ラルス・クリステンセン 「政策当局者を蝕む二つの害毒 ~『デフレマニア』と『清算主義フィーバー』~」(2011年10月21日)

●Lars Christensen, “Our Monetary ills Laid to Puritanism”(The Market Monetarist, October 21, 2011)


ダグラス・アーウィン(Douglas Irwin)の心遣いに、またもやお世話になってしまった。1931年11月1日付のニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたとある記事をわざわざ送り届けてくれたのだ。この記事では、グスタフ・カッセル(Gustav Cassel)――スウェーデン出身の経済学者で、貨幣理論の偉大なる専門家――の金融政策観が知れてそれだけでも大変興味深いが、それに加えて、金融政策当局者の思考を蝕(むしば)む大いなる害毒――カッセルはそれを「ピューリタニズム」と呼んでいる――についても触れられている。「カルヴァン主義経済学」に関するエントリー〔拙訳はこちら〕を執筆していた時には、この記事の存在は当然知らなかったのだが、どうやら私はカッセルと随分似た考えに辿り着いていたようだ。

ちなみに、この記事は、スウェーデンで発行されていた保守系の日刊新聞スヴェンスカ・ダーグブラーデット紙(現在も刊行中)に掲載された記事を参照して書かれているとのこと。

カッセルは、記事の中で、1930年代初頭にアメリカで行き過ぎた金融引き締めが生じた理由として、政策当局者の思考を蝕む2つの害毒の存在を挙げている。その2つの害毒とは、「デフレマニア」(“deflation mania”)と、「清算主義フィーバー」(“liquidation fever”)。

カッセル教授は、次のように語っている。「このような事態の成り行きの根底には、心理学的な要因が控えているが、・・・(略)・・・アメリカ流のピューリタニズムと関わりがあることは疑いない。ピューリタニズムと関わりを持つそのような(心理学的な)要因は、投機という悪魔的な所業に道徳的な懲罰を加えるために、ありとあらゆる力を結集する働きをしている。ピューリタニズムの後ろ盾を得た金融緩和反対論――『金融緩和は、投機という悪魔的な所業に新たに息を吹き込む恐れがある』――によって金融緩和への恐怖が煽られ、そのせいでデフレの危険性を警告する声がかき消されてしまっているのだ」。

バブルやインフレを恐れる今日の政策当局者の姿がそっくりそのまま描き出されているようで、何とも薄気味悪いではないか。もしもカッセルが今も生きていたとしたら、ECB(欧州中央銀行)に対してどんな言葉を投げ掛けただろうか?

おそらく、こんなコメントをしたことだろう(再び記事より引用)。

「デフレは、企業を相次いで倒産させ、多くの銀行を預金封鎖に追い込むことになるが、厳格なピューリタンにとってはそんなことは大して気にならない」。・・・(略)・・・「むしろ、肯定的に評価される。厳格なピューリタンにとっては、企業の相次ぐ倒産も、銀行の経営悪化も、投機に対する正当な罰を意味すると同時に、いかがわしい事業計画の徹底的な清算(淘汰)を意味するのだ。デフレを放っておくと、どの企業も資金を調達するのが困難になっていき、健全な企業でさえも倒産に追い込まれてしまうことになるのだが、厳格なピューリタンはそのような事実に一瞥もくれないのだ」。

カッセルが今も生きていて、世のセントラルバンカーにアドバイスをしてくれたら、なんとありがたいことか。そして、カッセルのアドバイスを世のセントラルバンカーが素直に聞き入れてくれたら、なんとありがたいことか。しかしながら、世のセントラルバンカーがピューリタンであるようなら――私流の表現を使うと、カルヴァン主義経済学の信奉者(「カルヴァン主義者」)であるようなら――、カッセルのアドバイスも右から左へ聞き流されてしまうだろう。なぜなら、ピューリタン(「カルヴァン主義者」)の望みは、悪者たる投機家たちを片っ端から罰するために、破滅と痛みを用意することにあるのだから。

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