Nick Rowe”How long is the short run? The macroeconomics of “doing nothing” revisited [1] … Continue reading ” (Worthwhile Canadian Initiative, May 21, 2014)
私たちが通常、入門マクロ経済学を教える際に与える答えは次のようなものだ。「それは価格の粘着性による。もし価格がとても柔軟であれば短くなるし、価格がとても粘着的であれば長くなるだろう。」
もっと優れた答えもある。「それは金融政策による。もし金融政策がとても良いのであれば短くなるし、金融政策がとても悪いのであれば永久に続くことだろう。」
この点についてサイモン・レンルイスとは考えが一致していると思う。そしてこの点は単に入門マクロ経済学の学生だけに重要というわけではないということについてもサイモンに同意する。
多くの入門マクロ経済学の教科書は、短期・長期の区別をAD-ASの枠組みを使って解説している。価格水準(P)を垂直軸、実質産出(Y)を水平軸に置いてみよう。そして右下がりのAD曲線、垂直なLRAS曲線、右上がり(あるいは水平)のSRAS曲線を描く。そうしたら、この3つの曲線全てが同じ点で交差しているという長期均衡の状態からスタートしよう。この経済は下図の点Aにある。
ここでショックによってAD曲線が左にシフトしたとしよう。短期においては経済は点Bへと動き、不況が発生する。でもそのうち価格(賃金も含む)が調整し、SRAS曲線はゆっくりと右/下へとシフトし、やがて経済は(新たな)長期均衡であるC点へと戻る。そして価格が調整するのにかかる時間が、経済が点Cへと至るのにどのくらいかかるのかを決めるんだ。
この点について、中央銀行が金融政策を緩和してAD曲線を元の赤い曲線まで戻すことによってショックに対処し、経済が自ずからC点で長期均衡に至るよりも早くA点で長期均衡に立ち戻るようにするほうがいいのではないかという考えもありうる。その場合には金融政策のタイムラグについて検討したり、中央銀行の対処速度と価格調整の速度を比較することになるだろう。そして中央銀行がショックを識別し適切な対応をすることの難しさを議論し、ルールVS裁量について議論し、等々。
これらの点全ては、いい感じな期末試験の論述問題になれる。
でもこれは中央銀行の裁量的行動VS経済の「自然」な自律均衡的性質への依存という誤った二分論を設定してしまう。
ショックへの対処について中央銀行が「何もしなかった」としてみよう。経済が点Bから点Cへと辿り着き、長期均衡へと戻るにはどれだけかかるだろうか。それは「何もしなかった」というのが何を意味するかによる。そしてそれはほとんどあらゆることを意味することもあるんだ。
例として、「何もしなかった」が「名目金利を一定に保つ」を意味するとしてみよう。第一の見積もりとして、この仮定の下では垂直のAD曲線を得ることになる。(もっと現実的に、債務デフレ効果、あるいは期待デフレ率を引き起こす価格の下落と名目金利の上昇を加えるならば、AD曲線は間違った方向に傾くこととなる。 [2]訳注;いわゆる右上がりのAD曲線。当サイトの訳者であるhicksian氏のブログのこのあたりも参照。 )垂直のAD曲線においては、価格水準の下落は経済がLRAS上の点へと戻ることについて何の役にも立たない。(間違った方向に傾いたAD曲線においては、価格水準の下落はことをただ悪化させるだけになる。)
ADに対するショックに際して名目金利を一定に保つことは、馬鹿げた金融政策の単なる一例だ。十分に馬鹿げた金融政策の下では、価格がどれだけ速く調整するかに関わらず、短期は永遠に(あるいは金融システムが崩壊するまで)続くことになる。
金融政策に触れることなしに、短期の長さは価格の粘着性の程度によるのだと言うことは全く意味のないことなんだ。
でも短期の長さは金融政策の質によることを認めた場合、それが価格の粘着性の程度にもよるのだと言うことで何か付け加わることは本当のところあるのだろうか。重要となるのはAD曲線の傾きだけじゃない。所与のショックがAD曲線をシフトさせるかどうか(そしてそれがどの方向にどれだけAD曲線をシフトさせるか)さえ、どのような金融政策がその後に行われるかを特定することなしには言うことはできないのだ。(例えば、単純なマンデル=フレミング・モデルにおける世界金利の上昇は、中央銀行が為替レートを固定する場合にはAD曲線の左方シフトを、中央銀行がマネーサプライを固定する場合にはAD曲線の右方シフトを引き起こす。)
短期の長さは中央銀行の金融政策目標と、その目標からの逸脱を招きうるショックを中央銀行がどれだけ素早く認識し対処するかによると言うほうがより有益なのだと思う。
この主要点について僕はサイモンと考えを同じくしていると思う。
中央銀行が不適切な目標を掲げているのであれば、価格の柔軟性の程度もまた重要になるかもしれない(でもいくつかの目標にとっては、価格が柔軟であるほど事が悪化する可能性がある)。(そしてたとえ中央銀行が優れたマクロ経済目標を掲げたとしても、相対価格の柔軟性は実物ショックに際しては相対的な資源配分にとって重要となるだろう。)
(この点を解説するにあたってのAD-AS枠組みの有用性について、サイモンは僕に同意しないだろうと思う。僕はAD-AS枠組みが有用だと思っているのだけれど、それは間違った方向に傾いたAD曲線について話すことができるからだ。そして垂直軸を価格水準からインフレ率に置き換える場合にもこれは有用だ。というのも中央銀行が名目金利を固定する場合にはAD曲線は間違った方向に傾き、期待インフレ率は実際のインフレ率と等しくなるからだ。 [3]訳注;垂直軸にインフレ率を取り右上がりのAD曲線を描いたグラフを題材にしたものについては、当サイトのこのあたりも参照。 )