1. ラヴィニア・グリーンロー『二重の悲哀』(Lavinia Greenlaw, A Double Sorrow).心に刺さる悲しい詩.チョーサーの『トロイラスとクレシダ』をゆるく下地にしている.作品の有用な書評はこちら.多くの詩とちがって,読みやすい.
2. ギレン・ダーシー・ウッド『タンボラ山:世界を変えた噴火』(Gillen D’Arcy Wood, Tambora: The Eruption that Changed the World).1815年にインドシナで起きた火山噴火は,世間で思われている以上に全世界の歴史に大きな影響を及ぼした.とても気がかりになる一冊.〔参考:ナショナル・ジオグラフィックの記事〕
3. リリアン・フェイダマン『ゲイ革命:苦闘の物語』(Lillian Faderman, The Gay Revolution: The Story of the Struggle).タイトルから抱く期待を裏切らない落ち着いた筆致の好著.ぼくがいちばん勉強になったのは1940年代から1950年代の部分.おすすめ.816ページの大著だけど,ダレない.もっと大々的にとりあげた書評がないのにびっくりした.
4. アンドリュー・ウェンダー・コーエン『密輸:アメリカの世紀のはじまり』(Andrew Wender Cohen, Contraband: Smuggling and the Birth of the American Century).19世紀の貿易政策をアメリカが実際にどう実施していたのかを取り上げた良書.すぐれた逸話と事例がいっぱいだ.
5. ピーター・フランコパン『シルクロード:新しい世界史』(Peter Frankopan, The Silk Roads: A New History of the World).イギリスではすでに出版されてる.ぼくが読んでるのもそちら.本書に対するぼくの主な異論は,サブタイトルが羊頭狗肉なところだ.シルクロードの歴史についても,東の陸路輸送がグローバル経済史にとって重要だって点も,については読みやすくてうまく説明してくれてる.そこは気に入ったけれど,これでぼくが世界の見方を大きく帰るかって言われるとそんなことないし,本書がそもそもそう試みてるとも感じない.20世紀に関する記述はおなじみのことばかりに思える.有用な書評はこれを参照.
サルマン・ラシュディの新著は30ページほど読んだ.予想よりはよかったけれど,ぜひとも先を読み続けなきゃって気にはならなかった.魔術的リアリズムの手管を使って合理主義のお話を語るのは風変わり.ハニャ・ヤナギハラの A Little Life が今年の話題作だってことになりそう.こっちは100ページほど読んでみたけど,質は高そうだけど,主題がぼくにはピンとこない(ニューヨークシティ,児童虐待).それに,概念的な実験作になるには長すぎる.児童虐待を扱った最近の小説といえば,ラファエル・イグレシアスの新作もお忘れなく.