Paul Krugman, “One Party Is United, The Other, Divided,” Krugman & Co., June 27, 2014.
[“Disciplined Democrats,” The Conscience of a Liberal, June 15, 2014.]
結束できてる党,できてない党
by ポール・クルーグマン
『ニューヨーク・タイムズ』のコラムニスト Ross Douthat その他の人たちが「民主党はヒラリー・クリントン個人の人気だけでまとまっているだけの脆弱な寄り合い所帯だ」と主張している.先日,Vox の評論家マット・イグレシアスがこうした主張をおしかえす反論を書いた.彼は正しい.ここで,ちょっとだけぼくの考えを付け加えておきたい.
イグレシアスが書いているように,民主党は政策が際だってまとまっている.彼らは,医療改革を撤回させまいと望んでいる.彼らは,金融改革を維持したいと望んでいる(ただし,なかにはこれをもっと推し進めたいという人たちもいる).また,彼らは,気候変動への対策をとりたいと望んでいる.たしかに,移民については見解の相違もあるかもしれない.でも,それだって大半は内心で考えているだけのことで,政党を二分する議論じゃあない.
こうして政策の結束は,オバマ大統領がこうした目標で穏当な成功をおさめたことで助けられている.もしもオバマ氏がやすやすと成功していたなら,民主党はもっと急進的な行動を望む派とそんなに事を急がない派に分かれていたかもしれない.また,オバマ氏が完全に失敗していたなら,党はリベラル派と共和党ちっくな派に分かれていたかもしれない(ちょうど,過去30年にわたってそうだったように).でも,実際には,オバマ氏はこれまで何世代にもわたって民主党員たちが追求してきたことをたくさん達成したものの,焦土戦術的な反対による多大な困難は避けて通れなかった.
これによって,「民主党内の民主党派」ともっと大企業寄りの派の対立は比較的に静まることになった:リベラル派は,オバマ氏がやれるかぎりのことをほぼやってきたことを承知しているし,実際にできあがった政策があまりリベラルでない派を怖じ気づかせるたぐいの政策じゃないことも知っている.
この数年,ウォール街で怒りが爆発してきたことも,独特なかたちで民主党が結束する助けになった.これまで民主党議員を支援していいた銀行家たちは,オバマ氏が自分たちのことをあざけっていやがると泣き言を言いながら共和党議員に支援を切り替えた.このおかげで,民主党に及ぼす彼らの影響力は減った.そして,あとに残った人たちの間では,規制と税制に関する現実的な合意ができている.
個々人の資質がここでどれくらいものを言うだろう? 大して多くはないね.なんといっても,オバマ氏はヒラリー・クリントンの医療改革プランを実現したし,もし次期大統領に選ばれたとして,クリントン女史はオバマ氏の残した業績を継続していくだろう.民主党は政策でまとまっているから誰か個人を中心に結集しようとしてるんであって,その逆じゃあない.
というか,ヒーローが必要なのは共和党の方だ.振り返ってみると,共和党は自分たちで思っていた以上にジョージ・W・ブッシュ大統領を必要としていた:ブッシュ大統領は,政策では金権主義者どもへの忠誠を尽くす一方で,有権者の支持層に好まれる人柄を持ち合わせていた.この組み合わせは,他のどの共和党議員にもできない芸当だった.
世の中,なにがどうなるかわからないものだ.2016年に景気後退が起これば,どの共和党議員かはともかく,誰か共和党議員をホワイトハウスに放り込んでしまうことにもなりかねない.でも,民主党の結束とちがって,共和党の結束は脆弱だ.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
ヒラリー・クリントンは結束の要か
by ショーン・トレイナー
元大統領夫人にして上院議員・国務長官のヒラリー・クリントンが,2016年の民主党大統領候補を予想する投票で圧倒的な首位になった.
各種の調査はすべて一貫して,民主党では他のどの人物よりも彼女がぬきんでていることを示している――「他の人物」には,副大統領ジョー・バイデンのような大物政治家も含まれる.その差は,50パーセント・ポイント以上だ.クリントン女史は公式に出馬を表明していないものの,彼女が選挙に打って出る見込みは非常に大きいと考えるアナリストは多い.
2008年に,クリントン女史は民主党の大統領選指名候補に当選する一歩手前までいったが,当時上院議員だったバラク・オバマと予備選挙で長らく争ったあとのゴタゴタに苦しめられてしまった.
近頃では,政治アナリストのなかには,2008年にオバマ氏の反乱を支援した人たちも含めて,民主党支援者は指名候補選出で戦いがまたしても長引くのを避けたいと思っていてクリントン女史で結集しはじめていると主張する人たちがいる.
オバマ大統領の政治活動委員会 “Priorities USA Action” は,今年,クリントン女史と協調することを公表した.また,オバマ氏の選挙陣営や資金調達スタッフのなかにも,最近になって,クリントン女史のきたるべき立候補を支援することにした人たちも数名いる.
保守系の評論家のなかには,「クリントン女史の人気だけが民主党をまとめているのではないか」と言う人たちもいる.
これに応えて,今月,評論家マシュー・イグレシアスは Vox でこう論じた――民主党のまとまりはクリントン陣営のまとまりよりも深いところにある.「反クリントン陣営をまとめあげるのは不可能だ.なぜなら,一体となった民主党員を引き裂く係争点などないのだから」と彼は述べる.
イグレシアスはさらにこう続けている:「もし予想に反してクリントンが出馬を拒否したら,誰か他の人物(ジョー・バイデンかもしれないし,マーティン・オマリーかもしれない)がその空席を埋めてクリントンと同様の政治アジェンダを掲げて党を率いるだろう.」
© The New York Times News Service