●Noah Smith, “Risk premia or behavioral craziness?”(Noahpinion, December 19, 2013)
ジョン・コクランは、ロバート・シラーのノーベル賞受賞講演にかなり批判的だ(和訳)。
コクランは、シラーが「バブル」をもっと厳密に定義してくれたらと思ってる(私もこの上なく賛成)。また、シラーがファイナンスを量的でなく文学的にしようとしてるとも思っている(私はこれにはちょっと懐疑的。というのも、シラーはもともと計量経済学者であって、そんな文学的な奴じゃないから)。
だけど、最も興味深い批判は、シラーの彼自身の研究の解釈に対する批判だ。シラーは、株価が長期的には平均に回帰することを示した。そしてこれを、市場が非効率かつ不合理であるからだと解釈した。言い換えれば、平均への回帰を、私が「行動的狂気」 [1]訳注: 「behavioral craziness」の訳。ノア・スミスの造語。と呼ぶもののせいにしたのだ。だけど、ユージン・ファーマなどは、長期的予測可能性はリスク・プレミアムの予測可能な緩慢な変動によるものと解釈している。
どっちが正しいんだろうか? コクランが鋭く指摘しているように、どちらが正しいかは、市場だけを見ていてもわからない。それ以外の裏づけとなる証拠が必要だ。もし行動的狂気のせいなら、その狂気の証拠は、どこか他所の場所でも観察できるはずだ。もし予測可能な変動をするリスク・プレミアムのせいなら、そのリスク・プレミアムは、なんらかの独立したデータソースを使って測定できるはずだ。ただもっともらしさに訴えて、バンザイして「カンベンしてよ」などと言っても、問題の解決にはならない。
個人的には行動的狂気を疑っている。というのも、実験的な資産市場が、現実世界の「バブル」の話と見紛うほどよく似た、極めて予測性が高く有意な狂気を示すという事実があるからだ。ただ、コンピュータのラボで学部生6人がする数十ドルの取引が、アメリカの株式市場の代わりとして完全だとは言いがたいので、この実験の証拠は、決定的な証拠ではなくあくまで傍証と考えるべきだろう。
リスク・プレミアムに予測可能な緩慢な変動が存在しうる理由を説明しようとしたモデルもいくつかある。私が見たモデルとしては、例によって消費習慣形成やクレプス・ポルテウス型選好(知らなくても聞かないでね!)を取り入れたDSGE型のモデルがある。このような最新のモデルで謎は解けました! と断言する人もいる。コクランは習慣形成モデルにそれほど確信がないようで、このような意識は、私が話した多くのファイナンスの教授にも共有されていた。(また、私が見たこの種のモデルは、集約的不確実性の源泉としてRBCスタイルの生産性ショックを使う傾向があって、反射的に眉に唾をつけたくなってしまう。でも、これは私だけか。)
現実世界における行動的狂気の直接的な証拠に関しても、目ぼしいものはなかったが、それは多分この間までのこと。ロビン・グリーンウッドとアンドレ・シュライファーによるこの論文を見て欲しい。二人は、株式のリターンに対する期待を尋ねた投資家アンケートに基づく、6つの異なるデータセットを比較対照した。6つのデータ系列は強く相関していた。つまり、市場で一般的ななんらかの現象を実際に捉えていたということだ。その中で表明された期待はすべて「外挿的」であるように見える。つまり、直近のリターンがよければ、以後もずっとよいと考えるということだ。でも、この表明された期待はだいたい間違っていた。みんながリターンは上昇すると思ったときには、リターンはすぐ下落する傾向があった。しかも、この下落は単純な資産評価モデルで予測できた。言い換えれば、この表明された期待は、合理的期待ではなかったのだ。
したがって、この表明された期待が実際に投資家の信念を表現するものであれば、行動的狂気の直接的な証拠が得られたことになる。でもコクランは、これらの調査に回答している人たちは、自分の本当の信念ではなく、「リスク中立確率」を語っているのだ、と指摘している。言い換えれば、彼らは自分の信念に関する表明にリスク回避を忍び込ませている、とコクランは考えている。それがもし正しければ、このような調査は行動的狂気の有力な証拠にはならない。
だから、この問題はまだ決着していない。でも進歩は続いている。私見では、手に入る範囲の証拠は「行動的狂気」による説明を示唆していると思うが、決定的な証拠ではない。重要なことは、これは「永遠の謎」といったたぐいの議論ではない、ということだ。この議論は、より有力なデータが利用できるようになれば、解決できるし、解決されるだろう。科学は進歩するのだ。
References
↑1 | 訳注: 「behavioral craziness」の訳。ノア・スミスの造語。 |
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