●Diane Coyle, “Preparation for a public policy degree”(The Enlightened Economist, March 5, 2015)
昨日のことだが、次のようなメールを受け取った。「私は××大学の学部生です。・・・(略)・・・公共政策について学ぶために、大学院の修士課程に進む予定なのですが、その準備として、ミクロ経済学およびマクロ経済学のお薦めの入門教科書をお教えいただけないでしょうか?」
学部で経済学を学んだ経験があるかどうかで答えは変わってくるのだが、件のメールではそこのあたりについて詳らかにされていない。そこでとりあえず、経済学についてはまったくの初心者だと想定した上でアドバイスすると、まずは一般向けの啓蒙書を手に取ってみることをお薦めする。個人的な好みでいうと、ミクロ経済学については、ティム・ハーフォードの『The Undercover Economist』(邦訳『まっとうな経済学』)、マクロ経済学については、同じくハーフォードの『The Undercover Economist Strikes Back』。それが済んだらその次は、COREプロジェクト監修の(無料の)オンライン教科書である『The Economy』に進めばいいだろう。
『The Undercover Economist Strikes Back: How to Run or Ruin an Economy』
その次の段階だが、学部レベルのマクロ経済学の教科書だと、『Macroeconomics: Institutions, Instability and the Financial System』(by ウェンディ・カーリン&デヴィッド・ソスキス)がお薦め。つい最近になって出版されたばかりの一冊だが、今般の金融危機がマクロ経済学に突き付けた課題についてもカバーされている。(学部レベルの)ミクロ経済学の教科書については、マクロ経済学の場合ほどパッとは選べないのだが、個人的なお気に入りは、ハル・ヴァリアンの『Intermediate Microeconomics』(邦訳『入門ミクロ経済学 [原著第9版]』)。新版(第9版)も出たばかりだ。対抗馬として、最近出たばかりのピーター・ドーマン(Peter Dorman)の手になる二冊(ミクロ&マクロ)の教科書(『Microeconomics』/『Macroeconomics』)を挙げておこう。
『Macroeconomics: Institutions, Instability, and the Financial System』
『Intermediate Microeconomics: A Modern Approach』
「これは激しくお薦め」という一冊がある。アングリスト(Joshua Angrist)&ピシュケ(Jorn-steffen Pischke)のコンビの手になる『Mastering Metrics』がそれだ。説明も非常に明快。テクニカルな細かい話は極力差し控えられているし、不必要だと感じたら読み飛ばすことも可能だ。計量経済学をはじめとした実証分析にまつわる知識は、公共政策の研究を進める上で重大な土台となる。ちなみに、本書では、ミクロ計量の話題に焦点が合わせられており、時系列分析だとかといったマクロ計量の方面はまったくカバーされていないので、その点は注意。
『Mastering ‘Metrics: The Path from Cause to Effect』
最後に私事になるが、学部で「公共政策の経済学」をテーマとする講義を受け持っている。講義で使うのに何かいい教科書はないかとずっと探しているのだが、こちらの思惑にばっちりはまるような候補は未だ見つけられないでいる。ルグラン&スミス&プロパーの『The Economics of Social Problems』の中には、講義で使うのにかなり重宝する章もいくつかあるが、社会政策に重点が置かれ過ぎているきらいがある。ジョセフ・スティグリッツの『Economics of the Public Sector』(邦訳『スティグリッツ 公共経済学』)だとか、チャールズ・ウィーランの『Introduction to Public Policy』だとかも、非常に役に立つ。スティグリッツ本にしても、ウィーラン本にしても、私の意に沿わないところがあるが、公共政策について学ぶ上で全貌を俯瞰するには格好の書とは言えるだろう。
私なりのお薦めはこんなところだ。何か他にお薦めがあれば、コメント欄でお知らせいただきたいと思う。