タイラー・コーエン「ボットの方が自分よりうまくやるようになる日」(2022年4月10日)

[Tyler Cowen, “When your bot is better than you,” Marginal Revolution, April 10, 2022]

やがて,文章でのやりとりのほとんどはボットにおまかせするようになるだろうと,ぼくは予想してる. いままでに書いたメールやらいろんな文章をぜんぶ読ませてボットを訓練してやればいい.いつか,ぼく宛てに来たメールの大半に,ボットが直接返信してくれるようになるだろう.たまに,一部のメールについては,個人的に返信する意義があるかどうかをぼくにボットが確認とることもあるだろう.

これは便利そうに聞こえるし,いろんな点で実際に便利になるだろう.お散歩に出かけたり本を読んだりする時間は増えるはずだ.ただ,もっと広い均衡について考えておこう.ボットがさばくメールが増えていけば,ボットによって書かれるメールも増えていく.もちろん,すでにそういうことは起きてるけれど,この新しい世界では,ボットが作文したメールは少なくとも人間の書いたメールと同じくらいよく書けたものになるはずだ.すると,自分の時間と注意力をまもるためにどんなメールフィルターを設定しようと,ボットによるメールはそれをくぐり抜けるのも上手になっていくだろう.

一種の軍拡競争が起こるわけだ.全体として,質のいいメッセージやメールの数は増えるとぼくは予想してる.敏腕フィルターボットをもたざる者たちは,苦難を味わうことになる.

そうした世界で各種の条件を交渉したり議論したりするのを想像してみよう.キミのボットからなにかの提案がぼくのところに送られてきたとしよう.この提案って,本物の,法的な拘束力のある申し出だろうか? それとも,ぼくの交渉戦略についての情報を探り出そうとするだけの,策略だろうか? 場合によっては,ボットがこういう問題を円滑にさばいて,双方に最終的な合意案を提示してくれるかもしれない.そうでない場合には,交渉人が「対面で検討しましょうか」と言い出すかもしれない.このときには,双方とも,「本物の取り引き」をこれからやるんだと承知したうえで,条件に関する議論の応酬に限度をつける.現実世界でのやりとりのなかには,オンラインでの文章によるコミュニケーションではもはや間に合わなくなるものもでてくるだろう.

たとえば,大学入試の小論文を考えてみよう.いまのところ,小論文は重要だ.でも,ボットの作文が上手になれば,志願者たちは小論文を書く代わりに個人面接に出向かなくてはいけなくなるかもしれない.そうすると,対策のいろんな方法も発展するかもしれない.もしかすると,そうした面接を実施するのに試験官の人数が足りないかもしれない.だったら,志願者たちを集めて2日間いっしょに生活してもらったらどうだろう.その間の様子はすべて記録して,ボットに評価させてみればいいのでは? いちばん独創的なジョークを飛ばしたのが誰だったかすら,ボットが採点してくれるかもしれない.

この新しい世界では,作文技能の比重はいまよりもずっと小さくなる一方で,個人的カリスマの比重はずっと増すだろう.これは必ずしもいい変化ではない.より広範な技能や知性をはかる手段として,文章を使うのはいまよりむずかしくなるだろう.

ぼくが『ブルームバーグ』に書いたコラムの全文は,こちら

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