May 05, 2020
by Peter Turchin
北欧の2国、スウェーデンとデンマークは、同じような言語を話し、文化と歴史の多くを共有している。しかし、両国はCOVID-19パンデミックへの対処において非常に異なるアプローチを採用した。デンマークは、学校やレストラン、他に美容院のような商業施設を閉鎖したヨーロッパでは最初の国の一つだ。対照的に、スウェーデンは、商業施設は営業を続けることを許可し、路上での移動を規制せず継続させている。従って、この2国は、コロナウィルスを制御するにあたって、ロックダウンの有効性を研究する自然実験を我々に提供してくれている。ロックダウンは社会・経済の両面で多大な混乱をもたらすので、〔ロックダウンの有効性は〕非常に重要な論点になっている。
現状、スウェーデンは芳しくないように見える。人口10万人あたりのコロナウィルスによる死亡率はデンマークの約3倍だ。ここに良くできたエビデンスの要約(といっても1周間前のもの)がある。スウェーデン政府は自国のアプローチは上手く行っていると言っている。数字は、〔スウェーデン政府の言及とは〕異なった有様を物語っている。
もちろん、スウェーデンとデンマークは、強い類似点がある一方で、いくつかの点では異なっており、自然実験における問題となっている。例えば、デンマークの人口密度は、スウェーデンより非常に過密だ。ただそうであるなら、デンマークの伝染病の制御はスウェーデンより困難になっているはずであり、これを考慮すれば、スウェーデンはロックダウンを行っていないことでダメージを負っている、という結論が強化されるだけである。デンマークと同じように閉鎖を行ったノルウェーやフィンランドは、人口密度はスウェーデンに匹敵しているにも関わらず、死亡率はデンマークより低く、スウェーデンとの対比より際立たせている。
ただ、死亡率の比較は有用ではあるが、最も重要な論点「スウェーデンとデンマークは、伝染病の拡散率の低下をそれぞれ異なったやり方でどのように達成したのだろう?」を明らかにはしない。結局、最近判明したことの一つは、10万人当たりの死亡率は国によって劇的に異なり、予想の範疇外にあるので、その理由は分からないということだ。なので、病気の伝染率と、その伝染の結果、伝染病の指数関数的な増加率を直接比較することが妥当なやり方となっている。
一月前、ウィーンのCSHは研究においてCOVID-19を優先することになったが、その一環として、伝染の軌跡を分析するため、モデルに基づいたアプローチを私は開発することになった(『公衆衛生政策はCOVID-19を止めるのにどのくらい効果的か』を参照)。なので、スウェーデンとデンマークの対比についてモデルは何を示しているのかを見てみよう。
まずはデンマークを見てみよう。以下の図表のほとんどは一見ですぐ分かるものになっている。(a)~(f)では、データは点で示されており、モデルの軌跡は曲線によって表されている。興味深いのは、下段部分〔(g)~(i)〕だ。パネル(g)におけるbeta(t)は、病気の伝染率が、ロックダウンに対してどう反応したのかを表している。最初は0.3前後と極めて高く、これは感染者数が毎日30%増えていたことが意味されている。3月15日以降は0.1に低下し、その後は増減はあるものの徐々に減少して半分になっている。(h)のdelta(t)は、死亡率だ。これについては少し後に言及する。最も興味深いは、(i)のr(t)である。これは指数関数的増加率である。伝染を沈静化に持ち込むには、これを0以下にすることが目標となっている。デンマークは4月15日にこれを達成している。これは良いニュースだ。
では、スウェーデンを見てみよう。
スウェーデンの動態はデンマークと驚くほど似ている。3月15日には伝染率beta(t)が急速に低下している。しかし、デンマークほど深く低下していない。その後も伝染率beta(t)は低下を続けたが、やはりデンマークと比べてみればゆっくりしたものだった。結果、病気の指数関数的な増加率はものすご~くゆっくりとゼロ水準に低下し、丁度昨日ゼロに到達している(このゼロが継続するかどうかはまだ分からない)。
従って、予想されていたほど明確ではないにしても、判決は明確に思える。デンマークのアプローチは明らかに効果を挙げ、伝染を急速に収束させている。しかしながら、スウェーデンも私が予測していたほど悲惨なことにはなっていない。よくわからないが、スウェーデンはロックダウンをすることなく、感染率を低下させているのだ。
次に、死亡率を見てみよう。以下は、人口内の感染率と感染死亡者割合の2つの処理を合成した10万人当たりの死亡率〔訳注:その国の一般国民が10万当たりコロナで何人死んでいるかの割合〕ではないことに注意してほしい。以下は、後者の感染者の死亡率である。
驚くべきことに、4月のほとんど間、スウェーデンのコロナウィルス患者は、デンマークの2倍近い割合で死亡していることが分かる。蓋然性が高い説明は以下で行うが、スウェーデンとデンマークの10万人当たりの死亡率の違いに非常に大きく寄与しているものがこれ〔以下で行う説明〕であることは明確である。
私は、ロックダウンが賢明であることへの明確な裏付けを論証することを期待して一連の分析を始めた。コロナウィルスのパンデミックを制御する現状での最良の手段として、包括的なシャットダウンを、疑問の余地なく強く支持し続けている。個人的に支持しているのが、長期的な問題解決のために、今は激しい痛みに無条件に耐えるべきである、というものだ。この理念に沿って、コロナウィルスを絶命に追い込むべきである、と私は考えている。
しかしながら、科学においては、個人的な好き嫌いに基づいた支持は脇に置いておく必要がある。スウェーデンとデンマークを比較を行えば、無視できない複雑性が隠されていることが発覚した。死亡率delta(t)の違いに話を戻そう。もし〔この死亡率データが〕事実なら、その場合、包括的なロックダウンの根拠は弱まることになる。ただ一方で、スウェーデンは、ウイルスに対して人口当たりでは相当に低い検査を行っている。スウェーデンにおける死亡率の上昇は、〔検査確認できていない〕未知の感染者が多いことの結果かもしれない? これらは、様々な複雑性があり、解決が必要だ。
〔以下コメント欄より〕
2020年5月5日 スコット・ノヴァク曰く:
「死亡率delta(t)の違いに話を戻そう。もし〔この死亡率データ〕が事実なら、その場合は、包括的なロックダウンの根拠は弱まることになる」これついてです。スウェーデンはロックダウンをしなかったし、死亡率も高いんですよね。なのに、包括的なロックダウンの根拠が弱くなる、とはどういうことですか? 意味が分かりません。
2020年5月5日 ピーター・ターチン曰く:
全ての違いがdelta(t)にあるという極端な(理論的)シナリオを仮定してみてほしい。そうすれば、ロックダウンは役に立っていないことが意味される。すると、代わりにすべきは、患者の死亡率を減らすために、効果的な治療を行うことになる。