同書でもっとも発展されていた説は,こういうものだ――資本制経済はつねに供給超過(過剰生産)の状態にあるのに対して,中央計画経済はつねに需要超過(生産不足)の状態にある.コルナイは,この分析から導かれる事柄を細やかに述べている.大学で一般均衡の講義を受けていたときに,この本の論証を引いて議論を仕掛けたのを覚えている.当然ながら,教授は困惑していた.オリヴィエ・ブランシャールが,かつて同じような体験を語ってくれたことがある.世界を変えたいとのぞむ若い反抗的な経済学徒たちのあいだで,コルナイの本はきわめて人気が高かった.
1980年にコルナイの大著『不足の経済学』が世に出た.計画運営の経済学に関するコルナイのそれまでの研究は,大半が理論的なものだった(現実の計画立案・運営のあり方からそうした文献の内容はものすごくかけ離れていた).一方,同書は社会主義経済が実際にどういう仕組みで動いているかを系統的かつ力強く分析した内容だった.柔らかな予算制約(社会主義経済の国有企業は損失を出していても決して倒産しない)という概念から出発して,ここからどのようにして企業による需要引き上げにつながり,それにともなって価格のバリエーションに企業がかろうじて反応するようになるのかをコルナイは説明した.そうやって需要が引き上げられると,全般的な不足にいたり,これが企業経営陣・消費者・計画担当者の行動に深く影響を及ぼす.
上記はジェラール・ロランによるより広範な評価〔翻訳記事〕からの抜粋.コルナイ本人によるこの話題の文章はこちら.登録なしで閲覧できる後の文章はこちら.柔らかな予算制約の各種理論について Eric Maskin が書いたものはこちら.