方,トランプは平気なようだ:
この税制案には,トランプ大統領一家を直接に利する項目がいくつかある.
現行制度では,有限責任会社や共同責任会社や個人事業体のような「パススルー」企業の所有者や S法人――たとえばトランプ・オーガナイゼーション――の所有者は個人所得として課税される.共和党税制案では,そうした所有者に新たな低税率を提案している.これはいま典型的に課税される 36.9% から大幅な減税となる.
トランプ・オーガナイゼーションは大きなパススルーだ.ゴルフコースもホテルも保有していて,年間の収入はおよそ 95億ドルにのぼる.だが,法人所得税を免除され,かわりにその利益は株主に分配される際に課税されるため,この新たな低いパススルー税率はトランプ一家にとって巨大な得となる――じぶんの企業をこれを同じような仕組みにしている他の多くの事業主も同様だ(…).
また,この法案に入っている別の付帯事項も直接にトランプ一家の利益となる.大半の企業は金利控除に新たな制限がつく――金利・課税前の収入の30パーセントが上限となる.その一方で,不動産会社や小規模な会社は免除される.
税金を節約するには大統領になるといいね.
とくにがっかりした点を1つあげると,デットファイナンス投資とエクイティファイナンス投資の扱いを平等にしていない.金利は控除対象になる一方で,配当は控除対象にならない.また,〔共働き世帯の税率が高くなる〕「結婚ペナルティ」も撤廃していない.これは汚点だ.
その一方で……今回の税制案には,本物の改革もたくさん含まれている.予想以上の数だった.もしもいまの法案どおりで可決されれば(でっかい「もしも」だけど),大半の人たちにとって税制度ははるかに単純になる.大半の人たちはたんに標準的な控除を受けることになる.真に悪しき「代替ミニマム税」は廃止される.またぼくもじぶんで税金の計算ができるようになるわけだ! 投資は経費化される.ややこしい減価償却もなくなる.こういうのはすばらしくいい改革だ.なによりいいのは,住宅ローン控除や州・地域税の控除が大きく弱められて,将来の改革で撤廃しやすくなる.保護すべきものはほとんど残らないだろう.ぼくにはどうにもうまくできすぎた話に思えてしまうし,きっと今回の税制案の改革といえる部分は通らないだろう.通ってくれればと願うけども.
もうひとつ,別の話.民主党は相続税を元に戻そうとするだろうけど,「税制簡素化」改革を逆戻しにはしないだろうと思ってる.ひとたびこれらが下院を通れば、定着していくだろう.時間が経つにつれて,また新たにややこしい部分が付け加えられていくだろうけど,大事なのは、あれこれの〔細かい但し書きの〕項目や代替ミニマム税をなくすことだ.いまのアメリカの税制はどうかしてる(他国にはないどうかしてる制度だ).いつか,これは終わらせないといけない.この惨状を終わりにしよう.たのむから.
PS. 「サムナーの理想の税制は?」という質問への回答:
#1: 個人の所得税や法人所得税はナシ.相続税もナシ.
#2: 貧困層はなにも払わなくていい消費税(付加価値税率かける貧困水準所得の払い戻しにより貧困層の付加価値税負担はなくなる)
#3: 急激な累進的給与支払税.自営業の人や会社をつくって税金逃れをする人たちは,じぶんたちの所得を賃金所得扱いにしている.投資は経費とされる.低賃金労働者は賃金補助を受ける.国民基礎所得(ベーシックインカム)はなし(ただし消費税払い戻しをのぞく).
#4: 累進的な資産税.(現行の資産税の逆.現行制度では,ふつうの住宅よりニューヨーク市のマンションにかかる税率の方が低い.)
#5: 炭素税.
この複数の税をくみあわせた制度だと,単一の税を高率に設定するシステムなしで十分な歳入がえられる.付加価値税を 50% にはしたくないだろう.それでは脱税がものすごいことになるはずだ.
きわめて累進的で単純で効率的な消費税はつくれる.口争いはいいかげんにして,そっちをやろう.