Paul Krugman, “Redefining The Middle Class,” Krugman & Co., February 7, 2014. [“The Realities of Class Begin To Sink In,” January 27, 2014]
中流階級を再定義する
by ポール・クルーグマン
アメリカにはおかしなことがあれこれある.その1つは,長らく見られる傾向として,自分のことを中流階級だと考えてる人たちがとてつもなく広範囲にまたがっている点だ――そして,彼らは自分を欺いている.国際的な基準にてらせば貧困者ってことになるはずの低賃金労働者たちは,中央値の半分を下回る所得でありながらも,自分たちは中の下にあたる階層だと考えている.その一方で,中央値の4倍や5倍の所得をもつ人たちは,自分たちのことをせいぜい中の上にあたる階層だと考えてたりする.
でも,これはいま変わりつつあるのかもしれない.新しい Pew 調査 (pdf) によれば,下層階級を自認する人たちの数は急増してきてるし,それほど急増ではないまでも,中の下を自認する人たちの数もいくらか増えている.そのため,現時点で,「下層」のいろんな範疇を合計した数字は,いまや人口の過半数に迫っている――正確に言うと,えっとね,47パーセントに近い〔グラフはこちら〕.
これは,とても大きな変化だとぼくは思う.1970年代以来の貧困の政治は,「貧乏人ってのは『連中』のことだ,俺たち働き者のホンモノのアメリカ人とはちがう」という世間の思い込みに立脚してきた.この思い込みは,数十年にわたって現実との接点をなくしている――ところがいまになって,これが現実味を帯びて来ちゃっているらしい.ただ,このことが意味するのは,「人格の欠陥が貧困の理由だ」「貧困対策プログラムは生活をあまりに安逸にしてしまうのでダメだ」と主張する保守派たちが語りかけている有権者たちは,その多数が,自分もセーフティネットの助けをときに必要とする人間の1人と認識してる『連中とはちがう』さんたちだってことだ.
でも,まだまだ先は長い.86パーセンタイルのアメリカ人のみんなへ:「自分は中の上だ」と思ってるなら,キミはホントに見当違いをやらかしてるからね.
© The New York Times News Service
「お金と階級」
上記の議論の発端になったのは,〔読者から寄せられた〕予想どおりの反応だ.そうした反応は2つの項目に分けられる:(1) 「でもあいつらだって携帯もってるじゃん!」派と,(2) 「ふるまい方の問題であって持ち金がいくらあるかって問題じゃないよ」派,この2つ.
どちらに対しても,こう言っておきたい.中流階級であることについて語るときには,その地位の属性で決定的に大事なやつを2つ,念頭に置くべし:安全と機会だ.
ここで言う「安全」とは,人生にありがちな緊急事態がいざ起きてしまってもそれでどん底に転落しなくてすむだけの十分な資源と支えのことだ.つまり,それなりの健康保険にかかっていて,ほどよく安定した雇用があって,さらに,自動車やボイラーの買い換えが危機にならないだけの十分な金融資産をもっているってこと.
また,ここで言う「機会」とは,主に,自分の子供にいい教育を受けさせたり就職の見通しを与えられること,なすべきことをやってあげられないせいで子供たちにドアが閉ざされるような思いをさせないですむことを指す.
こういう安全や機会をもちあわせていないなら,キミがおくってるのは中流の生活じゃあない.車を1台もっていたり,アメリカ人の大半がほんとに中流だった時代には出回ってなかった電子ガジェットをいくらかもっていたりしても,キミのふるまい方がどんなにていねいで厳格で賢明であっても,安全と機会がないなら中流じゃない.
さて,Pew 調査 (pdf) によれば,2008年のはじめ頃には,自分のことを下層階級だと考えるアメリカ人はたった6パーセントしかいなかったし――正式な貧困率をはるかに下回ってる!――それに,上流階級だと考えてたのはたった2パーセントで,「わかりません」は1パーセントだった.つまり,アメリカ人の91パーセントは――大雑把に言って,所得が1万5千ドルから25万ドルのあいだに位置する人たちは――自分のことを中流だと考えていたわけだ.そして,そういう人たちの大半は間違っていた.
健康保険を考えて見るといい:貧困ラインより大幅に上に位置するアメリカ人の多くは,つい最近まで保険未加入だったか,いまも未加入だったりする.それに,保険適用を失うリスクを抱えていた人はもっとたくさんいた.
ということは,ぼくに言わせると,それだけでも彼らは中流じゃないってことになる.低賃金労働者の多く,もしかすると大半は,金融資産なんてほとんど持ち合わせていないし,退職プランその他もない.
じゃあ,機会の方はどうだろう? アメリカの公立学校の品質は低いのから高いのまで幅広い.そして,低所得の家族は,いい学区に住むお金を出せない.公的機関への援助金が減ったことで,大学教育は前よりはるかに受けにくくなっている.家計の所得しだいで,大学を卒業する確率は劇的にちがっている.
なんならもっと続けてもいいけど,これだけ見れば(そして,生活の現実的な諸事情がちょっとでもわかってれば),もう明らかだよね.多くのアメリカ人は――ほぼ確実に,大多数は――ぼくらみんながよく知ってる中流階級の生活に必要な条件を満たせていない.
要点は,もしぼくらが選択するなら,中流階級のあり方に必要不可欠なものをほぼすべてのアメリカ人に保証できるってことだ.他の先進国がやってるようにね.国民皆健康保険はあって当然だ.その当たり前に向かって,ぼくらはようやくおずおずと一歩進みつつあるけれど,右派はヒステリーを起こしてその動きに対抗してる.他の先進国では,国民みんなにいい基本的教育と無料または安価な大学教育を利用できるようになってる.
悲しいけれど,ぼくらの中流階級崇拝,あたかもぼくらのほぼ全員があの階級の一員であるかのような思い込みこそ,ぼくらの多くが実際には中流じゃなくなってる主な理由なんだ.だからこそ,社会階級の実情が国民のあいだでどんどん認識されるようになってきてるのは,いいことだ.そういう認識が広まることで,いまはまだ見せかけしかない中流社会を実際につくりだすことに着手できる確率が増えるんだ.
© The New York Times News Service
難しいですね!
第一パラグラフ中程、
>中央値を下回る所得
は、原文では、
>incomes below half the median,
に対応するものと考えますが、これは正しくは「中央値の半分を下回る所得」ではないでしょうか。
修正しました.ありがとうございます.
ほとんどが中流の社会って汚い家庭に生まれてしまった子供にとっては、ものすごくきつい社会なんですよ。うちの親は祖父母が金持ちでしたので汚い布団を一日中敷きっぱなしにして、くだらないTVを見たり朝日新聞を読んだりして働きませんでした。便所と浴室だけでなく部屋にもナメクジやら小蝿やら変な虫だらけ、畳もカーテンもシミだらけ、父親の髪はベトベトしてフケだらけ、ブリーフは糞まみれ、臭くて臭くてたまらない。プレステもジャンプもない。読み物は朝日新聞だけ。紫のジャージを履いてミッキーマウスのトレーナーを着てダサいポシェットとかを付けている私は、いいマンションに住んでゲームでも何でも買ってもらえる同級生たちから馬鹿にされていましたね。幸せな中間層ほど性格がキツいんですよ。
うちの親みたいな人にお金をばら撒いても、無駄遣いするだけでしょうから子供は救われません。富裕な祖父母がいつも金を渡すのですが、親はいらないものばかり買っていましたから。経済社会福祉も大事ですが、すべての子供を家庭という名の強制収容所から解放することのほうが先だと思います。うちの親のように金持ちの家に育ち恵まれた環境にありながら働かない人は非難されても仕方ないですよ。逆に不幸な生い立ちのせいで貧しく立派な方は尊敬に値します。