タイラー・コーエン「起業家ジェイムズ・ジョイス」(2022年6月11日)

[Tyler Cowen, “James Joyce, entrepreneur,” Marginal Revolution, June 11, 2022]

逃す手はない絶好のタイミングで,ジョイスは投資家たちの心をつかんで事業開始の糸口をつかんだ.当時,人口35万人の都市ダブリンには,映画館がなかった.さらに,同じアイルランドのコークもベルファストも同様だった.(博打打ちジョイスは,ダブリンの人口を50万人と誇張して投資家たちに語った.) 都市住人が100万人近くいたアイルランドは,先を見通した業者にとって熟して収穫を待っている手つかずの果樹園だった.貯蓄することよりもお金を使う方に才のあったジョイスは,生涯をとおしてずっと金銭問題を抱えていた.そんな彼が交わした契約を読むと,抜け目ないやり手事業者にして真のセールスマンの顔が覗き見える.ジョイスはパートナーたちを説き伏せて,株式と利益の10パーセントが自分のものとなるようにした.当人は1ペニーたりとも出資していなかったにもかかわらずだ.また,ジョイスには経費と賃金も支払われた.握手が交わされ,取り引きが成立し,ジョイスは去った.若き起業家としての芸術家の肖像―― (…)『ユリシーズ』を書いた頭脳は,アイルランド初の映画館を開業した頭脳でもあった.

『フィナンシャル・タイムズ』記事の全文はこちら.ところで,今年は『ユリシーズ』刊行100周年の年にあたることだし,未読ならぜひ読んでみるといい.まぎれもなく,一群の最良の本たちの一冊に数えられる小説だ.実は,それほど難解でもない.必要なら,わからないところは頭を悩ませずに飛ばして読んでしまってもいい.

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