ポール・クルーグマン「にっちもさっちもいかないアメリカの道路」

Paul Krugman, “An American Road to Nowhere,” Krugman & Co., May 2, 2014. [“The Folly of Prudence,” April 29, 2014 / “A Monetary Puzzle,” April 28, 2014. ]


にっちもさっちもいかないアメリカの道路

by ポール・クルーグマン

Jim Wilson/The New York Times Syndicate
Jim Wilson/The New York Times Syndicate

アメリカの道路は,多くがかなりひどい状態になってる――先週,家族の用事でニュージャージーからマサチューセッツまで車で往復してみた経験で,これは証言できる.この事実を,その下地にあるマクロ経済状況と組み合わせてみると(マクロ経済の話はこのあとすぐ),道路修復にかなりの金額を支出すべきって主張は当たり前に思える.

さて,オバマ大統領は先日,実際にはそこそこでしかないインフラ整備プログラムを提案した――道路修復と交通機関の更新に4年で3020億ドルかけるってプログラムだ.でも,これはにっちもさっちもいかなそうだ.どうやってそのお金を払うのかって点で論争があるおかげでね.

この話が,2008年にはじまっていまも続いてることにつながる.流動性の罠にはまってるとき,美徳は悪徳に,賢慮は愚昧になってしまうんだ.インフラ整備にどうやってお金を出すのかって問うと,いかにも賢そうに聞こえるよね.でも,実はそいつは根っこから愚劣なんだよ.

こう考えて見よう:みんなの道路を修復する真のコストは,どんなものだろう? 道路修復をやっても,べつに他の投資から資本をそっちに流すことにはならない――その分の資本は,他に行き先なんてないし,市場はいま事実上,「資本を借りてそいつを使ってくれ」と連邦政府に懇願してる.〔参考:10年物インフレ連動債の金利

それに,他の用途から労働者を移すことにもならない.建設労働者のあいだでは,失業率はいまも高いままになってる.〔参考

というわけで,このお金を支出 *しない* 方がひどく無責任だし,財源について気にするのはおろかなんだよ.

でも,明らかに,ぼくらは5年以上にわたる不況下の経済学からなーんにも学んでないのよね.

© The New York Times News Service


金融のパズル

まあ,クルーグマンが当惑してやがると潤色するのはご勝手に.イングランド銀行が最近だしたペーパー (pdf) を触れ回ってる人は大勢みかけた.経済の斬新な見方を提供して銀行がお金を創出する方法がそのペーパーの主題だ.でも,それって経済学者のジェイムズ・トービンが50年前に書いたこと (pdf) となにか食い違ってるようには見えない――それどころか,イングランド銀行ペーパーはトービンの研究をあちこちで引用してる.ぼくはこれまでいつだってお金についてはトービン式の観点で考えてきた.もっとも,ぼくはときどき短縮した書き方をしているんで,文脈を抜きに読むと誤読されかねないんだけどね.同じことは,多くの経済学者にも当てはまる.

さらに,トービンの洞察でとくに大事なのは――これは完全にイングランド銀行の分析と整合するんだけど――こんなことだ:たしかに,経済学の入門講義で描き出されるお金の貸し出しマシーンなんかよりも銀行はもっとややこしい生き物にはちがいないけど,だからって,銀行には無制限にお金をつくりだす能力があるってこともないし,銀行が経済学の通常のルールの適用外にあるってこともない.

金融を現実に忠実に考えてるつもりでいつのまにか金融を神秘化しないようにご注意を.

© The New York Times News Service

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  1. what would the true costs be of repairing our roads? は「道を補修して誰が損をすると言うんだ。インフラ整備は真っ先にすべきなのに費用の捻出でもめるなんて馬鹿げている」という意味だね。

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