タイラー・コーエン 「私の哲学遍歴」(2006年8月17日)

●Tyler Cowen, “Philosophical journeys”(Marginal Revolution, August 17, 2006)


私の哲学遍歴のはじまりは、10代の頃に遡る。「手始めにプラトンの対話篇――もちろん『パルメニデス』も含めてだ――を残らず読破してから、現代哲学の主要作品を渉猟しよう」。そのように目標を定めたのだ(『パルメニデス』はお気に入りの作品となったが、『法律』は最後まで読み通せなかった)。デカルトに、ライプニッツ、スピノザ、ホッブズ、ロック、バークリー、ヒューム、カントといった面々との「一体化」を果たすために頼りにしたのが、ジョン・ホスパーズ(John Hospers)の年代物のテキスト [1] 訳注;おそらく、こちらの本だ。アリストテレスの作品もいくつか読んだが、私には退屈に思えたものだ。続いて手にしたのは、カール・ポパーに、ブランド・ブランシャード(の作品多数)。「合理主義の(古めかしい)擁護者であり、実証主義の批判者」という共通点を持つ二人だ。無神論については、ジョージ・スミスアントニー・フルーの作品を貪るように読んだ。アイン・ランドにも影響を受けたが、「哲学者」としてのアイン・ランドにというわけでは決してない。彼女流の道徳的な見地からする資本主義擁護論に影響を受けたのだ。

それからずっと後になって読んだのが、ノージックに、ロールズに、パーフィット。中でも私がダントツに影響を受けたのが、パーフィットだ。ノージックもロールズも切れ者ではあるが、意外性は感じられなかった。

大学院生時代には、クワインを熱心に読み耽った。私としては、クワイン本人の作品をどれか一つ読むよりも、ジョージ・ロマノス(George Romanos)のクワイン本 [2] 訳注;おそらく、こちらの本を読んだ方が得るものは大きいように感じられたものだ。とは言え、クワインに触れるなら、やはりまずは『Word and Object』(邦訳『ことばと対象』)と、 “Two Dogmas of Empiricism”(「経験主義の二つのドグマ」)から挑戦すべきだろう。クワインは、今でも私に大きな影響を及ぼし続けている一人だ。ブログというメディアに対する私なりの考えにも、「どういう前提が揃えば、無理のない(あり得る/確からしい)結論が導かれるだろうか?」と自問自答する時にも、クワインの影響が及んでいる。(大学院生時代には)ヒラリー・パトナムが担当する言語哲学の講義にも出席したが、それがきっかけでクリプキなんかにも興味を持った。とは言え、私の好みに合うのは、ずっと変わらずクワインのままだ。大学院生時代には、ウィリアム・ジェームズにも心を寄せたし、ローティ(Richard Rorty)経由で大陸哲学にも見るべきところはまだあると気付かされた(ただし、大陸哲学をあえて誤読(曲解)するというのが、私の流儀だ)。ついでに、ドイツ初期ロマン派の面々(および、彼らの反哲学的な姿勢)とも(時にジョン・スチュアート・ミルを介して)戯れたりもしたものだ。

その後、Liberty Fundと関わりを持ったことがきっかけとなって、「シュトラウス」(レオ・シュトラウス)的な解釈の余地があるテクスト――モンテスキュー、トクヴィル、モーシェ・ベン=マイモーンなどなど――を「深読み」(「裏読み」)するのに興味を抱くことになった。とは言え、これまでにシュトラウス主義者の仲間入りをしたことがあるかと問われると、その答えは断固として「ノー」だ。ハイデガーを理解しようと何度か試みはしたものの、結局のところは一度もうまくいかなかった。

そして、話は今現在に至るが、哲学分野の学術誌で購読しているのは、Ethics誌Philosophy&Public Affairs誌だ。「形而上学」だとか「心身問題」だとかといった類の話題に関しては、学術誌よりも本(一般向けと研究書のちょうど中間くらいのレベルの本)で追っかけたい派だ。「心身問題」だとかに関する学術レベルの議論は、あまりに高尚すぎて、私には大して興味が持てないのだ。

私の哲学遍歴を駆け足で振り返ると、こんな感じだ。私の辿ってきた道のりは、他の人にもぴったりな最上の道のりなんて言い張るつもりは毛頭ないので、その点誤解なきよう。

結論:その時々の興味に合致する哲学を選び出して、それに傾倒するというのが私なりのやり方のようだ。その他の残りは、どうでもいい些事に過ぎない。哲学書というのは、実のところ、自己啓発本(あるいは、お気に入りのレコード)みたいなものなのだ。

本ブログの読者のために(「哲学を学ぶなら、この道のりを辿り給え」という)何かいいお薦めはないだろうか?

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1 訳注;おそらく、こちらの本
2 訳注;おそらく、こちらの本
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