タイラー・コーエン 「『Forged Through Fire』 ~戦火の産物としての民主主義~」(2017年1月22日)/「国家建設、ナショナリズム、戦争」(2017年5月28日)

●Tyler Cowen, “Forged Through Fire”(Marginal Revolution, January 22, 2017)


ジョン・フェレジョン(John Ferejohn)&フランシス・ローゼンブルース(Frances McCall Rosenbluth)の二人の手になる新刊が登場だ。副題は、「戦争、平和、民主主義をめぐる駆け引き」(“War, Peace, and the Democratic Bargain”)。極めて重要な一冊だ。本書の中心的な主張は以下の通り。

現代の民主主義は、大量の人員と多額の資金を要する戦争によって育まれたのだとすれば [1] … Continue reading、ここいらでちょっと立ち止まって、次の疑問をよくよく吟味してみる必要がありそうだ。その存立を支えたエンジンが消え去ったとしたら、民主主義の行く末には一体どんな展開が待ち受けているだろうか? 現代の民主主義を育む上で戦争が果たした役割を理解すれば、民主主義の弁慶の泣き所を見定める手がかりが得られることになる。国家を外敵から守る上で大衆(一般の国民)が果たせる役割が小さくなっていくとしたら、大衆とエリート層との間での(戦争への協力と引き換えに、大衆にも政治参加の機会を保障するという妥協によって、これまでのところはどうにかこうにか保たれてきた)階級の枠を超えた協力関係はどうなってしまうだろうか?

・・・(中略)・・・

「ヨーロッパで国家が形成された14~15世紀に戦火とは無縁でいられた地域の今後は果たしていかに?」というのが二番目の問いだ。絶え間なく続く苛烈な戦争のおかげで、普通選挙と所有権の保護を特徴とする民主主義が育まれるに至ったヨーロッパのゴルディロックス地帯 [2] … Continue reading――それなりに高い行政能力を備えた君主国がひしめき合い、決して楽とは言えないが、国民が総力を挙げて戦えばどうにかなる戦争が繰り広げられた地帯――。それとは対照的に、・・・(略)・・・

・・・(中略)・・・

悪い報せとは何かというと、今や戦争は、民主主義を育むエンジンとしての機能を失ってしまったということだ。

Amazonでの注文はこちら、ローザ・ブルックス(Rosa Brooks)による(ウォール・ストリート・ジャーナル紙上での)書評はこちら

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●Tyler Cowen, “Nation-building, nationalism, and wars”(Marginal Revolution, May 28, 2017)


「国家建設、ナショナリズム、戦争」と題された論文(NBERワーキングペーパー)をアルベルト・アレシナ(Alberto Alesina)&ブリオニー・ライヒ(Bryony Reich)&アレッサンドロ・リボーニ(Alessandro Riboni)の三人が物している。論文のアブストラクト(要旨)は以下の通り。

近世に入って軍隊の規模が巨大化するのに伴って、国家間での戦争形態に変化の兆しが現れ出した。18世紀後半に入ると、どの国も、傭兵を雇う代わりに、徴兵制(を通じて集められた国民軍)に頼るようになったのである。大衆から戦争への協力を取り付けるために(そして、徴発された兵士に戦場での苦しみを耐え忍んでもらうために)、国家の支配層が打った手というのが、公共財の供給であり、レント徴収の抑制 [3] … Continue readingであり、大衆の国への帰属意識を高めることを目的とした一連の措置であった。本論文では、国家建設に向けて採り得る措置には何があるかを探るとともに、軍事面での技術革新がそれぞれの措置の効果に及ぼす影響を検証する。

本論文は、最近出版されたばかりのフェレジョン&ローゼンブルースの著書と関わりのある内容となっている。

References

References
1 訳注;徴兵制を受け入れたり、税金を納めたりして戦争に協力するのと引き換えに、大衆にも選挙権をはじめとした諸権利が認められるに至った、という意味。
2 訳注;そこら一帯が血の海となっている(熱過ぎる)わけでもなければ、平和そのもので波風一つ立たない(冷た過ぎる)わけでもない、ほどほどに熱い(武力衝突続きではあるが、一定の秩序は保たれていてどうにか生きてはいける)地帯、という意味が込められているものと思われる。
3 訳注;大衆が納めた税金の中から自分の懐に入れる額を抑える(公共財の供給に回す財源を捻出するために、税収の一部を掠め取って私腹を肥やすのを控える)。 
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