タイラー・コーエン「出生率の経済学の新展開」(2022年4月23日)

[Tyler Cowen, “New developments in the economics of fertility,” Marginal Revolution, April 23, 2022]

(Photo by Jonathan Borba on Unsplash)

出生率の経済学は新時代に突入した.いま挙げたような型にはまった事実は,もはや時と場所を選ばず成り立ってはいない.高所得の国々では,所得が上がっても出生率が下がったりはしなくなっている.ときに,所得が上がると出生率は上がっている場合もある.また,さまざまな国々をまたいで女性の労働参加と出生率の関係を見ると,相関はプラスになっている〔働く女性が増えると出生率が上がっている〕.本稿では,こうした新しい事実をまとめ,これに対応すべく設計された各種の新モデルについて述べる.

上記は,Matthias Doepke, Anne Hannusch, Fabian Kindermann, & Michèle Tertilt が新しく出した NBER 論文からの抜粋.上の引用にない研究結果もある.それは,所得と出生率の関係と同じように,子供の質と数のトレードオフ関係のモデルも,もはやうまく働かなくなっている,という研究結果だ〔ここで言っているのは,おそらく,子供は少なく抑えて1人当たりの教育投資を増やすか,多く産んで1人当たりの教育投資を少なくするか,というトレードオフ〕.児童保育の市場化が,おそらくはこの変化の重要な原因となっている.

イタリアとスペインの2ヶ国では,所得と出生率の関係がいまのところ逆転していない.

育児への父親の貢献率は,出生率で重要なものになってきている.サンプルがとられた国々のうち,父親が子供にもっとも高い関心を見せているのは,ノルウェーのようだ.逆に関心がもっとも低いのはロシアだ.

子供をもう一人増やすかどうかでカップルの意見が割れたとき,子供をあらたに産む確率は相対的に小さい.

2015年のデンマークでは,全出生数のうち 6パーセントは,妊娠に関連したなんらかの医療的助けを得て生まれている.

公的な育児対策も,〔出生率と〕プラスの相関がある.ただ,この論文には,なんら信頼できる因果関係の推定は見られない.

この論文には社会規範に関するセクションもある.ただ,奇妙なことに,宗教の考察が抜けている.

〔近い関係にある周りの人間たちが及ぼす〕ピア効果が出生率に働いていることを示す証拠もいくらかある.たとえば,職場がそうだ.

本文は 98ページ.ものすごい新発見ではないかもしれないけれど,全編とおして興味ぶかい.

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