●Tyler Cowen, “Is the lack of war hurting economic growth?”(Marginal Revolution, June 13, 2014)
ニューヨーク・タイムズ紙が運営するニュース解説サイト「The Upshot」に、「大規模な戦争が稀になるのと引き換えに、経済成長が阻害されてる?」 (“The Lack of Major Wars May Be Hurting Economic Growth”)とのタイトルで論説を寄稿したばかりだ。以下に、その一部を引用しておこう。
一見すると直感に反するように思われるかもしれないが、世界全体が平和になればなるほど、経済成長を追い求めねばならない緊急性もそれだけ低下して、経済成長もそこそこの水準にとどまる可能性がある。あらかじめ断わっておくと、戦争それ自体は、経済にとってプラスには働かないことは言うまでもない。というのも、戦闘行為は、人命の喪失だったり破壊だったりを伴うからだ。なお、戦争に向けて準備が進められる過程では、政府支出(軍事支出)が増加し、それに伴って雇用も増えるといったケインジアン流の議論を展開したいわけでもない。私が言わんとしていることは、戦争の「可能性」(あるいは、脅威)に晒されていると、政府の注目が「経済成長を促すためには、どうしたらよいか」という点に注がれるようになるということなのだ [1] … Continue reading。政府の意識がそのような方向に向く結果として、例えば、科学技術の振興を目的として研究開発投資が拡充されたり、(規制緩和や民営化といった)経済の自由化が推進されたりして、政策が是正されるかもしれない。そうなれば、ゆくゆくは長期的な経済成長にプラスに働く可能性があるのだ。
上のような意味で戦争にはプラスの側面もあるといった議論を聞かされると不快かもしれないが、アメリカのこれまでの歴史を振り返ると、そうバッサリと切り捨てるわけにもいかない。原子力、コンピューター、航空機といった極めて重要なイノベーションは、第二次世界大戦や冷戦で勝利を収めたいと切実に願ったアメリカ政府の後押しのおかげで花開いた面がある。そもそもインターネットは、核攻撃に耐え得るようなネットワークの構築を目指して開発されたのだし [2] 訳注;この点については、誤った俗説だという意見もあるようだ。、シリコンバレーは、ソーシャルメディアの開発に意気込む新進気鋭の起業家たちが群れをなす場という現在のイメージとは異なり、政府との軍事契約にその起源を持っている。旧ソ連が人工衛星「スプートニク」の打ち上げに成功したことがきっかけで、アメリカ国内で科学技術への関心が燃え上がり、そのおかげでその後に経済成長が促される結果にもなったのである。
論説では、イアン・モリス(Ian Morris) [3] ●Ian Morris(著)『War!: What Is It Good For?: Conflict and the Progress of Civilization from Primates to Robots』やクワシ・クワーテン(Kwasi Kwarteng) [4] ●Kwasi Kwarteng(著)『War and Gold: A 500-Year History of Empires, Adventures, and Debt』の新著、マーク・コヤマ(Mark Koyama) [5] ●Chiu Yu Ko, Mark Koyama and Tuan-Hwee Sng, “Unified China and Divided Europe”やアザー・ガット(Azar Gat) [6] ●Azar Gat(著)『War in Human Civilization』(邦訳 『文明と戦争』)の研究の概要についても触れている。論説ではスペースに余裕がなくて触れられなかったのだが、戦争の「可能性」は常に経済成長にプラスに働くわけではない。戦争が起きる可能性があまりにも高すぎたり、所有権があまりにも不安定な状態に置かれるようだと、経済成長が促されることはないだろう [7]訳注;ちなみに、コーエンは20年以上前にこのテーマに関連する論文を書いている。以下はその拙訳。 … Continue reading。
References
↑1 | 訳注;軍事面で優位に立つためには、経済的な資源が豊富である必要がある。そのためには、経済が急速に成長するに越したことはない・・・といった意味。言い換えると、「富国強兵」的な発想から政府が経済成長を優先するようになる、ということ。 |
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↑2 | 訳注;この点については、誤った俗説だという意見もあるようだ。 |
↑3 | ●Ian Morris(著)『War!: What Is It Good For?: Conflict and the Progress of Civilization from Primates to Robots』 |
↑4 | ●Kwasi Kwarteng(著)『War and Gold: A 500-Year History of Empires, Adventures, and Debt』 |
↑5 | ●Chiu Yu Ko, Mark Koyama and Tuan-Hwee Sng, “Unified China and Divided Europe” |
↑6 | ●Azar Gat(著)『War in Human Civilization』(邦訳 『文明と戦争』) |
↑7 | 訳注;ちなみに、コーエンは20年以上前にこのテーマに関連する論文を書いている。以下はその拙訳。 ●コーエン著「対立の可能性を秘めた世界秩序の経済効果」 |