●Lars Christensen, “The economics of airport security – the case of Poland”(The Market Monetarist, June 4, 2013)
私は今、(ポーランドにある)ワルシャワ・ショパン空港にいる。このエントリーもワルシャワ・ショパン空港で書いているわけだ。過去10年に限っていえば、世界中のどの空港よりも、ここ(ワルシャワ・ショパン空港)で過ごした時間が一番長い。この10年の間にここも随分変わったが、その変わり様は、ポーランド経済の変貌を色んな意味でなぞっているように思えてくるものだ。
空港は、その国を映す鏡。色んな意味でそう言えるだろう。空港は、その国の経済、社会、文化の軌跡を物語る語り部なのだ。
今日のことだ。ワルシャワ・ショパン空港に到着して、非常に嬉しい驚きに見舞われた。ポーランド経済の今後の長期的な成長見通しについて、大いに楽観させてくれるような驚きだ。
その驚きの源となったものとは何か? ワルシャワ・ショパン空港の一部の様子が変わっていたのだ。至ってシンプルだが、私には極めて重要に思える変化。空港警備の様子が変わっていたのだ。私が記憶している範囲では、ワルシャワ・ショパン空港でセキュリティチェックを担当する保安職員は、軍人のような身なりをしていたものだ。戦闘服みたいな制服を着て、手には銃が携えられている。そんな格好だ。確か10年以上前からつい最近まで、ずっとそうだったものだ。
空港を訪れるお客様のために奉仕するのが我々の仕事。そう思って働いているようには、全然見えなかったものだ。笑顔を見せることもなければ、仕事(セキュリティチェック)の手際もすこぶる悪かったものだ。
しかし、今日はというと、軍人みたいな身なりの保安職員には一切出くわさなかった。腰が低くて、丁寧。仕事の手際もすこぶるいい。ごく普通の身なりをしている。首元には、オレンジ色のお洒落なネクタイ。そんな保安職員に出迎えられたのだ。スカンジナビアにある空港の職員みたいに見えたものだ。彼ら(ワルシャワ・ショパン空港で出くわした保安職員)は、公務員じゃなくて、民間会社の従業員なんじゃないか [1] 訳注;空港警備の業務を民間に委託している、という意味。というのが私の見立てだ(だって、笑顔まで見せていたのだ)。
フレンドリーで、着こなしもしっかりしていて、仕事の手際もいい保安職員。その代わりにいなくなったのは、強面で、怠惰で、軍人みたいな保安職員。嬉しい驚きじゃないか!
空港警備の様子から、何を学ぶことができるだろう? 長年ずっとそう自問し続けた挙句に、私なりに一つの理論に辿り着いた。軍人みたいな身なりの保安職員を抱えた空港がある国――保安職員が、空港を訪れる旅行客を、奉仕すべき「お客様」ではなく、空港の安全を脅かす「動物」のように扱っている国――というのは、経済活動の至る所に政府規制が張り巡らされている国でもある、というのがその理論だ。
こうも言い換えられるだろう。空港の保安検査場で無愛想な役人みたいな職員に出くわしたとしたら、その国で開業するには(規制が多いために)手間がかかる可能性が極めて高い。空港警備のあり様は、その国の政府規制の多寡を測る物差しになるように思われるのだ。アメリカの空港で米運輸保安庁(TSA)の職員に出くわすたびに、アメリカの長期的な成長見通しに大いに悲観的になってしまうのもそのためだ(ウクライナにしても同様)。公共部門の規模が大きいにもかかわらず、スカンジナビア諸国の経済は「順調な歩み」を続けるに違いないと私が考えるのも、この理論が後ろ盾となっている。
そんなわけで、ワルシャワ・ショパン空港で、愛想もよくて仕事の手際もいい保安職員に出迎えられた時は、嬉しい驚きを覚えたものだ。私の理論が正しいとすれば、ワルシャワ・ショパン空港の空港警備の変貌ぶりは、ポーランド経済が「成熟期」を迎えて、政府規制も緩められつつある(規制緩和が進んでいる)証拠でもある、ということになろう。朗報だ。ポーランド経済の長期的な成長見通しを上方修正しようかな。そう考えているところだ。
読者の皆さんからも、世界各国の空港警備の実態について、自らの体験を交えたご意見をお聞かせ願いたいものだ。空港警備の「愛想のよさ」と、その国での開業の容易さとの間には相関がある [2] 訳注;空港の保安職員の愛想がいいほど、その国で開業するのは簡単(手間がかからない)。という私の理論に賛同してもらえるだろうか?
(追記)空港警備の効率性(保安職員の手際の良し悪し)に関するデータを探しているのだが、知っているぞという人はいないだろうか? 誰か御存知のようなら、是非とも教えていただきたいと思う。
(追々記)ポーランド経済の直近の成長見通しについては、私はそれほど楽観的ではない。ポーランド国内の金融政策は、2012年初頭以来、かなりの引締めスタンスが続いており、その結果として、成長ペースが急減速しつつある。ポーランド経済の今後に関する私なりの予測の詳細は、こちら(pdf)を参照されたい。
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