●Tyler Cowen, “Trying to make people punctual”(Marginal Revolution, November 6, 2003)
手持ち無沙汰でブラブラと過ごす何とも無駄な時間。国中でそんな時間の浪費が何年にもわたって続く中、エクアドルの経済界と市民団体が遂に立ち上がった。約束をすっぽかしたり待ち合わせに遅刻したりを繰り返す面々に約束と時間を厳守させるべく国を挙げての一大キャンペーンが展開中なのだ。
『症状:時間通りに集まらない、他人の時間を奪う、何でもかんでもギリギリまで先延ばしする、他人への思いやりに欠ける』。ここのところ、エクアドル国内のあちこちでそんな文字が躍るポスターをよく目にするものだ。エクアドル国民の間に蔓延する遅刻癖は病気の一種だ。まるでそう言いたげだ。ポスターにはさらに次のような文字が続く。
『治療法:責任感、他人への配慮、規律。この3つの言葉を毎朝目が覚めるたびに自分に言い聞かせること。 勧告:計画を立てよ、スケジュールを整理せよ、時計を修理せよ』
エクアドルで遅刻の撲滅に向けたキャンペーンがはじめられたようだ。民間部門が主導して資金も出しているとのこと。ところで、一番の(遅刻の)常習犯は誰なのだろうか?
エクアドル国民の間でも意見が一致しているが、遅刻の常習犯の中でも一番目に余るのは公務員と軍の将校だ。そして厄介なことに大統領(ルシオ・グティエレス)もその双方の文化に染まっている一人(遅刻の常習犯)だ。
遅刻撲滅キャンペーンには遅刻の解決に向けたインセンティブ(アメとムチ)も組み込まれているようだ。例えば、会議が行われる部屋に時間通りに現れると気持ちのいい文字が書かれた貼り紙に出迎えられることになる(その部屋のドアには「お入りください:あなたは時間をお守りになられました」との文字が書かれた貼り紙がしてある)が、定刻を過ぎるとその貼り紙は裏返されることになる。全面赤色のその裏面には次のように書かれている。「入るべからず:会議は定刻通りに始まっています」。
エクアドル人は時間を守らないことで有名だ。ディナーパーティーの開始時刻を午後8時に設定すると、午後10時30分頃になってやっと人が集まり出すらしい。
アメリカではエクアドルほどには遅刻は厄介な問題ではないものの、アメリカの経済界でも遅刻の撲滅に向けてあれこれと試みられているようだ。遅刻の常連はCEO(最高経営責任者)。10回のうち6回は社内会議に遅刻するらしい。CEOの職権乱用(遅刻)に抗する試みの一例を紹介しておこう。
会議に遅れてやってきた社員に罰金を科す(1分遅刻するごとに1ドルから5ドルの罰金を科す)というのが人気の対策のようだ。その罰金は慈善団体に募金するもよし、会社の宴会費に回すもよし。ISD社のCEOを務めるマーク・ニールセンによると、ISD社でも会議に遅刻した社員に罰金を科す制度を導入したという。しばらくは効果があったものの、数ヶ月もすると罰金の徴収もうやむやになってしまった。ニールセンはそう語る。
遅刻の撲滅に向けたあれやこれやの試みもエゴの強いCEOが遅刻の常連だとうまくはいかないだろうと語るのは(『The Business Meetings Sourcebook』の著者である)イーライ・ミナ氏。CEOがまだ到着していなくても定刻を過ぎ次第会議室のドアの鍵を閉める。あるいは、遅れてやってきたCEOに対して「午後2時開始予定の会議は既に午後1時45分から始まっています」と伝える。そんなことをしたら「出世の妨げ」になりかねない。ミナ氏はそう語る。
ヨーロッパを対象にした研究の一つによると、ヨーロッパの中で特に時間にルーズなのはフランス人らしい。その一方で、日本人は時間に極めて厳しい国民として知られている。