●Tyler Cowen, “Who are the most influential economists?”(Marginal Revolution, December 31, 2014)
エコノミスト誌が掲げる「影響力のある経済学者ランキング」に対して、あちこちから怒りの声が上がっている。その輪に加わるつもりはないが、一点だけ指摘しておきたいことがある。「誰某に意見を求めよ」、「一番信頼できるデータは、これだ」、「推定を行う際には、一般化モーメント法(Generalized Method of Moments)を使うべきだ」云々とありがたい忠告が方々から寄せられているようだが、「タイラー・コーエンに尋ねよ」という単純極まりないアルゴリズムが最も優れた答えを弾き出す場合が少なくないともっぱらの噂だ。というわけで、私が考える「ここ最近において最も影響力のある経済学者」をリストアップすると、以下のようになるだろう(順不同)。
1. トマ・ピケティ(Thomas Piketty)
2. ポール・クルーグマン(Paul Krugman)
3. ジョセフ・スティグリッツ(Joseph Stiglitz)
4. ジェフリー・サックス(Jeffrey Sachs)
5. アマルティア・セン(Amartya Sen)
こんなところだろう。イエレン(FRB議長)やドラギ(ECB総裁)も、セントラルバンカーとしてかなりの影響力を持っている――ポール・ボルカー(元FRB議長)がかつてそうだったように――のは確かだが、彼らを含めるとなると、(「経済学者」という括りではない)別カテゴリーの――おそらくは、より重要度の高い――ランキングを作成する必要があるだろう。
コメントをいくつか付け加えておこう。
a. 今年(2014年)一年だけに限っていうと、ピケティのインパクトは絶大極まりないものだったと言えよう。しかしながら、もっと長いタイムスパンでみると、(今後も彼の研究に注目が寄せられ続けたとしても)ピケティのインパクトはもう少し控え目なものになることだろう。
b. アメリカ国内で一番影響力のある経済学者は、間違いなくクルーグマンということになろう。
c. スティグリッツ、サックス、センなんかは、アメリカ国内よりもアメリカ国外においてのほうが影響力があると言えるだろう。
d. 経済学者やインテリ層の間で強い影響力を誇っている人物として、ローレンス・サマーズ(Lawrence Summers)の名前を挙げることができるが、彼を(上記のリストに)6人目として加えてもいいかもしれない。他には、ダニ・ロドリック(Dani Rodrik)も追加してもいいかもしれない――「スクーク」(skuk)に詳しいイスラム教の主導的な理論家として位置付けるという手もある――。しかしながら、サマーズは、世間一般の人々に対してはそこまで影響力がない。そういう意味では、(世間一般の人々に対して強い影響力を持つ)スティグリッツと対極に位置していると言えるだろう。
e. 上記のリストには、右派ないしは中道右派の経済学者は一人もいない。この点については、エコン・ジャーナル・ウォッチが昨年開催したシンポジウム(「今の時代に『第二のミルトン・フリードマン』が出てきそうにないのはなぜか?」)も参照していただきたいと思う。上記のリストで掲げられている5人の中で最も保守的なのは(政治的なイデオロギーの面で一番右に位置するのは)、おそらくクルーグマンということになるだろう。
f. 行動経済学は、分野としてはかなり強い影響力を持っているが、「この分野で一番影響力があるのは、この人」と言えるような人物は見当たらない。あえて候補を挙げるとすると、(厳密には経済学者とは言えないが)キャス・サンスティーン(Cass Sunstein)、リチャード・セイラー(Richard Thaler)あたりだろうか。その後に、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)が続くといったところか。