Scott Sumner ”Magical thinking”, The Money Ilusion, February 21st, 2019
ポール・クルーグマンがMMT(現代金融理論)を批判する記事をいくつか書いている。彼は礼儀正しくも,ゼロ下限においてはMMTの政策提案は緊縮の擁護者ほどは悪くないと指摘している。しかし奥底ではこのモデルが純然たる狂気であることに気づいているに違いない。
ステファニー・ケルトンの返答は,その思想について明確な説明を与えることができないというMMT派の長き伝統に連なるものだ。莫大な財政赤字はやがて金利が納税者にとって大きな負担となって圧し掛かるほど高まるまで公的債務を積み上げかねない,というクルーグマンの懸念に対する彼女の回答は以下のとおり。
まず,経済学者ジェームズ・K・ガルブレイスが説明したように「金利の仮定には悪魔が潜んでいる」。審判の日シナリオを防ぐのは難しいことではない。ガルブレイスが説明するとおり,「慎重な政策的結論は,予想される金利を低く保つこと」,もっと雑にいえば「重要なのは金利なのだよ,馬鹿者め [1]訳注;ビル・クリントンの大統領選挙時のスローガン”It’s the economy, stupid”のもじり。 」ということだ。
ではどうやって政府は「予想される金利を低く保つ」とされているのだろうか。魔法を使って?
そう,魔法を使うらしい。
金利は政策変数であり,〔公的債務〕比率が無限大に上昇するのを防ぐためにFEDがすべきことは金利を成長率以下に保つ(i<g)ことだけだ。ガルブレイスが言うとおり「これを達成するにあたって,将来の支出計画において劇的な削減を行ったり,社会保障や医療保険を切り詰める必要はまったくない」のである。
クルーグマンは,これを機能的財政にまつわる問題であると提示するのではなく,債務を持続不可能な経路に乗せるような金利をFEDが維持することがあろうかと疑問に思うべきだ。そのようなことはないはずだ。i>g なら債務の利払いはGDPよりも早く成長し,クルーグマンはそれがインフレ的であると主張している。
したがって彼の架空のシナリオは次の問いをはぐらかしているのだ。すなわち,インフレ目標を行っているFEDが公的債務の対GDP比が300%であるような状況で i>g であることをどうして許すだろうか,ということだ。
FEDが市場金利をどうやって低く保つのかについて彼女は何ら言及していないことに注目。市場金利は「政策変数」ではなく,様々な政策によって影響を受ける。FEDは割引率や準備預金金利を直接コントロールするが,重要となる金利は政府債務に対する市場金利だ。FEDはどうやって市場金利を低く保つというのだろうか。
短期においては,FEDは金融緩和政策によって市場金利を(自然利子率よりも低く)引き下げることができる。金利を長期において低いままにしておくには,非常に緊縮的な金融政策によって名目GDP成長を減らし,自然利子率を引き下げることが必要だ。FEDがどうやって金利を低く保つとされているのかに関する説明はまだかと思いつつ,ケルトンの記事を読み進めてみた。短期における金融緩和か,永続的な需要側の緊縮策か。そしてとうとうその答えを次のパラグラフに見つけた。
この点において日本は非常に良い例だ。日本の債務比率はそのうち300%にまで高まるかもしれない。その一方で,金利は日銀が設定した水準のとおりのところにあり,政府は問題なく基礎的財政収支赤字を維持している。
読者もご存知かもしれないが,過去20年にわたって日本は現代人類史において最も緊縮的な需要側政策をとり,1998年以降名目GDPはほとんど成長していない。つまり金利を低く保つ方法としてMMT派が引いている例は,深刻なまでに抑圧された支出によって目的を達成するという系統に連なる例だ。
それは「うまくいく」だろう。しかし,MMT派は需要を増大させるのがお好きではなかったのだろうか。人口増加を調整した上でも日本よりもはるかに名目GDP成長(図中赤線〔青線は日本〕)が高いアメリカにおいてさえ,需要が過小であると彼らは信じているものと思ったのだが。
MMT派は政策決定者が実際に備えているものよりももう一段上の自由を備えていると考えているようだ。支出を大きく増加させたいならば,金利の上昇を受け入れなければならない。そうでなければ経済はハイパーインフレーションに陥ってしまう。
次に,我々があまりにも債務持続性にとりつかれているならば,なぜ引き続き借り入れを行っているのだろうか。ラーナーは借り入れを資金調達手段とは見なさなかったことを思い出してほしい。彼はそれを金融政策の手段,すなわちここで述べたとおり,準備預金を吐き出させ,金利を望ましい水準に保つためのものとして見なしたのだ。
しかし,金利目標を達成するにあたってFEDはもはや債権(公開市場操作)に依拠していない。準備預金に対する目標金利による利払いをおこなっているだけだ。国債なんてものを完全になくしてしまわない理由はあるだろうか。債務を払うのは「明日」でよいのだから。
そのとおり。全ての国債を金利付きの準備預金,単に別の姿をした債務,に置き換えることはできる。それによって支払う金利が「目標金利」よりも高くならないことも保証される。しかし重ねて言うが,一定以上の長期にわたって自然利子率よりも低い水準に目標金利を設定すれば,ハイパーインフレーションを招く。税の引き上げによって高インフレを防ぐことはできないことは,1968年に学んだとおり。
日本についてはどうだろうか。日本は名目GDP成長に対して現代史において最も緊縮的な政策を行うことで自然利子率をゼロにまで押し下げた。これがMMT派の解決策だろうか。これが自然利子率が存在しないことを示すエビデンスとでも彼らは言うのだろうか。
Dilipの情報に感謝
References
↑1 | 訳注;ビル・クリントンの大統領選挙時のスローガン”It’s the economy, stupid”のもじり。 |
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