Mark Thoma, ‘Did Socialism Keep Capitalism Equal?’ (Economist’s View, Saturday, August 22, 2015)
Branko Milanovic曰く:
社会主義は資本主義の格差化を防いだ?: 興味深いアイデアなので、今後はさらに広く知られて行く事と思います。アイデア自体は単純なもので、社会主義というイデオロギー (私有財産制の廃止) の存在、及びソビエト連邦並びにその他共産主義国家で見られたその実体化には、資本主義国家を思慮深くさせる効果があった、というものです。つまり資本家達は知ったのです、度を越して酷使すれば、労働者も報復措置に訴え出るかもしれず、そうなれば資本家達の側も全てを失う結果と成るかも知れないという事を。
さてこのアイデアの出歴ですが、富裕な資本主義諸国は大体1920年代から80年代にかけて目覚ましい格差解消の一時期を経験したのですが、続く1980年代以降、単純なクズネッツ曲線が示唆するところとは裏腹に、格差の拡大を見た事、この事実に由来しています。偶然にも1980年代の転換期は、 (1) スキル偏向型テクノロジーの進歩の加速、 (2) いっそうの進展を見せたグローバル化、及び中国人労働者のグローバル労働市場への参入、 (3) 富裕層優遇を指向した政策変更 (減税)、(4) 労働組合の低調、そして (5) イデオロギーとしての共産主義の終焉、こういった出来事と時期を同じくしています。ですから、これら5つのファクターの何れによっても、富裕な資本主義諸国での格差拡大を説明する事は可能なのですね。
この社会主義者側の解釈は最近2つの論文から支援を受けました。…
私自身は、本解釈が単独で西欧諸国での格差縮小を説明し得るものであるのか未だ分かりませんし、他にも合衆国ではヨーロッパよりもこの種の解釈を耳にするのが少ないのは確かな事です。それは合衆国が自国は共産主義のウィルスに対して十分な守りがあると信じているからなのです (尤も1920年代の弾圧や、1950年代のマッカーシズムに目を向けるならば、それ程確かな心持にはなれませんが)。しかし、最近Solowが資本家・労総者間の力関係の変化に言及しましたが (デトロイト条約の終了) – 彼はこれをもって格差拡大の新時代への突入となるとしているのです -、これも本稿で取り上げているアイデアと符合しているといえない訳ではないのです。最近或るイタリア人上級外交官と話をする機会があったのですが、彼はこういった文献の存在を全く知らなかったのにも関わらず、近頃のイタリアで起きた格差拡大の原因を次のように説いてくれたのです。「1970年代の当時は、資本家もイタリア共産党を恐れていました」。ですから私の考えでは、確かに何かがこの … 解釈には在るのです。
勿論、示唆されている事態はあまり好ましいものではありません。つまり、思うが儘に力を振るう事を許され、しかも対抗勢力が一切不在となれば、資本主義はこれからも高度の格差を生み出し続け、合衆国でさえも見る間に南アフリカの様な状態になってしまうかもしれない、という訳です。しかし私の意見が異なるのもこの点なのです。私が考えるに、長期的視点に立てば、何か、格差の縮小に向かうような力の流れも存在するはずなのです (。そしてそれは共産主義の復活ではないと思われるのです)。